アッシュ@恵比寿リキッドルーム

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アッシュ@恵比寿リキッドルーム - pics by TEPPEI / ※写真はすべて11月22日のライブのものですpics by TEPPEI / ※写真はすべて11月22日のライブのものです
フジ・ロック初日のグリーン・ステージを沸かせたアッシュが、約4カ月というショート・スパンで再来日を果たした。2010年のアッシュの活動はかなりユニークなものだ。ひとつには、1年間で26曲、しかも全アルファベットを頭文字にあてはめたシングルを連続リリースするという異色の試みをパッケージにまとめた『A-Z Vol.1』、『A-Z Vol.2』のリリース。そしてもうひとつには、ブロック・パーティのギタリスト、ラッセルがサポート・ギタリストとしてツアーに帯同すると発表されたことだ。

シャーロット脱退以降再び3ピースとなっていたアッシュに、当代UKきってのギタリストが加入して再びツイン・ギター制になったことは大きなトピックであったし、実際フジのステージでもティムとラッセルのツイン・ギターはシャーロット時代とは全く異なる新しいケミストリーを生み出していた。そんなアッシュの2010年を締めくくる単独来日となったのが、今回のツアーなのである。

しかしここにきてアクシデントが発生、なんとラッセルが体調不良で来日できなくなってしまったのだ。というわけで今回の単独リキッド公演は再びティム、マーク、リックのオリジナル3ピース体制となり、期せずして原点回帰の様相を呈することになった。

そして蓋を開けてみれば、この3ピースのアッシュというものが凄まじく良かったのである。キャパ800人ちょいとアッシュとしてはスモール・サイズなリキッドルームの雰囲気と合っていたのも大きいだろう。そして何より、15年以上のキャリアを持つれっきとしたベテランである彼らの側面と、それでも今尚メンバーが30歳そこそこという若さのギャップ、それら醸し出すアンバランスの上で奇跡的に成り立っているアッシュの音楽の魅力が、存分に引き出される粗っぽくもフレッシュなパフォーマンスだったのだ。

オープニングを飾ったのは『A-Z Vol.1』からの新曲“Arcadia”。のっけから出し惜しみなく全開で放たれるティムとリックの迫力のコーラスにこれまたのっけから全開で応えるハードコアなオーディエンス。続く“Girl From Mars”で早くも場内にポゴダンスの渦が生まれる。客電で照らされるフロアにはいつものアッシュのライブ同様に笑顔が溢れている。

つくづく思うのだけれど、それこそこの“Mars~”なんてUKクラシックと呼ぶに相応しい、ありていに言えば恒例のオールド・ナンバーなのに、未だにそこには一切懐古的な感傷が挟みこまれる余地はないのが凄い。いつ聴いてもいつ目の当たりにしても初めてこの曲を知った時と同様のムズムズするような甘酸っぱさに包まれ、自分の(そして彼らの)歳を顧みることなく思いっきり10代のように弾けてしまう。続く“A Life Less Ordinary”にしても、そして“Goldfinger”にしてもしかり。アッシュの曲には「あの頃は良かった」というルックバック的センチメントではなく、常に自分が今まさに思春期の当事者であるかのような錯覚を呼び覚ますマジックが息づいているのだ。

80Sを彷彿とさせるピコピコとユーモラスなシンセの打ち込みと共に始まったのはその名も“True Love 1980”だ。思えばアッシュって、時代や年代をはっきり示した内容の曲が多くないか。そう言えば彼らのデビュー・アルバムのタイトルも(ティムとマークの生まれた年にちなんだ)『1977』だったし、「いつ、どこで、だれと、なにをした」を丁寧に記したリリックも多い。彼ら自身の体験や生活を直反映したアッシュの歌は俗に等身大と呼ばれるものだが、そんな彼らの個人史的な歌を自分の体験や生活に直反映していくマナーがアッシュとアッシュのファンの間には伝統的に受け継がれている。大風呂敷を広げたメッセージ・ソングなんてアッシュは書かない。個と個の間にだけ生じるコール・アンド・レスポンス、それがアッシュであり、だからこそアッシュのライブはいつだってこんなにも不純物が生じない稀な体験であり続けているのだ。

“Waking Barefoot”、“Shining Light”と鉄板のナンバーが続いた中盤の流れをリセットしたのがインストの“Sky Brial”だ。この時ばかりは2010年の、現在平均年齢32歳のアッシュのキャリアと熟練が遺憾なく発揮される。後半戦はそんな“Sky Brial”に象徴される彼らのテクニカルな進歩と、“Kung Fu”や“Oh Yeah”に象徴されるスピリチュアルな普遍が入り乱れる理想的な展開で、最大の盛り上がりを記録した“Orpheus”と、そのテンションを維持したままさらに熱量をブチあげていった“Return Of White Rabbit”の新旧ヘヴィ・チューンの応酬で幕を閉じた本編ラストは本当に素晴らしかった。アンコールの本当のラストは“Burn Baby Burn”!文字通り完全燃焼のバーンアウト。フロアのあちこちで大粒の汗をキラキラ光らせたオーディエンスの笑顔がはじけていた。(粉川しの)
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