実際今年のフジのステージは、これまでの彼らのフジとの親和性、理屈抜きの快楽空間とは異なりいくぶん固く感じるものだった。なぜなら「好き勝手本能の赴くままに音を紡ぎ、踊り、生じたカオス」ほどライブという生の場面において無敵の手法は無かったからで、それを禁じた彼らの新境地はライブの場で解凍されるまでにある程度の試運転が必要だったからだろう。そんな転機作と習作的ライブを経て、!!!が満を持して『ストレンジ・ウェザー・イズント・イット?』の全貌を露わにしたのが、今回の単独来日である。
いずれにしても!!!のライブは特別だ。特にここ日本において!!!は2000年代のディスコ・パンク&ポスト・パンク勢の中で群を抜いたライブに対するアクチュアリティと信頼感の高いバンドで、この日のO-EASTも酸欠寸前のソールドアウト・ショウとなった。出だしはスロウ、徐々に温まっていく彼らの最新パフォーマンスの着実な道筋とは裏腹に、オーディエンスはのっけからトップギアの盛り上がりで、2曲目が終わった段階で思わずニックが「トーキョー!ファッキン・クレイジー!」と叫ぶ事態に。
新加入の女性ボーカルとツイン・ドラム、そしてサックスが投入された中盤以降は先走る客席とステージ上の彼らが完全に同期し始める。ただし、ミラーボールがくるくる回る下で狂乱の一夜が演出され始めるわけだが、やはり以前のカオスとはかなりその意味合いは違ったと言っていい。明確なピークポイントめがけて巻きあがる竜巻き的なアップダウンではなく、持久走のように常に温まった身体をキープし続けることができるダンス・ミュージック。ヒゲダンスの並行移動バージョンみたいなニックの踊りは健在で、彼がしゃきしゃきと動き回っている間を埋める女性ボーカルがエレガントで一定の空気を維持し続けるのだ。
特に素晴らしかったのはカリプソっぽい軽やかなメロディを緩く弾ませる“ステディ・アズ・サイドウォーク・クラック”の肩の力の抜け具合、そして逆に筋力アップした肉体と共にバキバキと力み気味に構築していった“ザ・ハマー”か。後半戦は硬軟自在、すべからく楽曲にアレンジが加えられたジャムっぽい自由演技といった趣で、『ストレンジ・ウェザー・イズント・イット?』で生じた彼らの洗練と思慮が再び原初に立ち戻っていくかのようなカオスが出現する。アンコールは2回、最後にはオーディエンスもステージ上の彼らも見事に汗だくである。ニックが脱いだTシャツをぎゅっと絞ると汗が滴り落ちる。『ストレンジ・ウェザー・イズント・イット?』は!!!に慣性飛行からの離脱と自浄作用をもたらす必須の転機作であったことが確認できたライブだった。(粉川しの)