アナログフィッシュ @ 新木場スタジオコースト

アナログフィッシュ @ 新木場スタジオコースト
アナログフィッシュ @ 新木場スタジオコースト
アナログフィッシュ @ 新木場スタジオコースト
体調を崩して08年3月にアナログフィッシュを脱退していたドラマー・斉藤州一郎が、バンドの活動10周年を記念するこの10/10のライブ・イベント『アナログフィッシュ10周年記念祭り“10×10×10”』で復帰/再加入後初のステージに立つ。単独公演でも十分に大きなトピックだが、以前から親交があった若手2バンド、Sorrys!とSISTER JETをラインナップに加えての、めでたい上に(アナログらしからぬほど:失礼)豪華な開催となった。開演時間、スタジオコーストのステージ上スクリーンには、華やかなSEとともに佐々木健太郎、下岡晃、と順に大きく名前が映し出されてメンバーが呼び込まれる。そして斉藤州一郎、の文字が浮かび上がると、ひときわ大きな歓声が上がった。笑顔で両腕を掲げて歓声に応える斉藤である。メンバーはステージからフロアに一旦降り、観客エリアの中央にどどーん、と設営された特設センター・ステージに向かった。ずいぶん思い切った、贅沢な会場の使い方である。さあ、今日1度目のアナログのパフォーマンスがスタートだ。

● アナログフィッシュ @centre stage
オーディエンスの視線が四方八方から注がれるセンター・ステージで、3人は三角形を描くようにポジションに立ち、そして互いに向き合うように構える。おお、練習中のスタジオ風景はこんな感じなのだろうか。なんかカッコイイぞ。斉藤の大きなカウントから、“白黒”の演奏をスタートさせた。こうした下岡曲で吐き出される言葉のフレーズの強さにせよ、続いての“LOW”や“確信なんかなくてもいいよ”のグルーヴィーな上にクセのあるフック満載の佐々木曲にせよ、楽曲が勢いや正確さだけではなくてバンドをひとつの生き物として捉える「呼吸」のビートを欲している。そして、互いに向き合ったステージで、斉藤は完璧にそれに応えていた。斉藤不在時の、ビッツ君こと菱谷昌弘(Dr.)と木村ひさし(Key.)を交えた綿密で奥行きのあるアレンジも新鮮で良かったが、やはりこのトライアングルが描き出す呼吸は特別だ。「なんか楽しいから、みんなポケットの中に携帯とかあったら写真とっていいよ」「ええーっ!」「次の曲だけ。ごめん、気分屋なんだ(笑)……じゃあいきますか。Do you still need BGM? 」「No,thank you!!!」。そんなコール&レスポンスから“BGM”をスタートさせ、三角形の音楽にオーディエンスを巻き込んでゆく下岡である。そして「ずっとこの曲をやるのを心待ちにしてました」と名スロー・ナンバー“出かけた”へ。アナログ本日一度目のステージはここで幕となったが、終演後、スクリーンに斉藤からの手紙が映し出される。本当はもっともっと長い文章だったのだけれど、それはこういう感じの手紙であった。「アナログフィッシュ、スタッフの皆さん、ご心配・ご迷惑をお掛けしました。今は体調もすぐれ、いつでもドラム叩けます。平成21年神無月10日 斉藤州一郎」。

● Sorrys!
クイーンの“ウィー・ウィル・ロック・ユー”に合わせて登場した3ピース、Sorrys!。個人的に初めて観たバンドだったのだけど、とにかく抑揚のメリハリ、サビの爆発力が印象的でかっこいいバンドだ。パンキッシュな曲、ヘヴィなシャッフル・ビートで転がる曲、4つ打ちビートに展開して高揚感を煽る曲と曲調はさまざまだが、何よりもその爆発力一点突破型の姿勢にこそロックを感じる。クリスピーにまくしたてるようなボーカルも交えて聴かせていたフロントマン/タカシが「何もないところから何かを生み出そうと日々悪戦苦闘しております。みんなそうかも知れないし、アナログフィッシュもそういう3人だと信じています。本当に、州一郎、お帰りなさい」。と告げていた。これからの活躍が楽しみなバンドだ。

● 『さかな道』(前編)
ライブ・パフォーマンスの合間に、アナログのバイオグラフィーを駆け足で追うスペシャル・ムービー『さかな道』が上映されていたのだけど、これがおかしかった。藤子・F・不二夫タッチのストーリー漫画に映像を交えて編集されていたのだが、漫画はキャラクター化されたメンバーがそっくりで、斉藤加入前の村まつりライブで観客がまったくいない写真とか、上京後の前衛舞踏家とのコラボレーション・ライブのシュールなVTRとかが効果的に差し込まれる。バンドに歴史ありだなあ。前編は、斉藤と出会って加入が決まり、この3人で走り出す、という頃までだった。

● SISTER JET
「上京して間もない頃に対バンして、しかも当時彼らは高校生だと知って、立ち直れなくなったバンドです」とアナログ・佐々木が紹介していたSISTER JET。“hello goodbye days”“ラブコメ”と、激スウィートにしてやたらフィジカル性の高いダンス・ポップ・チューンがどんどんオーディエンスを沸かせてゆく。11月リリース予定の作品から「ドラムのKENSUKEは小学生のときからヤマハのドラム教室に通ってて、バンド命で来たんですけど、クラブDJに彼女をとられてしまって。俺が小学4年からやってきたことは何だったんだ!と。そこで僕がブルースを作りました」と“DJ SONG”を紹介する。甘酸っぱい歌詞だけど、そう聞くと生々しいなあ。ライブでは以前からプレイされていたが、更に力強い演奏になっている。あと、ボーカル/WATARU.Sの声はスウィートなのに爆音の中からもしっかり突き抜けてくる、やはり希有で素晴らしい声だ。

● 『さかな道』(後編)
メジャー・デビュー後の躍進、突然の斉藤の病気による脱退、ドラムなしレーベルなしという状況下での活動継続の決意、ゲスト・ドラマーを招いてのアルバム制作や菱谷・木村との4ピースでの活動、そして斉藤・再加入までのストーリー。コミカルに描かれていたが、思い出と呼ぶには近い過去なので切実感が漂っていた。ラストに《二度とないきょーう♪ もどらないきのーう♪》という感傷的な歌のリフレインが流れ始める。

● アナログフィッシュ @Far-end stage
《二度とないきょーう♪ もどらないきのーう♪》のリフレインの中に現れた3人。それがそのまま下岡のボーカルによって取って代わられる。ひたすらそのリフレインが繰り返されてゆく曲だ。佐々木はネクタイ姿である。ここからの2回目のアナログのステージは、一種の無敵感すら感じさせるものになった。もちろん10周年だし斉藤・再加入でもあるのだが、未来のアナログフィッシュを指し示すステージになっているのだ。浮遊感ただよう木村のキーボード・サウンドを交えつつ、斉藤不在時のソングライティングと奥行きのあるアレンジで生み出された新曲群。音楽がただ音楽として鳴るだけで、ある種の潔癖さ・神聖さを纏ってゆく印象だ。それは高飛車な芸術臭さというのとも違って、するするっと胸の奥に染み込んでゆくものでもある。こういうアナログフィッシュというのは、一度の斉藤の脱退を反動としてこそ生み出されたものだ。「斉藤不在」は、アナログにとって決して「空白」ではなかった。新曲“Light Bright”をプレイすると、佐々木が「今日のステージが、アナログフィッシュ初のライブDVDになります!」と告知する。横から下岡が「あなたの家で『さかな道』が観れるよー」と口を挟んでいた。そして終盤戦は名曲連打、“Sayonara 90’s”のサイケなPVが、演奏するバンドのバックで流されていたのが素晴らしい。斉藤のコーラスを含めた鉄壁のハーモニーが、「3人のアナログフィッシュ」を具体的な手応えで感じさせていた。

アンコールで下岡が語る。「そこに大阪でいつも観てくれる人がいるでしょ、北海道のお客さんもいる。10年前、田舎のライブ・ハウスで対バンした子たちの顔も見えた。ここにいるみんなが、僕らの10年間の宝物です。本当にありがとう」。そして、みんなに捧げます、と最後にプレイされたのは“Life Goes On”だった。目下進行中の彼らのレコーディングでは、急ピッチで斉藤のドラム・パートが録り直されているそうだが、菱谷・木村との4人の作品も音源として残されるという。来るべき作品が、とても楽しみである。(小池宏和)

アナログフィッシュ・セットリスト

@centre stage
1.白黒ック
2.LOW
3.確信なんかなくてもいいよ
4.スピード
5.BGM
6.出かけた

@Far-end stage
1.Now
2.Hello
3.Clap Your Hands!
4.ガールフレンド
5.平行
6.TOWN
7.Light Bright
8.ダンスホール
9.アンセム
10.Sayonara 90’s
11.ハローグッバイ

アンコール
12.夕暮れ
13.Life Goes On
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