ムック @ 日本武道館

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約3時間半、トリプル・アンコール含む全29曲におよぶ長丁場。にも関わらず、一切のダレや緩みを感じさせない、それどころか徹頭徹尾むせ返るようなディープな空気が充満しつづける壮絶なアクトだった。ムックの武道館公演2日目「MUCC history GIGS 97~11」。「TOUR “Chemical Parade”」ファイナルとなった昨日からは一転して、1997年から2011年までのバンドの歴史を一気に振り返るような新旧入り乱れた楽曲で構成された今夜のライブは、15時20分の開演から18時半過ぎの終演に至るまで、すべてがハイライトと呼べるような興奮のシーンの連続だった。

もう最初からすごかった。ステージ後方の横長のヴィジョンにサイレント映画のクラシカルなオープニング映像が流されて、ゆっくりと登場したメンバー。なんと1曲目に叩きつけたのは、インディー時代にデモテープで配布されていた“アカ”! 真っ赤なレーザービームが飛び交う中、心の闇をそのまま抉り出したようなメランコリックな音塊が巨大なとぐろを巻いていく。その後も負のオーラを湛えた初期の楽曲が次々と放たれて、背徳的な一体感に包まれた客席に無数の拳とヘッドバンギングの波を生み出していく。絶望、孤独、疎外感……など内省的でネガティブなエネルギーを溜め込みながら、聴き手に容赦なく襲いかかる1音1音の切れ味と破壊力がすさまじい。あでやかな赤い振袖をまとって、最果ての地から響きわたるような力強いヴォーカルを放つ逹瑯(Vo)のオーラもハンパない。

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“我、在ルベキ場所”では、ヴィジョンに当時のPVが映し出されて客席からキャー!という歓声が上がる。その後もイントロが鳴らされるたびに大きくどよめく客席。そのすさまじい歓声を聞くだけでも、1曲1曲がいかにスペシャルなものであるかがわかる。特に覚醒感に満ちたサウンドが疾走する“ママ”から、YUKKE(B)の肉厚なウッドベースとミヤ(G)の清冽なフィードバックノイズが絡み合う長編ロック・オペラが築かれた“25時の憂鬱”への流れは本当にスリリングだった。そして、前半のクライマックスを飾った“雨のオーケストラ”。ストリングスを基調にした壮大なサウンドが、満天の星屑が映し出された天井に向かって放たれると場は荘厳なムードで満たされていった。

ヴィジョンに映し出されたデジタル時計が2分7秒を刻んで、“2.07”のSEとともに再びステージに現れたメンバー。でっかいサーチライトを抱えた逹瑯が下手の花道から登場し、ステージを左へ右へと走り回りながら客席を挑発的に照らしていく。そして雪崩れ込むように“茫然自失”へ。YUKKE&SATOち(Dr)のスラッシュ・ビートと逹瑯の怒号が場内の空気をビリビリと震わせていく。さらに「踊れるか?」の号砲から“梟の揺り篭”へと突入すると、気だるさと妖しさが漂うダンサブルなサウンドに客席がゆらゆらと揺れる。かと思えば“商業思想狂時代考偲曲”では超性急なビートが狂騒空間を生み出し、“およげ! たいやきくん”では客席の笑いと手拍子を誘う。1曲ごとにまったく違った表情をもちながら、どの曲もハードエッジなサウンドですさまじい熱量を放っているところはさすが。今年初頭のヨーロッパ・ツアーを経て、そのスケールは格段に増した感がある。

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そして“娼婦”“スイミン”の連打で客席をでっかく揺らした後は、本編ラスト“9月3日の刻印”へ。これがまた圧巻だった。曲に合わせて、ステージの端から端まで伸びるヴィジョンに順番に映し出されていく歌詞。聴き手を抱きしめるような優しいメロディとは裏腹に、《大人たちよ思い出せ/自分の還るべき場所はどこなのか》《大人たちよ気づいてくれ/自分達の醜さに》という言葉の痛烈さに目を見張った。8年近くも前に作られた曲だけど、「今この時代」に鳴らされることに大きな必然を感じずにはいられない、圧倒的なパワーがこの曲にはある。ここまで約2時間半。一縷のスキもない濃密なパフォーマンスで観客を震撼させつづけたステージは、最後までそのエネルギーを絶やすことがないまま感動的なクライマックスを迎えた。 

アンコールは一転して、“謡声(ウタゴエ)”“フライト”などシンプルでアッパーな楽曲の乱れ打ち。ヴィジョンには4人の姿がアップで映し出され、オープンで明るい空気が会場全体に満ちていく。爽快にドライブするサウンドに、観客も一斉にジャンプ、ジャンプ! ダブル・アンコールでは「69才までムックやります!」と宣言したり、“ロバートのテーマ”で黄色いラジコンカーに乗ったロバート=カエルのぬいぐるみがステージ下手から登場したり……と開ききったパフォーマンスを繰り出し放題繰り出して客席を爆笑の渦に。“優しい歌”では、「皆ケータイ出せ!」という逹瑯の言葉で客席がケータイの光で埋め尽くされ、あたたかなレゲエのリズムと相まって多幸感あふれる光景を描き出していた。

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そして大ラスのトリプル・アンコール。「最後にいろんな思いが詰まっている曲をやります。2日間ありがとう」という短い挨拶に続いて鳴らされたのは、今回の東日本大震災を受けて、武道館2DAYS限定販売シングルとして書き下ろされた“暁”。希望に手をかけるような優しくストレートなサウンドが、場内にまばゆいエモーションを立ち上らせて3時間半に及ぶステージを壮大に締め括った。

アンコールのMCで、ミヤが「ムックの曲、暗くね!?」と思わず呟いていたのが印象的だった。確かにムックの曲は暗い。そして、初期の曲がたくさん披露された今夜のライブでは、その負のエナジーがかつてなく強烈に渦巻いていた。しかし、1曲ごとに手の込んだ演出で磨き上げられた楽曲、随所で飛び出すユーモアあふれるMCに、ムックのパフォーマーとしての意識の高さやファンへの愛情の深さが一身に感じ取れるようなライブでもあった。絶望や孤独に血塗られた漆黒のグルーヴを、その徹底したステージングで完璧なエンタテインメントへと昇華させるムック。その揺るぎないパワーに改めて驚愕したとともに、ここからますますスケールアップしていくだろう今後の動向がさらに楽しみになるような、最高のアクトだった。(齋藤美穂)

セットリスト
1.アカ
2.絶望
3.最終列車
4.盲目であるが故の疎外感
5.君に幸あれ
6.我、在ルベキ場所
7.メディアの銃声
8.ママ
9.25時の憂鬱
10.モノクロの景色
11.ココロノナイマチ
12.雨のオーケストラ
13.2.07
14.茫然自失
15.梟の揺り篭
16.路地裏 僕と君へ
17.志恩
18.商業思想狂時代考偲曲
19.およげ! たいやきくん
20.娼婦
21.スイミン
22.9月3日の刻印
アンコール1
23.謡声(ウタゴエ)
24.流星
25.フライト
アンコール2
26.ロバートのテーマ
27.夢の街
28.優しい歌
アンコール3
29.暁
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