LOST IN TIME @ 恵比寿リキッドルーム

LOST IN TIME @ 恵比寿リキッドルーム
LOST IN TIME @ 恵比寿リキッドルーム
LOST IN TIME @ 恵比寿リキッドルーム - pics by 高田梓pics by 高田梓
再会の日。昨年リリースされたアルバム『ロスト アンド
ファウンド』を携えてのLOST IN TIMEの『TOUR 2010-2011 “LOST & FOUND” ~みつけたこと』は、2公演を残すのみというところで3.11の震災の影響により高崎公演の中止/東京公演の延期という決断を余儀なくされた。震災の日には彼らのマネージャー兼所属事務所社長であった坂田氏が病によって他界するという不幸もあり、また共にツアーを回っていたサポート・ギタリスト三井律郎は、、自身が生活しまた自身のバンドTHE YOUTHの本拠地でもある地元・仙台に戻ることを決めた。ファンにとってだけではない、「リキッドで会おう」という合い言葉が三井を含めたバンド・メンバー3人にとっても約束として果たされる場所。それが今回の恵比寿リキッドルーム公演だったのである。

暖かい拍手に包まれてステージに姿を見せた3人。海北大輔(Vo./B.)がひとりスポット・ライトを浴び、“ひとりごと”の歌い出しをアカペラで、まるで全身から想いを迸らせるようにして放つ。フロアを埋めるオーディエンスたちは、それを全身に浴びるように聴き入っている。「今日をどれだけ待ったか。お待たせしました。そして、ただいま。去年の11月にアルバムを出して、本当は3月に旅を終える予定だったんだけど、僕たちにもみんなにもいろんな事があって、今日まで伸びてしまいました。伸びた分ね、想いは強くなってるんだ。新しい歌も古い歌も、踊ったっていいし目を瞑っていてもいいから、僕はあなたのリアクションが欲しい。最後まで楽しもう!」と、いきなり声をうわずらせるようにしながら熱く語る海北であった。

そして3人が同時に放つ3カウント一閃、“青よりも蒼く”からは海北の言葉どおり、ロストの歴史を行き来するような楽曲群が畳み掛けられてゆく。三井の鋭いギター・リフが弾け、海北はドライブ感のあるベース・ラインで自らの歌をブーストするように。誰一人として置き去りにせず、シンプルに研ぎ澄まされた想いの形が豊かなハーモニーを巻いて駆け抜けるのであった。実は高度でトリッキーなアンサンブルの“合い言葉”も、強い歌心が入り組んだ音楽を包み込むようにして届けられる。欠落を新しい何かで埋めながら進むような、ロストの本質にタッチする名曲“列車”もまたドラマチックに鳴り響いていた。

ここで一旦セット・チェンジが挟み込まれる。大岡源一郎のドラムはそのまま、海北はキーボード、三井がブズーキをプレイするという編成で、フォーキーにしてスケールの大きな“進む時間、止まってた自分”だ。更には三井が多彩なギター・フレーズで魅了するバラード曲“あなたは生きている”もここで披露される。本来のパートに戻ると、今度は『ロスト アンド ファウンド』収録曲をエモーショナルに固め撃ちしていった。“所在なき歌”の後には「楽しんでる? もっと楽しくしてもらおうよ」と海北が前フリし、大岡のドラム・ソロへと突入。激しくダイナミックなプレイを轟かせながら大岡、ペタンと自身のキャップに若葉マークを貼り付けて素手でのドラム・プレイも見せる。これは彼が自動車の運転免許を取得したことのアピールだったのだそうだ。

「今日もだけど、僕たちはずっと歌い続けていくから。夏の予定も、いろいろ決まったよ。あの……いつでもお待ちしてますんで。僕たちは何かを失うと同時に必ず、何かを手にしているんだと思う。僕はそうして、明日という時間を手に入れました」と歌詞を踏まえたMCから“なくしたうた”を歌い出す海北。「Lost & Found」とは遺失物預かり所のことだが、ロストのアルバム『ロスト アンド ファウンド』は彼らなりの解釈で海北が語ったような思いを形にした結果、こういうタイトルになったのだろう。これもまた非常にロストらしい結実で素晴らしい。昨年リリースされた作品なのに3.11を経てなお輝きを増す、ブレのない普遍的なテーマが歌い込まれた作品だ。そして柔らかく暖かい“陽だまり”と、力強く新たな光景を切り拓いてゆくような“あしたのおと”がプレイされ、本編はここで幕を閉じた。

アンコールでは、中止になった高崎公演が7/17にリベンジされること(今回の東京公演のダイジェスト映像が当日プレゼントされるそうだ)や、8/20にロスト恒例の対バン企画『1:1』が都内で行われる(対バン相手は後日発表)ことも告知され、そしてゲストが呼び込まれた。一時はロストのサポートを務め、現在「アリゲン」として大岡とともにユーストリームを配信中の、VOLA & THE ORIENTAL MACHINEベーシスト=有江嘉典だ。ロスト3人が繰り出すダンス・ビートに合わせていきなり踊り狂う有江。オーディエンスの一人一人がそれぞれ切実な歌に向き合うという光景も珍しくないロストのステージ上にあって、あまりにも唐突で異色である。そんな有江に焚き付けられるようにして海北は、コール&レスポンスまで敢行する。戸惑いながらもそれに応えるオーディエンスであった。有江がベースを弾き、海北がアコギを抱えるというセッションによってプレイされた仲間のための歌“ニジノシズク”によって、この日『ロスト アンド ファウンド』の収録曲はすべて披露されたことになる。

「今何時? 結構やりすぎちゃった」と海北はダブルアンコールに応えながら漏らしていた。「とても悲しい出来事があって、でも多くの人が立ち上がる姿を、みんなも目の当たりにしたと思う。そういう気持ちを大切にしようと思って、歌を作りました。きっとみんなも歌えるメロディになってるから、最後に一緒に歌って終わりましょう」と披露されたのは、この日の参加者にダウンロード・パスが配布されていた新曲“ぼくらの声の 帰る場所”であった。トロピカルなフレーズが交錯するこれまた高度な楽曲で、どこが歌えるんだと思っていたら、最後にラララ…とシンガロングを誘うキャッチーなメロディが用意されている。素晴らしい曲だ。トータル2時間45分、再会の日にふさわしい、見事な大団円であった。(小池宏和)


セット・リスト

1:ひとりごと
2:青よりも蒼く
3:希望
4:線路の上
5:はじまり
6:合い言葉
7:勲章と傷
8:証し
9:列車
10:進む時間、止まってた自分
11:あなたは生きている
12:その名前を
13:スピンオフ
14:所在なき歌
15:ココロノウタ
16:なくしたうた
17:陽だまり
18:あしたのおと(新曲)

EN1-1:夢
EN1-2:26
EN1-3:ニジノシズク
EN1-4:約束
EN1-5:昨日の事

EN2-1:手紙
EN2-2:ぼくらの声の 帰る場所(新曲)
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