フォールズ@赤坂BLITZ

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セカンド・アルバム『トータル・ライフ・フォーエヴァー』が各方面で軒並み好評を博し、若手UKバンドの中では大成功と言えるキャリアを着々と築き上げているフォールズの、昨年のフジ・ロック以来、通算で4回目となる来日公演。ここ10か月のうちに3回も来日していることになるが、6月の公演は原宿アストロホール一発のみのプレミア・ライブ、続いてはフジという限定的な環境だったので、今回の東名阪ツアーは多くのファンにとっても待望の公演と言えるだろう。今回レポートする東京公演はツアー初日。今後の名古屋・大阪の各公演にお出かけ予定の方は、以下どうぞご注意を。

さて、オープニング・アクトには、カナダはトロント出身のエクスペリメンタル・ダンス・ロック・バンド、ホーリー・ファックが登場。こちらは09年フジ・ロック以来の来日公演だ。4人のメンバーがステージ中央に密集し、サンプラーやミキサー、シーケンサー、ヴォコーダーそしてギターなどの機材を駆使し、それにベースとドラムのリズム隊が加わってあっという間にオーディエンスを興奮の渦へと叩き込む。ああもう、このダンス・ロック、個人的には体中の快楽のツボを全押しされるぐらい嵌まる。横ノリの強烈なグルーヴで、でも音はソリッドで、アシッドで、ダビーで、次第次第にノイズを大きくしながら盛り上がってゆくのだ。いろんなことをやってはいるが、「あれ、何をやっているんだろう?」と思うような斬新なことは何もない。いとも容易く、アッケラカンと時代の高揚感を掴まえてしまっている。大満足だ。さすがにオーディエンスも大盛り上がりであった。彼らは、今回のフォールズの来日公演すべてに帯同する予定になっている。

そしていよいよ、ホーリー・ファックががっちりと暖めたフロアを前にフォールズが登場。オープニングの“ブルー・ブラッド”から、静謐でジェントルなバンド・アンサンブルにヤニスの美しいボーカルが泳ぐ。次第次第に熱を帯びてゆく演奏に、すっかりスイッチが入ってしまっているオーディエンスは鋭く反応してフロアを波打たせる。続いての“オリンピック・エアウェイズ”は一面のハンド・クラップからスタートだ。ジミーによる、どこかオリエンタルな響きのシンプルで美しいギター・フレーズと、フィジカルに訴えかけるリズムとが、絶妙なコントラストを描き出していった。コントラストと言えば、フロントに立つボーカル/ギターのヤニスは骨太な体格にサイズの大きなTシャツ姿で、その隣のジミーが極めて細身のスターリッシュなルックスなのが面白い。新作のタイトル曲を終えると、オーディエンスの良好な反応にヤニスは笑顔で「帰ってきたよ! 今日は来てくれてありがとう。あとホーリー・ファック、素晴らしいショウをありがとう」と挨拶するのだった。

リバーブやディレイといった、空間系の玄妙なエフェクトを効かせたフォールズのサウンドが奇麗に出ていて、ヤニスのボーカルも良く通る。その上で、パフォーマンスはとてもダイナミックで肉感のあるものになった。“マイアミ”ではジャキジャキと、ヤニスがミュート・カッティングを加えてダンス性を強調する。ポスト・パンク路線のダンス・ロックはフォールズのもともとの持ち味だが、新作の『トータル・ライフ・フォーエヴァー』ではそれを封印し、新しい世界を目指すかのように広大な音楽の海へと身を投じていたフォールズである。エレクトロニックなダンス・ミュージックの隆盛と、ロック・バンドがそんな時代に適応しようとしたかのようなダンサブルなポスト・パンク・サウンドの再燃があって、さてその後はどうしよう? というのが、今の若いUKバンドが直面している課題である。その意味で、『トータル・ライフ・フォーエヴァー』は実に勇敢な第二歩だった。
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しかし『トータル・ライフ・フォーエヴァー』の、詩的で繊細さと深い奥行きのある楽曲を、そのままステージで再現することが躊躇われることも分かる。ロックには、ポップ・ミュージックには、やはり有無を言わせないようなダイナミックな力強さが、より広く、遠く、聴く者の奥深くへと届けんとする意志の込められたインパクトが、必要不可欠だからだ。直接的に身体に訴えかける力を持ったダンス・ミュージックを越えて、ロック・バンドがロック・バンドとしてその課題をクリアしなけらばならないというのは、今のUKロック・バンドにとって非常に頭の痛い問題だろう。ジーズ・ニュー・ピューリタンズも、デルフィックも、トゥー・ドア・シネマ・クラブも、若いUKバンドたちは皆まるで「ダンサブルであることなんか、最低条件だよ」とでも言うようなライブをする。要はその先に、どんな景色を観るのか、なのだ。

中盤に固め撃ちされた『トータル・ライフ・フォーエヴァー』の楽曲群は、デビュー作のダンス性をホルモン注射するように、力強いライブ感を纏って披露されていった。これが、今のフォールズの形なのだろう。勢いに満ちているが、ステージの経験を踏まえながら、慎重にこの形を詰めていったのだと思う。そして辿り着いた“スパニッシュ・サハラ”の、ヤニスの噛み締めるような歌いっぷりには、今後彼らが探し求めてゆくロックの、そのロマンと切実さがキラリと光っていたような気がした。この現在地での“ディス・オリエント”や“ブラック・ゴールド”も、できれば聴いてみたかったというのが、個人的な本音ではある が。

そして終盤からアンコールにかけては、ライブ・キャリアの中で更に磨き抜かれてきたフォールズ流ダンス・ロックの嵐である。これは凄まじかった。“エレクトリック・ブルーム”でヤニスはTシャツの袖をまくり上げ、熱狂の前線オーディエンスにペットボトルの水を振りまき、フロアタムを打ち鳴らしてマイクを振り回し、そしてスピーカーによじ上っては飛び降り、遂にはフロアにダイブする、というエキサイトぶりであった。ロックというのは決してアーティストの脳内に描かれた設計図どおりに表出するものではなくて、こんなふうにオーディエンスとの交感を踏まえながら、思いがけないような、驚くべき成果に辿り着いたりするものなのだろう。ロックは生き物。改めて、そんな思いに駆られた夜であった。(小池宏和)
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