木村カエラ @ 横浜赤レンガパーク 野外特設ステージ

2万人である。私用もあってお昼(開演の5時間前)ぐらいから、みなとみらいエリアをうろついていたのだが、そのときにはもう既に木村カエラのアーティストTシャツを着込んだ人々をちらほらと見かけた。赤レンガ倉庫と大さん橋、その向こうにはベイブリッジを望む、木村カエラのデビュー5周年記念にして初の単独野外ライブ。横浜赤レンガパークの特設ステージである。とにかくでかい。唇型のデザインをとった入場ゲートをくぐると、そこは観客エリアの最後方。ステージは遥か彼方であり、その広大な観客エリアも開演を待ちわびるオーディエンスでみっちりと埋まっている。なんだこりゃ。梶山修氏がJ-WAVEの、前説というか熱を帯びた開演前実況生放送をやっている。そしてカエラの本番10日前からの、肉声日記とでもいうべき生々しいカウントダウン・コメンタリーが流されると、いよいよステージ上にはバンドが姿を現した。

赤を基調としたデザインのサロペットを纏ったカエラが弾けるように登場し、一曲目はいきなりの燃料投下“Magic Music”だ。歌詞をちょっと変え、元のメロディさえも投げうって「みんなの笑顔がみ・た・いー!!!」とシャウトする。応じる歓声は、まるで地鳴りのようだ。入り口でオーディエンスに配布されていたうちわが、一斉に宙を泳ぐ。デビュー曲“Level 42”から“You know you love me?”とアッパーな曲が続いた。ちょうどこの時間帯は少し風が出ていて、なにしろ会場が広大なのでバンド・サウンドが若干風に流されたりもするのだが、右へ左へと軽やかなステップ・ワークを踏みながら歌うカエラは快調だ。

「みんな、KAELANDへようこそー!2万人だよ!すごい。みんなにも見せてあげたい。今日はいっぱい曲を用意してきたから、コアな曲もやるかもしれないけど、ついてきて! いい? じゃあ一旦、上がり切ろうか!」

いつも思うことだけど、ステージ上の彼女のあの底なしのバイタリティというのは、一体どこから湧き出てくるものなのだろう。例えば、デビュー以来TVの中で脱力気味のトークを見せてきた木村カエラと、ダイナミックなロック・サウンドの中でマイクを握る木村カエラというのは、ほとんど別人と言ってもいいほど隔たりがある。誰だって彼女の小さな体から迸るエネルギーを目の当たりにすればびっくりすると思うが、初めて彼女の生のステージを観てそのスイッチの切り替えっぷりに気付いた人ほど、驚きは大きくなるのだと思う。そりゃあ「今日はいっぱい曲を用意してきた」のかも知れないが、だからと言って“L.drunk”から“マスタッシュ”までの更なるアッパー系4曲を、フル・コーラスのメドレーでかますことはないだろう。もちろん、ただ歌っているだけのはずはない。“L.drunk”では曲のブレイク時に「ヨコハマー!」と叫び、“TREE CLIMBERS”ではあの印象的なハンド・クラップを煽る。

「とにかく曲を選ぶのが大変で……今回(オフィシャルHPで)《一番聴きたい曲》を募集したんだけど……なんで5千人しか投票してくれないの!? 投票してくれた人!」一斉にオーディエンスの手が挙がる。「ちょっとまてー! こんなにいないだろー!?」。姫、口元は笑いながらも、少々おかんむりである。いやしかし、5千人の投票って、決して少なくはない数字じゃないだろうか。さて、ここからは少し曲調のゆったりめな曲が続く。が、はっきり言って今回のライブのハイライトは、ここからの時間帯にあった。ドラマティックで感情の籠った歌唱を、どこまでも伸びやかに聴かせるカエラなのである。“どこ”を歌い終えると、

カエラ:「切ないねー、名曲だね。」
渡邊忍(G):「超名曲。」
カエラ:「あの人が作りました!(と渡邊を示す)」
渡邊忍(G):「カエラちゃんに歌ってもらって名曲になったんだよ。」
カエラ:「………」
渡邊忍(G):「なんか茶番みたいになってきた。」

と冗談めかしたやりとりがあったのだが、今回ばかりは100パーセント、謙遜か、照れ隠しのようにしか聞こえなくて、一瞬背筋がゾッとするような感覚さえあった。視覚的には、アッパーな曲でカエラがステージ上所狭しと跳ね回り、オーディエンスが腕を振りかざしていた方が盛り上がっているように見えるかも知れない。しかし、この時間帯はほとんどのオーディエンスが微動だにせず、カエラの歌にじっ、と聴き入っていた。動けなかった、と言ってもいい。四肢を振り回してのアクションや、あの突き抜けるような心地よいシャウトではなく、彼女の歌の中にこそ、大きなエネルギーが渦巻いていた。木村カエラという人は、こんなに掌握力のある歌を聴かせる人だったのだろうか。“Ground Control”でスクリーンに「Hey」「Hey」の文字が大写しになったとき、オーディエンスは突然我に返ったかのように、そのコールを形にするのだった。バンド・メンバーを紹介し、「ここで私の大好きな歌を2曲ほど」とカエラが告げると、またもや美しい歌が溢れ出す。“ワニと小鳥”だ。そして“Butterfly”の演奏中、彼女はふいに瞼一杯に涙を溜め、歌詞を途切れさせた。彼女がそのとき何を思っていたのかは分からない。ただ、詰まった言葉がようやくハッと気付かせてくれるぐらいに、その歌は素晴らしいものだったのだ。バンドの演奏をストップさせ、「ラララ…」と2万人のオーディエンスにメロディをシンガロングさせる。パーティ性や元気印だけではない、木村カエラという豊穣な音楽の形がそこに現れていた。

もちろん彼女がウェットな感情をいつまでも見せている筈はなく、辺りが暗くなってステージの七色の電飾が目映く点灯したというところで、ダイナミックなロック・バンド・サウンドが轟く“1115”や、自らギターを携えての“BEAT”を繰り出す。「いよいよ最後の曲です。えー!じゃなくて、バンザイし忘れてる!」と告げ、本編ラストはステージ上にダンサーを迎え入れての賑々しい“BANZAI”が繰り広げられた。

アンコールの声が幾らあがってもなかなか再登場しないな、と思いきや、会場最後方、ファミリー席の側のサブ・ステージに車で乗り付けたカエラは、ミツバチの着ぐるみを着てチビッコたちの前で“Honey B〜みつばちダンス”を踊ってみせた。会場内には無数の巨大風船が放たれ、カエラはメイン・ステージへと戻る車上で今度は“リルラ リルハ”を歌う。車の通路近辺は大変な騒ぎである。2度目のアンコールでは“Circle”で満場のタオル回しが起こり、ラストは「この曲しかないでしょう!」と“happiness!!!”。演奏が終了したそのとき、ステージ方向やや左手上空に、無数の打ち上げ花火があがった。カエラは最後にもう一度ステージ上を駆け回って3度、大きく頭を下げる。唇に人さし指を当て、マイク無しで「今日はみんな、どうもありがとう!!」と叫んだのだった。いつもの、ステージ上の最小最強生物、木村カエラの姿であった。

彼女がこれまでステージ上で見せてきたその圧倒的なバイタリティは、彼女の根源的な表現欲求の成せる業であり、天性の資質と呼べるものだった。しかし、この日2万人が目の当たりにしたものは、彼女の表現欲求がこの5年間を費やし、彼女自身に求め、育ませてきた能力の「成果」だったのではないだろうか。ミュージシャン/シンガーとしての木村カエラは、まだ始まったばかりなのかも知れない。ステージ上で彼女自身がさらりと「まだ5周年だからね」と語っていたとおりに。(小池宏和)

1.Magic Music
2.Level 42
3.You know you love me?
4.L.drunk
5.はやる気持ち的 My World
6.TREE CLIMBERS
7.マスタッシュ
8.dolphin
9.You
10.どこ
11.Snowdome
12.Whatever are you looking for?
13.Samantha
14.Ground Control
15.ワニと小鳥
16.Butterfly
17.STARs
18.1115
19.BEAT
20.Yellow
21.BANZAI

アンコール
22.Honey B〜みつばちダンス
23.リルラ リルハ
24.Jasper

アンコール2
25.Circle
26.happiness!!!
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on