ジェイソン・ムラーズ @ 渋谷AX

フジロック最終日、雨が降る前のグリーン・ステージでの和やかなアクトからまだたったの2日。あの広々とした空間とは全く違う雰囲気でのライブだったが、とにかく演奏する側も聴く側も関係なしに盛り上がり、心が満たされたであろう90分だった。

フジに行けなかった人が多いかと思いきや、フジでの彼のパフォーマンスを観てきた人たちの声が頻繁に耳に入ってきた開演前。1階スタンディングフロアは満員だ。10分遅れでフジと同じ顔ぶれのバンドメンバーと共に現れた彼は、いつもの帽子をかぶり、いつものゴキゲンぶり。“メイク・イット・マイン”から始まった今晩、直後のMCでは「メイク・サム・ノ〜イズ!」とリズミカルに歌いながら観客のテンションを一気に上げ、そのまま大ヒット・ナンバーの“レメディ”へ。シンガロングになったと思いきや、観客が歌いジェイソンがバック・コーラスをするという状態にレベルアップして全員が大盛り上がりで熱唱。その後もMCで観客とのレゲエ風の掛け合いを楽しんだりと、開演直後からステージと客席の段差など全く感じないほどの一体感に包まれた。

しかしこれだけの盛り上がりの中、一番の山場であったのは最も静かだったナンバー、“1000 シングス”だろう。ゆっくりと、静かに始まったコーラス1名と彼だけでの演奏はこの上なく澄んでいた。1音1音噛み締めるように歌う彼のハイ・ボイス。彼の歌声の全てを聴き逃すまい、と誰もが思ったのだろう。歌声とギターの音以外全くの無音となった会場。ファンクだったりジャジーだったり、とにかくアップテンポな曲の狭間で、美しい静寂を生んだ4分間だった。

その後は再びノリノリのムラーズ節が炸裂、ニュー・アルバム『ウィ・シング。ウィ・ダンス。ウィ・スティール・シングス。』から人気の“ザ・ダイナモ・オブ・ヴォリション”、“バタフライ”を立て続けに披露、そして最後はもちろん“アイム・ユアーズ”のシンガロングで会場の熱気が最高潮に達して幕を閉じた。

ステージを走り回ったりせず、終始中央に佇みながら飄々と歌う彼だが、いつものように「音楽で人を楽しませたい、みんなで歌を歌うのが大好きなんだ!」という意欲で満ち溢れていた。そしてそんな彼の性格の成せる業なのだろうか、或いはフジという開放感溢れる場所から戻ってきた直後だからなのか、観客もバンドメンバーも全員で楽しみ、笑い、喋り、歌おう!というパワフル且つ和やかな雰囲気が会場全体に立ち込めていた夜だった。(上田南)
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