フーバスタンク @ 赤坂ブリッツ

フーバスタンク @ 赤坂ブリッツ
フーバスタンク @ 赤坂ブリッツ - pics by Kentaro Kambe pics by Kentaro Kambe
先頃、アコースティックなセルフ・カバー・アルバム『イズ・ディス・ザ・デイ?』を世界に先駆けて日本先行発売したフーバスタンク。というわけで、今回のジャパン・ツアーはこれまでとは違うアコースティック・ライブで行われることになった。昨年は3~4月に『フォーネヴァー』のツアー、そして夏にサマソニ来日があったので相変わらずの親日ぶりと言えるフーバスタンクだけれども、東京、名古屋、大阪と3夜連続の駆け足で行われる今回のツアーはソールド・アウト。さらに東京での追加公演も行われることになったという、見事な盛況ぶりである。

さて、追加で組まれた恵比寿リキッドルーム公演に続いての、赤坂ブリッツでの模様をレポートさせて頂きたい。まだ名古屋・大阪での公演を控えているのでセットリストやステージ演出の詳細については控えなければならないが、バンド・メンバーの4人とサポートのピアノ奏者の計5人が椅子に腰掛け、リラックスしたムードでショウは幕を開けた。アコースティック・ライブとは言いながらも、要はダンのギターがエレクトリックではなくアコースティックだということ、それにピアノが加わるというもので、つまりリズム隊は繊細なリアレンジが施されているものの充分にグルーヴィであり、力強いアンサンブルでオーディエンスのシンガロングを求めてゆくパフォーマンスになっていた。当初ボーカルのダグは「あれ? 今日はなんかみんな大人しいね。いつもどおりにしてくれていいんだよ?」と気遣ってしまうほどだった。そりゃあ「いつもとは違う」つもりで来るに決まっているじゃないか。フーバスタンクの、ライブ・バンドとしての地肩の強さが如実に表れている。

でも、アコースティック・ショウならではの特色というのも幾つか見受けられた。ひとつ目は、メンバーが椅子に腰掛けてのリラックスしたムードがそうさせるのか、ステージの展開が非常に軽やかだったということ。ジャンッ、「ハイ、オシマイ!」と歯切れ良く演奏を終わらせて、まったく毛色の異なるナンバーにすぐさま突入してしまうところとか、ステージ全体の流れというよりも一曲一曲を楽しませるという印象になっていた。逆に言えば、一曲一曲の作品としての基礎体力が問われるパフォーマンスになっているわけで、これはシンプルでフックのあるメロディが持ち味のフーバスタンクならではと言える。ふたつ目は、この「リラックスしたムード」とも関係があると思うのだけど、とにかくバンドが「近く」見えるということ。思わず赤坂ブリッツという大型ライブ・ハウスにいることを忘れさせてしまうような、緊密なムードのパフォーマンスが、そしてコミュニケーションが、行われていたのだった。

さらにみっつ目。これは、今回のライブが終わった直後に、ロッキング・オン編集部の古川副編集長がRO69の編集部日記に書いていたことと重複してしまうのだけど→(http://ro69.jp/blog/rockinon/39661)、同じことを思ってしまったものは仕方がないので、書く。フーバスタンクの楽曲はもちろんシンプルで流麗なメロディが多いのだけど、マイナー・コードで展開する情感に溢れたメロとか、日本の歌謡テイストに近いものを感じる(古川氏は「演歌」と書いていたけど、たぶん同じようなことを言っているのだと思う)。アコースティックだと、このメロディが剥き出しになる。これが日本におけるフーバスタンク支持の大きさと関係あるのではないか。でも、J-POPと呼ばれて久しい日本のポップスのメロディは、時を経るにつれて逆にどんどん欧米のポップスのメロディに近づいてゆくものだ。小学生時代を日本で過ごしたダグに、どれぐらい日本的な歌謡曲のメロディがルーツとして刷り込まれているのか、改めて興味深いポイントではある。

「今日はあのコは来てないの? ホラ、土屋アンナ! 来てないのかあ。じゃあみんなが代わりに歌ってくれよ」と豊かなコーラス・ワークを交え、ベスト盤収録の“ザ・レター”もプレイされる。昨年『フォーネヴァー』とベスト盤を発表したフーバスタンクが、更なる新作を控えながらここで裏ベストというべき『イズ・ディス・ザ・デイ?』を発表したのは、どういうわけだろうか。『フォーネヴァー』の前に、大きな成功とツアー生活に摩耗し疲弊したバンドは、長期の休みを取っていた。ここからは僕の身勝手な憶測だが、ベスト盤というのはそういう休暇などの活動の節目にリリースされることも多い。『フォーネヴァー』を経てベスト盤のリリースが決まっても、フーバスタンクはなんとか活動を継続させる方法を模索していたのではないだろうか。バンドを見つめ直すベスト盤のバリエーションとして、リラックスして比較的ヘルシーなアコースティック・ライブがあり、『イズ・ディス・ザ・デイ?』があったのではないだろうか。この機転は実に見事だ。しかも先に書いたように、次のアルバムは順調に準備が進められているのである。このしなやかなタフさが、今のフーバスタンクの最大の強みだ。

ライブの終盤には特別なファン・サービスというべきサプライズ企画が盛り込まれ、更にはアンコールというよりほとんど第2部か! というぐらいの特大ボリュームで進められた今回のステージ。本来ならばもっと詳しくレポートしたいところだ。リラックスしたムードがありながらも終わってみれば2時間超。結局はがっつりとエンターテインして帰る のねという、その点では不変のフーバスタンクであった。(小池宏和)
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