どういうイベントかは説明の必要がない気もするが、一応。そもそも、この、志村正彦の地元であり、志村が奥田民生のライブを観てミュージシャンを志すようになった場所である富士急ハイランドコニファーフォレスト、ここでフジファブリック主催のイベントをやる、というのは昨年夏あたりから企画されていて、当時bridgeでの志村と民生の対談で「来年やるから出てください」「フジファブリックがバックやるなら出てもいいよ」という話をしていたりした、そういうものでした。その後、昨年末に志村の急逝という悲しい事件があったが、でもバンドは続くしこのイベントもやる、ということが発表された。
で、この日となったわけです。チケットは完売、16000人がこの地に集まった。「はい、今日から真夏です!」と宣言しているみたいな、青い青い空にでかいでかい雲が広がる、いい天気。出演者とセットリストは、以下の通り。29曲目は、ニューアルバム収録の新しい曲で、ゲストなし、ギターの山内総一郎が歌いました。
最初に、前述のここでイベントをやる理由が紹介されたあと、中学時代の志村が参加しているSEがかかり、実に4時間に及ぶライブが始まりました。
SE 大地讃頌(富士吉田市立下吉田中学校 平成七年度卒業記念CDより)
奥田民生
1.桜の季節
安部コウセイ(HINTO)
2.虹
3.モノノケハカランダ
ハナレグミ
4.ダンス2000
5.ルーティーン
クボケンジ(メレンゲ)
6.バウムクーヘン
7.赤黄色の金木犀
斉藤和義
8.地平線を越えて
9.笑ってサヨナラ
ハヤシ(POLYSICS)
10.TAIFU
11.B.O.I.P
藤井フミヤ
12.タイムマシン
13.若者のすべて
氣志團
14.ダンス2000
15.茜色の夕日
和田唱(TRICERATOPS)
16.Strawberry Shortcakes
17.陽炎
真心ブラザーズ
18.TEENAGER
真心ブラザーズ&スカパラホーンズ
19.線香花火
スカパラホーンズ
20.Surfer King
PUFFY
21.DOKI DOKI
22.Bye Bye
片寄明人(Great3,Chocolat & Akito)
23.花
24.サボテンレコード
吉井和哉
25.マリアとアマゾネス
26.Anthem
くるり
27.Sunny Morning
28.銀河
アンコール
29.会いに
奥田民生
30.茜色の夕日
と、親友、友人、アマチュア時代の先輩、プロになってからの先輩、志村に多大な影響を与えた大先輩、志村が曲を提供したアーティスト、フジファブリックをプロデュースした人、などなどが集まり、志村の書いた曲たちを歌った。あ、もちろんスカパラは歌ってなくてインスト・バージョンですが。あと、HINTOのギター伊東真一は、13曲目など数箇所で、ギターを弾きました。
以上です。何が「以上です」なのかというと、それぞれのアクトについてなどは、昨日自分のブログで、11回にわたって書いてしまったのでした。
(こちら → http://ro69.jp/blog/hyogo/37440)
なので、これで終わってもいいところですが、ちょっとだけ。
“銀河”をやる前に、岸田も言っていたが、とにかく、ヘンな曲を書く男だった。曲の展開、メロディの転がり方、そこへの歌詞ののっけかた、そしてその歌詞の内容そのもの、あとそれらを彩るアレンジメント全体。初めてラジオで“銀河”を聴いて、「なんじゃこりゃ?」ってびっくりした、そして好きになった、とも岸田は言っていたけど、ファンもみんな、最初はそういう感じだったんじゃないかと思う。僕もそうでした。
明るい曲でも、明るくなりきれない。團長が、“ダンス2000”をやったあとに、「歌ってみてわかったけど、こんなに軽快な四つ打ちなのに、こんなに気が晴れない曲、珍しい」と言っていたが、まさに(なお、團長によると、氣志團の“One Night Carnival”を志村が聴いて、「四つ打ち、いいっすね」って言って作ったのが“ダンス2000”だそうです。ほんとか?)。
明るい暗いでいうと、基本的に暗い。ただし、どん底までまっ暗ではない。どっか余裕があったり、どっか客観的だったり、どっかすっとんきょうだったりする──これも團長曰くだけど、「いつもきょとんとした顔」のあの志村の表情そのままの、なんというか、ユーモラスな感じが、メロディにも言葉にもサウンド・プロダクトにもある。
なんで明るくないのかというと、明るくなれるような人生じゃないからだ。じゃあ、なんでどん底までまっ暗じゃないかというと、それでは何も変わらないし、何も動きださないからだ。
つまり、現実に即した、現実のための音楽だからだ、ということだ。
そうあることを目指した結果、志村は、フジファブリックは、岸田や團長が言うように、僕もか、まあ、みんなが言うように、ヘンな音楽を生み続けた、ということだ。
しかし、そのヘンな音楽が、「志村が歌わなきゃ形にならない」ものではない、さまざまな人が歌えば歌うほどさまざまに輝く、普遍的な強さを持っていること。それを証明したのが、今日のこのステージだったと思う。
お世辞でも何でもなく、よくないゲスト、ひとりたりともいなかった。みんな、すばらしい歌だったし、すばらしいパフォーマンスだった。
唯一、吉井和哉が2曲目の最後で、涙をこらえているように見えたが(※僕にそう見えただけで、実際は違うかもしれません。違ったらごめんなさい吉井さん)、それ以外は全体に、ちょっとセンチだけどどっぷりセンチではない、むしろそこはかとない明るさが漂う、終始、いい気分に満ちたイベントだった。
「そんな暗くならないでくださいよ。楽しくやってくださいよ」って志村は言うだろうな、ということを、出演者も、お客さんもわかっているんだろうな、と思った。
志村が亡くなる前からやることが決まっていたライブだけど、結果的に、追悼イベント的な意味合いのものになった。ただ、こんな空気の、こんなふうにすばらしい追悼イベント、過去も、きっと未来も、他にないと思う。よかった、とにかく。(兵庫慎司)