まず説明。この「SATURDAY NIGHT R&R SHOW」(長いので以下SNRRSと略します)、90年代の東京ロック・シーンを知る者なら、ちょっと「おおっ」となるというライブイベントなのです。何年にスタートしたのか、正確には僕も知らないが、えー、説明しづらいので固有名詞出しますね、90年代の前半、当時ぴあ編集部にいた野口さん(男前)と、当時新宿にあった日清パワーステーションというライブハウスのプロデューサーだった高橋さん(怖い)のふたりが、新人バンドのプッシュや中堅バンドの応援のために始めたシリーズ・イベントです。当然、毎回パワステでやっていて、ザ・コレクターズ&フィッシュマンズ&スピッツとか、ウルフルズとか、イエモンとか、ミッシェルとか、そんな、今思うと夢のようなすばらしいメンツが出演していたのでした。いいバンド、いいスタッフ、いいファンが揃っていて、新人にとっては「まずあそこに呼ばれるようにならないと」というのが最初の登竜門だった、とも言えます。私もよく行っていました。
で、パワステがなくなったあとも、開催ペースは下がったものの、転々と場所を変えつつ続いていたのですが、ここしばらくはお休みになっていた。それが今回、このように、「SPECIAL」という形で復活したわけです。出演は超ベテランからメジャーデビュー前の新人まで計6バンド。ひとことずつレポートしていきます。
なお、野口さんは現在ソニーグループでライブ関連の仕事をされていて、高橋さんはAXのプロデューサーです。というのもあって、今回はAXなんだと思います。
TRICERATOPS
1 FUTURE FOLDER
2 I GO WILD
3 シラフの月
4 MILK&SUGAR
5 ロケットに乗って
「『SNRRS』は、2回目。13年ぶりです」と和田唱。つまり、リアルタイムでこのイベントとパワステを知っている、ギリギリ最後の世代ということですね。最近ちょくちょくイベントで観てるんだけど、いつでもどこでも出番が先でもあとでも、もうほんと横綱相撲というか、ヨロッとしたりグラッとしたりしてるとこ、出くわしたことがありません。今日も圧巻の、緩急も硬軟も憎いくらい取り混ぜた、ひたすら気持ちいい全5曲。自在でしなやかでポップ、なのにゴツいし男っぽいし荒々しい。なんかもう、全部ある感じ、ずるいくらいかっこいい。最後のへんなんて、フロアのノリが、ほとんどワンマンみたいになっていました。
OKAMOTO’S
1 マダラ
2 恋をしようよ
3 Run Run Run
このバンドも最近よくイベントで観るけど、いつも大笑いしてしまう、痛快で。ステージの端から端まで行かないと気がすまない「3分の1の年齢のミック・ジャガー」ショウ(vo)も、ギター相手にいかがわしい行為をしているようにしか見えないコウキ(g)も、短距離走ランナーもしくは「度を超えた地団太を踏む子ども」みたいなフォームでドラムをしばきまくるレイジ(ds)も、終始爆発しっぱなし。その好き放題やりたい放題な3人をつなぎとめて曲として成立させている、えっらい腰が据わったプレイのハマ(b)が一番すごいかも。なお、2曲目は初期ルースターズのカバーですが、オリジナルの3倍くらいのBPMになっていて、これも笑えます。
黒猫チェルシー
1 タンポポ
2 地下室のTV中継
持ち時間15分で、2曲目は1分もなかったから、実質は1曲。その1曲が、なんでしょう、もうなんか、わけのわからないことになっていた。途中で渡辺大知(vo)が澤竜次(g)からギターを受け取って弾き始め、澤はドラムの岡本啓祐のところに行って替わって叩き始め、岡本は宮田岳からベースを受け取って弾き始め、というわけで宮田がボーカルに。と思ったら、その宮田が大知からギターを受け取って弾き始め、大知はドラムのところに行って……と、1周して大知がボーカルに戻るところまでやりました。
なんでやったのか、どういうアピールなのか、全っ然わからなかった。たぶん、ただ単に、やりたかったんだと思います。
THE PRIVATES
1 FREAK BEAT
2 OH! STUPID
3 I’M A FOG FOR YOU BABY
4 BOOGIE A GO GO
5 iLL ATTACK
6 DRIVE ALLNIGHT
7 I NEED YOUR LOVE
『SNRRS』の常連だった超ベテラン。どれくらい超ベテランかというと、私、今41歳ですが、このバンドのライブを初めて観たの、17歳の時です。広島市民球場の裏にあった青少年文化センター、地元のバンドが集まったイベントのゲストで、既に東京インディ・シーンで人気者になっていた彼らが来たのでした。
今夜も、渋い、でも渋いだけじゃなくちゃんとはっちゃけていて勢いに満ちたロックンロールを全7曲プレイ。圧巻だったのが、4曲目“BOOGIE GO GO”。正にタイトル通りブギーな曲なんだけど、ステージの照明をすべて消してホールの中はまっ暗、という状態で、5分くらいにわたり延々と演奏。いつまでこのままやるんだろ、何も見えないなあ、これ今日初めて観るお客さんたちどう思うんだろう……とか思いながら聴いていたんだけど、その曲が終わって照明が点いた瞬間、フロア、大爆発しました。で、そのまま激アガリ状態でラストまでいきました。びっくりした。
チャットモンチー
1 手の中の残り日
2 Last Love Letter
3 ひとりだけ
4 親知らず
5 風吹けば恋
6 新曲
最初のMCで晃子が「チャットモンチー、『SNRRS』、日清パワーステーション、初めてです!」という気の利いたひとこと。実は今年になって初めてのライブだそうで、そして来月はアメリカ・ツアーに行くそうで、その前にこうして1本、日本のみなさんに会えてよかった、というようなことをおっしゃっていました。
確かに、本来ライブやってる時期ではないことがうかがえるような、プレイのラフさは正直あったけど、最後にやった新曲が、ちょっともう、あまりにもよかったのでよしとします。リズム・アレンジがやや新境地、そして「チャットモンチーのキラーチューン」の王道をいくグッド・メロディ、シンプルなのに深い歌詞。何これ。でも、リリースも何も決まっていなくて、ただできたのでやってみた、とのことでした。
フラワーカンパニーズ
1 ロックンロール・スターダスト
2 はぐれ者讃歌
3 元少年の歌
4 深夜高速
5 脳内百景
6 真冬の盆踊り
PRIVATESと同じく『SNRRS』の常連であり、パワステに最もお世話になった世代のバンドでもあるフラカンが、トリ。であることを最初に知った時は、「あっちゃあ」と思った。なあんでトリ引き受けちゃったかなあ。みんな帰っちゃうよ、チャットモンチーが終わったら。フロア、半分くらいになっちゃうだろうなあ。せめて3分の2は残るといいなあ。とか思っても、他のバンドだったら絶対書かないけど、フラカンだと平気で書くのは、私が親しいがゆえでしょうか。それとも無神経であるがゆえでしょうか。
しかし。信じられないことに、フラカンの出番になっても、満員のままだった。で、超盛り上がっていた。“深夜高速”のイントロが鳴ると、フロアが「おおっ!」とどよめくし、ラストの“真冬の盆踊り”の時など、もう2Fまでみんな両腕が上がる上がる。つまり、どうやら、そういうバンドとしてロック・ファンに認識されているらしいということです、今のフラカンは。ちょっとびっくり。
なお、3曲目にやった新曲は、3月31日リリースのニューシングル。フラカン史上初の映画の主題歌だそうです(『誘拐ラプソディー』、4月3日より公開)。というのもめでたいことだけど、それ以上になんせ、曲が驚くほどいい。過去の曲でいうと“元気ですか”系列の曲調、しかも歌詞がやたらぐっとくる上に、フレーズや言い回しがうまい。
フラカンって「シングルらしいシングルを書けない」という大弱点があるんだけど、この曲、6年ぶりくらいの「ちゃんとシングル」な曲だ。つまり、“深夜高速”以来ってことです。
アンコール
1恋をしましょう (フラワーカンパニーズ&チャットモンチー)
2 Saturday Night (フラワーカンパニーズ&チャットモンチー+全出演者)
1曲目は、上記2バンドでセッション、圭介はサビしか歌わず、チャットの3人が順番に歌う。一部グレートも歌う。で、続く2曲目は、ベイ・シティ・ローラーズの70年代の大ヒット曲のカバー。圭介の呼び込みで、全出演バンドのボーカルが登場、演奏が始まったらその他のメンバーたちも登場、楽しくにぎやかにイベントが幕を閉じました。
というわけで、フラカン鈴木圭介の、MCにおけるしゃべりすぎ以外は、大満足な一夜でした。
この場を借りて注意しときます。鈴木くん。「ウケてる間にさっとやめる」。これがMCの鉄則です。ウケると気持ちよくなっちゃって、もっとウケたいがためにしゃべり続けて、ウケなくなってからようやくやめる、というきみのその習性によって、お客さんもメンバーもスタッフもきみ自身も、全員がまんべんなく損しています。改めるように。
特に今日は、チャットの絵莉子がちょっとどうかと思うくらいウケてたから、よけい喜んじゃったんだと思う。甘やかさないでください。本人のためになりません。(兵庫慎司)
SATURDAY NIGHT R&R SHOW 2010 ~SPECIAL @ SHIBUYA-AX
2010.02.28