3月31日に予定されていたものの、震災の影響で延期になってしまった【ねごとpresents "お口ポカーン!!対決ツアー"】ファイナル公演の振り替えとして行われる今日のライブ。【ねごとpresents "お口ポカーン!! 対決…したかったファイナル"】というイベント・タイトル通り、対決の相手として決定していた栗コーダーカルテットが日程変更に伴い出演できなくなってしまったため、ねごとのワンマン・ライブとなっている。ツアー・ファイナルの不慮の延期、「対決」と名付けるほどに気合を入れていた対バンの中止、さらに今日の17時ごろ恵比寿駅で人身事故が起きたため、ライブの開演(19時の予定だった)まで10分押しとなった。どれも仕方ないこととはいえ、少し可哀想なくらいに不運が続いてしまったと思う。しかし、そんな逆境を吹き飛ばすようなムードが開演前から今日のフロアには漂っていた。延期に際してチケットの払い戻しも行われたはずが、元々の会場だった渋谷クアトロより広いリキッドルームが見事に満員御礼。ドリンク・バーの前ではツイッターでねごとのオフィシャル・アカウントが告知していた「ねごとのライヴの楽しみ方」を予習している様子の客たちも見られた。また、電車の遅延のせいか、遅れてくる客もちらほらいたが、みんなフロアに入ってすぐ踊り出し、手を振り上げていたのも印象的だった。みんな、今日という日を心待ちにしていたのである。1曲目が終わったとき、MCでボーカル・キーボードの蒼山幸子も「もう、こんなに沢山の人が来てくれると思わなかったので、ちょっと緊張してます。でも、嬉しいです!」と率直な感想を漏らしていた(後に、「私のお母さんは3月のときは来るって言ってたのに、今日は来ていません。栗コーダーさんが見たかったらしいです・・・」とも告白していたから、余計この光景は嬉しかったと思う)。ねごと自身の活動の確かな歩みが生んだ状況とはいえ、こうしたファンの愛は確実にバンドに力を与えたはずだ。実際、緊張のせいか最初の数曲ではタイトなリズム隊に対し上モノの2人が上手く乗り切れていないような、少しばかりグルーヴがちぐはぐになっている印象があったのだが、ファンの一糸乱れぬハンドクラップや歓声によって徐々に彼女たちの表情もほぐれ、本領を取り戻していっていたように見えた。
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最初にバンドの演奏に火が点いたのは、5曲目に演奏された“ワンダーワールド”。その契機を作ったのは沙田瑞紀のギターである。彼女が楽曲の中で活き活きしだすと同時に、曲の世界が一気に開けていった。音源でも才気は十二分に感じられるが、彼女のロック・ギタリストとしての魅力は、ライヴでこそ全開になるものなのだろう。彼女のギターには、サウンドにも立ち姿にもとにかく華があり、またその華を引き立てるような毒がある。つまり、グラマラスなのだ。少し褒めすぎかもしれないが、ジョニー・サンダースがそうであったように。鮎川誠がそうであるように。彼女にもまたロックンロールが宿っているのである。ライヴ・バンドとしてのねごとにとって、彼女がステージのセンターに立ってギターを弾いていることは、それだけで大きな武器になっていると思う。
![ねごと@恵比寿リキッドルーム](/images/entry/width:750/53735/4)
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7月13日発売のファースト・フル・アルバム『ex Negoto』から今日は6曲(既発曲含む)が演奏されたが、最も印象的だったのが“七夕”だ。沙田が妖艶にフィードバック・ノイズを響かせたと思ったら次の瞬間には無垢な歌メロに移行しているというような展開の激しい曲で、その情報量の多さに驚かされた。フランク・ザッパがJ-POPに目覚めた曲、あるいはレッチリのジョン・フルシャンテの後釜にステーヴ・マルクマス(元ペイヴメント)が無理矢理入り好き勝手作った曲、というちょっと自分でもどうかと思うくらいめちゃくちゃで、そして(自分としては)絶賛のイメージが頭に浮かんだ。ねごとの楽曲は基本的に全て、90年代英米のオルタナティヴ・ロックを絶対的な参照点とした土台のオケと、どこまでもポップな蒼山のキーボードと歌メロがぶつかり合うことで、互いの良さを引き立てあう構造を有していると自分は思っている(そのバランスの中でオケが勝つとロック寄りに、歌メロとキーボが勝つとポップ寄りに、そして両方がぴったり50:50となったとき、“カロン”のような凄まじい結果が生まれる)のだが、その構造がこの“七夕”ではよりエクストリームに、つまりより激しく曲の中でオルタナ的要素とポップ的要素がぶつかり合い、結果としてよりオリジナリティ溢れる音になってきていると感じた。蒼山は『ex Negoto』について「タイトルのexというのは「元」ではなくて、エキサイティングやエグジットという意味で付けました。脱皮したねごとを見せたいと思っています」と語っていたが、その成長はこの曲からだけでもビンビン伝わってきた。去年の9月にリリースされた『Hello!”Z”』の時点ではまだソニック・ユースや『ザ・ベンズ』期のレディオヘッド、あるいは椎名林檎といった先人たちの影響がくっきり見えていた(オリジナル曲を書き始めてからの期間の短さを考えると、そこに辿り着いていただけでも相当凄いことなのだけど)ことを考えると、本当に異常な成長速度だと思う。こうした成長期を迎えることができる、それだけの才能と創意を持つバンドは限られているし、また言うまでもなくこのような季節は永遠に続くものでもない。ファンの側としても今のねごとをリアルタイムで追えることは、間違いなく特別な体験となっていくだろう。
今日のハイライトは、本編の最後に演奏された“カロン”だった。「LISMO!」のCMソングとしてお茶の間レベルにまで浸透し、もはや聴いたことがない人を見つける方が困難なくらいのアンセムを今更語るのも野暮かもしれないが、やはり何度聴いてもこの曲は凄い。曲構成やアレンジから各楽器の細かい仕掛けまで、全てが功を奏している。例えば、これ程強いメロディのサビを持っているのに、2回しかそれを使わない潔さ。唐突に途切れるような大胆なアウトロ。全てに心を持っていかれる。今日の演奏では、少しリズムが走り気味なように感じたが、そんなことモノともしないほどにとにかく曲が強力すぎる。逆に言えば、この曲のポテンシャルを完全に引き出し、自在に扱えるようになったとき、ねごとはロック・バンドとして1つの高みに到達するのではないだろうか。それだけの曲だと思った、改めて。
“カロン”の後にはさらに大きな規模の会場での東名阪ワンマン・ツアーを行うことが発表された。その前には数多くの夏フェスへの出演も決まっている。彼女たちを取り巻く状況が、この時代が、彼女たちを加速度的に求めているのだ。その追い風に乗ってねごとがどこまで飛翔していくのか、期待を胸に追いかけていこうと思う。(長瀬昇)
セットリスト
1.透き通る衝動
2.彗星シロップ
3.季節
4.うずまき
5.ワンダーワールド
6.フレンズ
7.七夕
8.メルシールー
9.街
10.ビーサイド
11.ランデブー
12.雨
13.NO
14.ループ
15.カロン
16.夕日