ゆず@東京国際フォーラムAホール

ゆず@東京国際フォーラムAホール
ゆず@東京国際フォーラムAホール
ゆず11年ぶりの弾き語り全国ツアー『FUTATABI』。今春まで行われていた『FURUSATO』ツアーでは、『FURUSATO』というアルバムだけではない、テーマとしてのふるさとを描き出すステージだった。で、メンバー二人だけの弾き語りライブというのは、彼ら自身にとって表現活動の原点に他ならない。今回の『FUTATABI』ツアーは、『FURUSATO』ツアーによって育まれた、心の故郷に馳せる思いによって生まれた企画なのだろうな、と思っていた。実際にこの、ファイナル公演を目の当たりにするまでは。

すみません。以上に書き記した僕の個人的な憶測は、間違いでした。開演してすぐに、その事実に気付かされた。これまでツアーで廻ったことのない土地に赴いたことにせよ、とにかく『FUTATABI』ツアーは、強烈な前進の意志に支えられたツアーだった。人間だから、そりゃあ思い出はある。彼らぐらい多くの人と関わりながら10年以上のキャリアを送っていれば、それは尚更だ。でも、前進する意志があるかどうかというのは、思い出に足元を絡めとられてしまうこととは関係がない。いやむしろ、ゆずの二人に前へ前へと足を踏み出させているのは、彼らが背負う思い出であり、彼らが関わってきた人々のすべての思いなのだ。そういうことがステージから伝わる、ものすごいライブだった。

“サヨナラバス”でスタートしたパフォーマンスは、ゆずのキャリアを見渡すヒット・ナンバー連打で進められる。もちろん二人だけなので、それぞれやらなけらばならない仕事も多く大変そうではあるのだが、それでもこのクラスの大ホールで安心して観ていられるライブというのは、ゆずの地肩の強さならではだと思う。岩沢の流麗なアルペジオに合わせて、北川がオーディエンスへの感謝の気持ちを読み上げる“手紙”恒例のパフォーマンスとか、岩沢のバンジョーと北川のカズーでテクニカルにリアレンジされた“種”とか、北川が大道芸人のごとく無数のパーカッションを操り、しかも急遽マネージャー氏や事務所社長をダンサーとしてステージに迎え入れた“シュミのハバ”とか、ツアー初披露で喝采を浴びた“いちご”のカップリング・ナンバー“物語”とか、序盤からすべての曲に刮目すべきハイライト・シーンが用意されている。そして客席の照明は点けたままになっていて、オーディエンスのハンド・クラップやシンガロングも演奏の一部として完璧な役割を果たしていた。

北川はこの2日前に、九州から戻るなりそのままX JAPANのライブに向かったそうで、あの「ウィー・アー!」「X!!!」のコール&レスポンスにもろに影響されていた。「でも、ゆずでバッテンじゃなんだからさ、マルにしようか」と頭上に両腕でマルを形作ってみせる。これが今回のコール&レスポンスとして大活躍していた。合言葉はもちろん「ウィー・アー!」「ゆず!!!」である。それにしても北川、X JAPANを略称というよりむしろ当然のものとして「X」と呼んでしまうところが、なんとも筋金入りだ。ええわかります。そういう世代なんです。

「路上で曲を作って歌っていた頃は、その作っていた季節が曲に反映されるんですね。でも二人ともすぐには上手く演奏できなくて、大体半年ぐらい経つとしっくりしてきて。だから、次にやる曲は、冬の歌なんだけど、夏の思い出がたくさんあります」と“いつか”が披露される。このときようやく客電が落とされ、シンプルなステージ・セットにポツンと立てられた、彼らの故郷・横浜の街路を連想させるガス灯が煌めいていた。

小ぶりな人形ダンサーがステージに置かれ、その人形と様々なサンプラー音源を北川が一挙に操作盤で操り賑々しくプレイされた“おでかけサンバ”や“月曜日の週末”。そして演奏中にこの日誕生日を迎えたオーディエンスを尋ね、北川が駆け寄って“ハッピーバースデー”を歌うというサプライズが盛り込まれた“贈る詩”だ。まるで『世界の料理ショー』のグラハム・カーみたいな、お客様一名限定サービスである。そしてブブセラとリボンキャノンで華やかに披露された“夏色”。思いついたアイデアを片っ端から盛り込み、一瞬たりとも退屈させるか、という凄まじいパフォーマンスになっている。

「歌って、作るときはもちろん個人的な思いから始まるんだけど、それがゆずの歌になって、みんなの元に届くことでみんなの歌になって。そして、こうしてライブで分かち合うことで僕たちの歌になります。人生には本当にいろいろなことが起こるけれど、それを全部、全部、歌にして、ゆずとして届けていきたいと思います」。

震えた。改めて、なんという大きな覚悟なのだろう、と感じた。若き日の路上ライブで、オーディエンスと直に接してきた彼らにしか語れない言葉なのだろう、と思った。僕が初めてゆずを観たのは横浜・伊勢佐木町の松坂屋前で、彼らがもうかなりの数のファンを集めているときだった。以下に書くことは決してかつてのゆずを咎めるものではないし、他のあらゆる路上音楽家を批判するものでもないのだが、歌や音楽は「それを望まない人々の耳にも自然に入ってしまう」ものということなのだ。歌や音楽が誰も傷つけないというのは、幻想だと僕は思う。歌や音楽は、人の心を傷つけることも出来てしまう。放たれるメッセージやサウンドが強く効果的であるほど、それは尚更だ。だから、然るべき場所に歌や音楽を望む人を招き入れて、そこでパフォーマンスを行うという配慮は、やはり大切なのだと思う。ゆずの二人は多くの人々と関わることで、そういった歌や音楽の「怖さ」も、肌で学んできたのではないか。その上で、すべてを歌にして届ける、と言ったのだ。一曲でも多く、「僕たちの歌」を作りたいと言ったのだ。ここにはリスナーに対する信頼だけがあって甘えは欠片もない。だからいつも、過剰なまでにサービス精神に満ち溢れたパフォーマンスになる。それはむしろ、リスナーへの弛まない挑戦だ。

アンコールは圧巻の、ボーカルもギターも完全マイクレスの“栄光の架橋”から始まり、そして最後には、ツアー中にファンが書き込んだ巨大なメッセージ・フラッグのバックドロップが開いて、ただ一曲のためだけにバック・バンドが登場した。「今日でツアーは終わりだけど、終わりじゃなくて始まりの1日にしたいと思います!」と披露されたのは8月末リリースの新曲“慈愛への旅路”だ。マーチング・ビートに乗って、止まった時間を再び動かし始める力強いナンバー。これをゆずは「慈愛」と呼ぶのだ。来春には次なるアルバム・リリースと全国ツアーも予定されているらしい。覚悟に満ちた新しいゆずは、もう既に始まっているのである。(小池宏和)

セット・リスト

1.サヨナラバス
2.3カウント
3.手紙
4.恋の歌謡日
5.種
6.シュミのハバ
7.物語
8.いつか
9.飛べない鳥
10.シシカバブー
11.おでかけサンバ
12.月曜日の週末
13.贈る詩
14.夏色
15.逢いたい
16.虹

EN1.栄光の架橋
EN2.センチメンタル
EN3.シュビドゥバー
EN4.慈愛への旅路
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on