暗転したホールに、沸々としたエネルギーを押さえつけるかのようなバンドの演奏と、そして独白とも祈りともつかない山田の言葉が這う。《一瞬のまやかしじゃない/永遠の安らぎをどうか下さい》。ステージ本編でTHE BACK HORNが描き出そうとするものへとゆっくり招き入れ、そして次第次第に抗い難いエネルギーの沸騰へと導くような、とてもドラマティックで説明的なオープニングだ。今年2月から4月にかけての、凄絶な対バン・ツアー『KYO-MEI大会』を経て、横浜と大阪で行われる『KYO-MEI ワンマンホールライブ~メビウス戦線異状アリ~』。ステージ上の4人の背後には、その壮大なスケールのイメージを象徴するように、銀河を模したような電飾が煌めいていた。
「アルバムのツアーでもなく、フェスでもなく、久々のワンマンなので、いろんな曲をやりたいと思います」という松田(Dr.)の言葉どおり、今回の公演は4月リリースのシングル『戦う君よ』の収録曲を絡めながら、バックホーンのキャリアの中でもとりわけ濃く、強いインパクトの名曲群がズラリと並ぶステージになった。一曲一曲のイントロがホール内に響き渡る度に、オーディエンスの大きな歓声が沸き上がっていた光景がなんとも印象的だ。
半ばコミカルに悲しい物語を紡いでゆく“パラノイア”があれば、唐突に岡峰の強烈なベース・ラインがリードするカオティックなバンド・アンサンブル“ジョーカー”が差し込まれる。まるで『KYO-MEI大会』で培われた、一音一音がすべて爆発物であるかのような対バン・モードのサウンドが、今度はオーディエンスに対して無差別に打ち込まれるようだ。平日にも関わらず座席がすべて埋まって立ち見チケットまで発売されたカナケン(松田が神奈川県民ホールのことをそう呼んでいた)が、バックホーンの深部と強度を曝け出す舞台と化していた。とりわけ変態的なコンビネーションが確信のサウンドで放たれる序盤は、あまりの凄まじさに身じろぎすらできないような、強引な説得力を見せつける代物であった。
「歌詞集(『生と死と詞』)を出したときに、インディース時代からの曲を数えてみたら124曲あったんですけど、ほんと、自分たちの財産だと思って。それをこうして、皆さんの空気を吸って、また新しい気持ちでやれたら、と思います。『メビウス』っていうのは、そういう無限に続く循環のことを意味しています」。そう語る松田であった。ワンマン公演ということで他のメンバーにもMCを振るのだが、菅波(G.)は「七夕の願い事は、笹の葉に書くよね」だの「ステージで水を飲むときは正面向いて飲め、って母ちゃんにダメ出しされた」だのと言っている。深く優れた歌詞をたくさん書いてきたくせに、なんで喋りとなるとこうなのだろうか。
ここでエネルギーが渦を巻く混沌としたムードは一転、今の季節に奇麗にフィットする叙情詩“夏草の揺れる丘”、そして山田のメロディカの旋律が浮かび上がる“ヘッドフォンチルドレン”と、物語を聴かせて巻き込むバックホーンのポップ・サイドが展開されていった。徐々に徐々に、エネルギーの向かうベクトルが定められてゆく。そして終盤戦は、座席制のホール内が大きくうねる、終わりなき絶頂のナンバー連打だ。まだ9日の大阪公演を控えているので詳細は控えなければならないが、このセット・リストは凄い。書きたい。松田は「『KYO-MEI大会』で対バンして、また自分たちの濃い部分が欲しくなった」とも語っていたが、まさにそれが描き出されたステージになったと思う。アンコールでは更に、劇場版『ガンダム00』の主題歌でもある8月4日リリースのニュー・シングル『閉ざされた世界』も披露された。これはディープで壮大な、しかもバックホーンらしい名曲だ。実に濃密なステージであった。
なお今回、10月から始まるバックホーンの新たな全国ツアーが発表されている。彼らのオフィシャルHPでも全25公演についての情報が公開されているので、そちらもぜひチェックして頂きたい(小池宏和)
THE BACK HORN@神奈川県民ホール
2010.07.06