豪快なタムロールから、デジタルなビートとともにギターリフが吹き抜ける。そして凛とした表情のボーカルが、サウンドの追い風に乗って全速力で走り出す。《ああ どちらも僕で君だから どちらも本心だからたちが悪いよな》──ポジティブな意味でもネガティブな意味でも逃れることのできない自分「らしさ」と対話しながら、主人公はその「らしさ」ゆえに生み出される喜びも悔しさもひっくるめて《ああ 生きてて良かったな》と歌い上げる。Official髭男dismの新曲“らしさ”は、その名の通りどこまでもヒゲダンらしく、藤原聡らしく、その生き様を刻みつける1曲である。
8月6日に配信リリースされたこの曲は映画『ひゃくえむ。』の主題歌として書き下ろされたものだ。『チ。 ―地球の運動について―』の魚豊による連載デビュー作である『ひゃくえむ。』は、100m走をテーマに、ふたりの少年が走ることに懸ける思いを追った作品。といっても、この作品はいわゆるスポーツものではない。もちろん競技のシーンも描かれるのだが、作者の視線は徹頭徹尾、主人公たちの人生観や哲学、内なる闘いに向けられているからだ。『ひゃくえむ。』は100m走という題材を借りた「生き方」の物語なのである。(以下、本誌記事に続く)
文=小川智宏
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年10月号より抜粋)
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