ザ・クリブス @ 赤坂BLITZ

ザ・クリブス @ 赤坂BLITZ
ザ・クリブス @ 赤坂BLITZ
ザ・クリブス @ 赤坂BLITZ
ザ・クリブス @ 赤坂BLITZ - pic by Kenji Kubopic by Kenji Kubo
今年9月にリリースした4thアルバム『イグノア・ジ・イグノラント』が、リマスター発売されたザ・ビートルズの13枚のオリジナル・アルバムと発売週が重なりながらも見事UKチャートで初登場8位を獲得したザ・クリブス。2008年の時点で彼らがQ誌から、「イギリス最大の」という形容詞つきではあるものの「カルト・バンド」として見なされていたことを考えると、この記録はやはり1つの達成と言えるだろう(クリブスの最高位はそれまで3作目『メンズ・ニーズ、ウィメンズ・ニーズ、ホワットエヴァー』の13位だった)。

だが何といっても今日からスタートする3日間の東名阪ツアーの最大の話題は、昨年秋に元ザ・スミス/現モデスト・マウスのジョニー・マーが正式加入してジャーマン3兄弟+1の4人体制になったクリブスの初来日公演だということだ。今夜がツアーの初日だが、一昨日の10月19日にはアークティック・モンキーズの武道館公演のスペシャル・ゲストとして、短いながらも4人でのステージを日本のファンたちにお披露目している(下記「関連サイト」参照)。

19時ちょうどからステージに登場したのは、ジャパンタイムズ紙のインタビューで「一緒にやってみたい」とラブコールを送っていたジョニー・マーが自らゲストに指名したというOGRE YOU ASSHOLE(彼らは結成当初からモデスト・マウスと交流があったそうだ)。30分程度のセットだったが、安定感のある、ほんの少しだけダンサブルな4ビートのリズム・セクションに、おそろしくよく練られたツイン・ギターのアンサンブルが乗せられ、エキゾチックな(異国の)というよりはエイリアンな(見知らぬ)という形容が似つかわしそうな世界がBLITZの内部に開ける。ゆっくりとタイム・スリップするような、でもその過去は自分のもののようで他人が見た夢のようでもあるような、不思議な力のある演奏だった。

そして20分後、ザ・クリブスの4人が登場。真ん中のライアンはマイクに寄り過ぎてスタンドを何度も倒しそうになっているし、後ろのロスはドラムセットに到着するなりさっそく椅子の上に立ってスネアを叩きまくるし、向かって左側ではジョニー・マーが異様な存在感を放ちながらオープニング曲“ウィー・ワー・アボーテッド”のイントロのカッティングをおもむろに始めるしで、初っ端からエネルギーの塊みたいなステージング。でも演奏に対するそんなのめり込み方がすごく真に迫っていて、一気に引き込まれる。フロアは最初ほとんど軽いパニックに襲われたような狂騒を呈していた。

2曲が終わると、ライアンが「コンニチハ、マイド、モシモシ、ボクタチクリブスデス」と変なMCで盛り上げる。この夜は客席の一部から「ジョニー」コールが起こったジョニー・マーの「アリガト」という唯一の発言も含め、ほとんど全てのMCが日本語で行われた。でもどうしてもぎこちなくて、ライアンも「コノ中ニ、昔カラノ、クリブス・ファンハ、イルカ?」と訊いた時にはどうも思っていたようにうまく言えなかったらしく(こんな長い文章、そりゃそうだと思うけど)、渋い顔をしていた。

ジョニーとライアンが背中合わせになってギターを弾いたり、ライアンとゲイリーが楽器と立ち位置を換えて演奏したり、ある曲では(まだ日程が残っているので詳細しませんが)ステージ奥のスクリーンにゲストが「登場」して共演したりと、20曲、1時間20分のセットは見所満載だった。ラストは「作るのにものすごく時間がかかった」とインタビューでライアンが話していた“シティ・オブ・バグズ”。アンコールはなしで、4人がステージを去るとすぐ会場にヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“アフター・アワーズ”が流れた。

ジョニー・マーの加入により、クリブスのサウンドは確かに厚みを増していた。だがそれ以上に、これまでどちらかと言えばボーカルに寄り添って一緒に曲を推進していく役目を果たしていたギターが2本になることで左右に振り分けられ、ボーカルとの間に距離感が生まれて、演奏に奥行きが出たような印象を受けた。

「この曲の出だしを聴けば、俺が自由に弾いてるのがわかるはず」とマーが語る新作の3曲目“ウィー・シェア・ザ・セイム・スカイズ”は今夜最高の盛り上がりを見せた曲の1つだったが、この曲のボーカルとギターが同じコード進行を共有しながらもまるでそれぞれ別個の物語を生きているように聴こえるということも、この距離感と無縁ではないだろうと思う。そしてこれらのストーリーは、ちょうど左右の目が別々に見ているものが1つの物体として捉えられるように、聴き手の中で1つの像を結び、ボーカルとギターのいずれとも異なるより立体的な第3の物語を浮かび上がらせている(これはザ・スミスが20数年前にやっていたことにかなり近接しているような気がする)。

「ジョニーは(加入したからといって)僕らのことをあまり変えたくないんだよ」とゲイリーはあるインタビューで語っていたが、ジョニー・マーは3人の兄弟たちの輪の中に入るという行為そのものによって、そこにある種の距離を持ち込み、クリブスの音楽により高い次元での統合をもたらしたのではないだろうか。大きな変化を遂げつつあるクリブスの確かな胎動を感じるライブだった。(高久聡明)
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