開演時刻を5分ほど過ぎた頃、“優しい重力”でしっとり幕を開けたアクト。しんと静まり返った場内に、浮遊感あふれるピアノの音色と蔡(G/Vo)の歌声がゆったりと放たれていく。誰一人として微動だにしないメンバーと、それを見つめるフロア。心地よい緊張感に抱かれて、場内は厳かなムードを高めていく。そのまま流れるように“あ、”へ突入。ホーン隊に武嶋聡、川崎太一朗、キーボードにHAKASE-SUN、ギターに木暮晋也の7名が織り成すサウンドは、1曲目とは打って変わって肉感的なものになっていく。特に森本(B)&辻(Dr)のリズム隊が奏でるビートは、大地を力強く踏みしめているかのよう。きらびやかなホーンが鳴り響いた“LOVERS ROCK”、あたたかなハンドクラップが沸き起こった“グレープフルーツムーン”を終えた頃には、場内はすっかり熱くなっていた。
低音の効いたダビーなサウンドを広げた“あたらしいひ”に続いて、“Standing There”では、首に巻いていた厚手のストールを取り払った蔡が熱っぽい歌声を響かせる。しかし、ここでステージ照明が落とされフロアは暗転。“LONG RIVER”の静謐なエレクトロビートとピアノの音色に導かれ、場内は瞬く間に海の底へと沈んでいく。そして、15分近くにわたってプレイされた“Hover Hover”が素晴らしかった。蔡の伸びやかなハイトーン・ヴォイスにピアノ、ドラム、ホーンが次々と折り重なって、みるみるスケールを増していくサウンドスケープ。大地の鼓動を連想させるような、オーガニックで酩酊感抜群のダブはbonobosの真骨頂だ。そこからアッパー・チューンの“Cycle In Motion”で一気に天空の彼方へと突き抜けた流れは、個人的に言って今夜いちばんのハイライトだった。武嶋のサックスからHAKASE-SUNのキーボードへと、鮮やかなソロ・リレーでフロアをダイナミックに揺らした“Truth Don Die”の高揚感も凄まじかった。
「東海道3次は今年で4回目で、毎回趣向を凝らしてやっているんですけど。今回は東京2DAYSということで、明日もやります。明日はセットリストまったくちがいます」(蔡)
「全曲ちがうんだから。おかげで35曲ぐらい練習したんだから」(森本)
と、本ツアーの趣旨に加えてオーディエンスへの感謝の言葉を述べた後は、軽快かつソウルフルな楽曲が満載の終盤へ。一音一音が弾けるようにフレッシュで、発芽したての植物のように瑞々しいサウンドがフロアに心地よい横揺れを誘っていく。《ありがとう さようなら 更に言うと愛してる》という“GOLD”のフレーズに代表される、出会いも別れもひっくるめて地球上のモノすべてを丸ごと慈しむようなピュアな言葉と相まって、フロアに喜びの花を次々と咲かせていった。
アンコールでは蔡ひとりがステージに現れ、今回の震災を受けて蔡が作った生まれたての新曲“PRAY for”を弾き語りで披露。途中ギターを間違えてフロアを笑わせたりもしながらも、《忘れないで 私たちは決してひとりぼっちではないことを》という、大きな愛に満ちたシリアスな言葉が祈りを込めて歌われる。その後はメンバー全員で“今夜はGroove me”“Mighty Shine, Mighty Rhythm”のキラー・チューン2連発。フロアを手の波とハイ・ジャンプで満たして2時間強のアクトを華やかに締め括った。
生命力溢れるサウンドと、慈愛に満ちた言葉。松井の脱退という大きな転換を経たものの、bonobosの楽曲は以前と変わらずピュアな包容力を湛えていた。それだけでなく、新たな仲間とともに多彩な楽器を駆使して新たにアレンジされた楽曲は、今まで以上に切実で、力強くなっている気もした。今年8月、彼らはバンド結成10周年を迎える。MCでは、バンド10周年を記念した日比谷野音ワンマンを8月13日に行うことと、2年ぶりのオリジナル・アルバムを年内にリリースすることも発表された。メンバーの脱退や自主レーベル設立など、決して平坦ではない道を歩みながらも、前向きで陽性なエネルギーを絶やすことないbonobos。その前途はきっと希望に満ちているはずだ。(齋藤美穂)
セットリスト
1.優しい重力
2.あ、
3.LOVERS ROCK
4.グレープフルーツムーン
5.あたらしいひ
6.Standing There
7.LONG RIVER
8.HOVER HOVER
9.Cycle In Motion
10.Truth Don Die
11.GOLD
12.春の嵐
13.天体のワルツ
14.夕景スケープ
アンコール
15.PRAY for
16.今夜はGroove me
17.Mighty Shine, Mighty Rhythm