吉井和哉 @ 国立代々木競技場第一体育館

吉井和哉 @ 国立代々木競技場第一体育館 - pic by 有賀幹夫pic by 有賀幹夫
「宇宙へようこそ! 今日は最高のツアーの最終日です!」。満足気で誇らしげな表情を浮かべた吉井和哉の姿がそこにはあった。最新アルバム『VOLT』を携えて、「宇宙一周旅行」と題して行われてきた全国ツアーの最終日。8月に追加公演として決まったZeppツアーも残っているが、本編としては一旦ここで終了。吉井本人も言っていたけど、代々木第一体育館は宇宙空間を演出するにはもってこいの場所だ。外観はスペースマウンテンみたいな形だし、内観も滑らかな曲線を描く天井となだらかな客席がアリーナを囲んでいてだだっ広い宇宙の中にいるよう。それが偶然なのか、なんなのか分からないけど、ライブの完成度はいわずもがな、空間演出もこれまで以上に素晴らしいものだった。

18:14頃、会場は暗転。帯のような垂れ幕に映し出された無数の星屑とともに宇宙へ出発。ステージには2体の白いマネキンが立っていて、顔の部分がライトになっている。神秘的なギター音をバックにいよいよメンバーが登場! 今回のツアーメンバーは、ジュリアン・コリエル(G)、鶴谷崇(Key)、吉田佳史(Dr/from TRICERATOPS)、三浦淳悟(B)、日下部正則(G)、コーラスに竹元健一、SNOWの7人。そして、吉井は着物のようなものを羽織って、白ぶちのサングラス姿。黒のフライングVを握ると“ノーパン”でライブは幕を開けた。その一音を聴いただけで、鳥肌ものだ。ものすごい迫力の音圧が代々木の地底を揺らすような感覚で、沸々と涌き上がるマグマみたいな重低音が度肝を抜く。後半のプログレ・サウンドが炸裂する部分では吉井のギターが冴えに冴え渡っている! 吉井が求めてきた音はこういう音だったんだ、ということが瞬時にして分かった。そのまま“フロリダ”に雪崩れ込み、ステージは一気にショッキング・ピンクや黄色といったライトが射し込んだ。《鳴っちゃったんだよ鳴っちゃったんだよ》とギターを意気揚々とかき鳴らしながら、悦に入って歌う姿が眩しかった。

今回のツアーで、このサウンドを再現するのに肝になっていると言っても良いのが、吉田佳史のドラムだ。“Biri”のようなトライセラでもお馴染みのダンス・ビートはもちろんのこと、“HOLD ME TIGHT”のような高速ビートも全身を使って迫力満点に叩き上げ、重すぎず軽すぎず絶妙なバランスで楽曲と溶け込みあっているのが良かった。

哀愁漂うブルージーなギターが泣いた“ウォーキングマン”、音やリズムに合わせて花火のような、星の爆発のような弾ける映像が色鮮やかに彩った“ヘヴンリー”と次々と『VOLT』の楽曲が繰り出される。そして、次に吉井が取り出したのは「ピカチュウ」のおもちゃだ。それをずっと片手にし、時折鳴かせたり、弄んだりしながら妖艶に“20 GO”を歌いきった。こうして聴いているとボーカリストに徹していたYOSHII LOVINSON時代から、ギターを弾くことに目覚めボーカル&ギターという存在として「吉井和哉=バンドそのもの」になった今に至るまで、彼がソロ・アーティストとして歩んできた試行錯誤の歴史を感じずにはいられない。それを隠さずに「すべてを見て下さい」と言わんばかりに開けっ広げに今、表現している。それは、THE YELLOW MONKEY時代の名曲“ROCK STAR”が何事もなかったように、まるでソロ曲のような流れで演奏されたことが大きいと思う。もちろん、オーディエンスの盛り上がり度はテンション振り切れるものだったけど、吉井自身はそこまで特別感を煽るようなことはしていなかったし、あっけらかんとやり切ったという感じがした。これでバンド時代から現在まで、吉井和哉という一人のアーティスト、一人の人間としての本質をありのままに見せたのだと思う。

偉大な人々の死に触れて、「人間いつ死ぬか分からないから。1本1本ライブを大事にやろうと思います」と、長いキャリアを積んできた吉井だからこその重みのある言葉を残して、“SNOW”“シュレッダー”といった聴かせる曲を代々木体育館の端から端までに響き渡る歌声で届けてくれた。“ONE DAY”ではギターをかき鳴らしたその手をそのまま天井に向けて突き上げ、自信に満ちた笑顔を見せていたのが、清々しくて浄化されていくような気分になった。そして、その後に演奏された“恋の花”のオリジナル・バージョン。この曲について「先祖と繋がっていて一緒にコラボレーションしているような感覚、自分の血を鳴らしているような感覚」と話していたのだが、その瞬間に私はなんとなく《血が泣いてるんだよ》と歌うTHE YELLOW MONKEYの名盤『SICKS』の最後を飾る“人生の終わり(FOR GRANDMOTHER)”を思い出してしまった。だから、何なんだ?っていう答えはまだ見つけられないのだけれど、絶望の淵にいるように暗く深く突き刺さる言葉で歌われたこの歌は、やはり今の吉井和哉でないと人前では堂々と歌えない曲だったんではないだろうか。

本編ラストは高層ビルが立ち並ぶ夜景がバックに流れ、溶け込むように力強く“ビルマニア”で締めくくられた。そして、アンコール。いきなり「デーーーオ!」という叫びから“PHOENIX”で始まり、「まもなく地球に到着です! 宇宙はいかがでしたか?」と宇宙一周旅行がもうすぐ終わることを告げると“Shine and Eternity”で会場中がえもいわれぬ多幸感に包まれる。そして、最後はメンバー紹介なども挟みつつ、“またチャンダラ”で旅の終わりを迎え、地球に到着。「吉井和哉」という「宇宙」を巡り巡って、再びのスタート地点に到着したのだ。しかし、これで終わりかと思いきやメンバーはなかなかステージから去らない。吉井はローディーからギターを受け取り、「もう1曲やります!」と宣言。「『宇宙一周旅行』はこれで終わり。おまけだから、気持ちを切り替えてね」という前置きがあり……鳴り出した音はあのオルガンの旋律。そう、“JAM”だ。どよめく会場。バンド・サウンドで演奏される“JAM”を聴くのは本当に久々だ。思えば、吉井がTRICERATOPSと何かのイベントで初めてセッションしたのもこの“JAM”だったような気がする。そう思うと、巡り巡って今、この代々木でバンド・サウンドで“JAM”を鳴らせるのも不思議な縁だなと思う。

今回のツアーは、深くて広い宇宙の森で彷徨っていたような前作『Hummingbird in Forest of Space』から、明らかに「深くて広い宇宙=自らの存在」の謎を解いて、吉井本人が光となって私たちを導いていってくれたツアーだと思う。新たなスタートラインに立った吉井和哉からこれからも目が離せない。(阿部英理子)

1.ノーパン
2.フロリダ
3.Biri
4.HOLD ME TIGHT
5.ウォーキングマン
6.ヘヴンリー
7.20 GO
8.魔法使いジェニー
9.MUDDY WATER
10.ROCK STAR
11.SNOW
12.シュレッダー
13.ONE DAY
14.恋の花
15.TALI
16.ルビー
17.トブヨウニ
18.ビルマニア

アンコール
19.PHOENIX
20.FOR ME NOW
21.WEEKENDER
22.Shine and Eternity
23.またチャンダラ
24.JAM
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