最新アルバム『for staying real BLUE.』のオープニング・ナンバーでもある“in my hand”を歌い出すANZAI(Vo./G.)の声が、リキッドルームのフロアを真っすぐに射抜く。前作『Keep on smashing blue,』からわずか8ヶ月で届けられた新作を携えての全国ツアーは、7/9の千葉LOOKを皮切りに、数多くの対バンを重ねつつ一夏で20本の公演を駆け抜けてきた。いよいよ、21本目のファイナル・ワンマンである。最新作ではBOUBACARを名乗るシンゴ(G. Cho.)の電撃のようなギター・ソロが迸り、続く“Revolution is starting”では目の覚めるような鋭いバンド一体型リフとともにMATSUMURA(B./Cho.)の伸びやかなリード・ボーカルが届けられるのだった。空間系エフェクトを噛ましたBOUBACARの不穏なシャウトが纏わりつき、楽曲の爆発力を更に高めてゆく。
HIROSHI(Dr./Cho)の叩き出す高速回転2ビートの中から繰り出されるのは“WEDGE”、そして“TODAY”といった『KAWASAKI RELAX』の収録曲たちだ。このスピードの中で巧みに交錯してゆく、動き回るそれぞれのフレーズが、まるでラスアラの4人の「生きる速度」を物語るようだ。まったく、振り落とされないようにするだけで精一杯の凄まじい序盤である。「『for staying real BLUE. TOUR』ファイナル、リキッドルームに集まってくれてありがとう! いきなり楽しくてしょうがないんだけど、今日はみんなでグチャグチャになってビチャビチャになって、ひとつになって帰りましょう!」とANZAIがファーストMCを切り出し、MATSUMURAは「今から終わるのがコワイです。21箇所、対バン相手が凄くて、悔しい酒、楽しい酒、いろんな酒を呑んできました(笑)。ここにいるみんなは俺たちのことが好きで、もちろん俺たちもみんなのことが好きで、つまり相思相愛。今日は愛情いっぱいの空間にしましょう!」と続ける。
BOUBACARによるエスニックで玄妙なギター・フレーズのイントロに歓声が上がり、“HEKIREKI”。速さの中にもしっかりと歌心を注ぎ込んだ名曲だ。そして沸々としたカッティングからエモーショナルに転げてゆく、新作収録曲“One”へ。4つ打ちのキックが鳴らされて力強いグルーヴが物語を押し広げる。既に汗だくになっているステージ上の4人だが、まったく手を緩める気配もなく、ラスアラのスピード感の中で次々にドラマティックな、映像喚起力の高いナンバーをプレイしてゆくのだった。前作『Keep on smashing blue,』と新作『for staying real BLUE.』の楽曲が交互に繰り出される時間帯である。この2作は連作テイストになっていて(それぞれのタイトルの末尾にあるコンマとドットに注目)、繋げて意訳すると「変わらないために変わり続ける」(公式HPより引用)というふうになる。苦悩と憂鬱を抱えてしまう青さは厄介で、それでも青さは自分が自分らしく生きてゆくための、失いたくない大切な武器でもある。ラスアラがキャリアを通じて描き出してきた「青さ」との格闘が、更に深く掘り下げられている印象だ。彼らはそのテーマと正面から向き合うために、立て続けに2作のアルバムを作り上げたのだろう。
開演から30分ほどで11もの楽曲をプレイ。華々しいツイン・ボーカルにオーディエンスが跳ね回る“僕信論”をフィニッシュすると、ANZAIが語る。「2月からレコーディングに入って、2ヶ月かかったんですが、みなさんも知っているとおりその間に震災が起きて、日本は大変な事態に見舞われました。俺たちはやるべきことをやろうと思って、そしてアルバムが無事店頭に並んだことは、奇跡だと思います。本当に特別なアルバムになりました。天災があって人災があって、それでもこうしてツアーに出ることが出来て、僕らなりに土地を踏んで、人と話して、こういう言い方していいのか分からないけど、日本人ってスゴイなと思って。いろんな人に出会って、いろんな人に感化されて、コンチクショー、って思って。そしてみんなのこういう笑顔がエネルギーになって、この笑顔があれば日本は大丈夫だな、って思いました。ありがとうございました」。
アーティストは社会に対し、一方的にエネルギーを注ぎ続けることは出来ない。むしろ混乱する社会の中でラスアラは人々にエネルギーを注ぎ込まれ、アルバムを完成させ、ツアーを駆け抜けてきた。だからANZAIは「ありがとう」と言ったのだ。音楽で空腹が満たされることはないし、音楽で雨風をしのぐことはできないが、しかし音楽は人々を奮い立たせ、人々の背中を押すことができる。この夜のラスアラは確かに、そういうステージを見せているのである。ANZAIが歌う“エンプティハート”からの『for staying real BLUE.』収録曲が次々に畳み掛けられる時間帯、まるでラスアラは、ツアー期間中に注ぎ込まれてきたエネルギーをまとめて投げ返すようなプレイを続けていた。《一握りの青に誓った無茶な約束が/静寂に足踏みしたままの僕を揺らす(“静寂の中、その矢は放物線を描く”)》。感情の昂りと共に強く引き絞られて放たれた矢は大きく弧を描き、いつか固い岩すらも砕くだろう。
「今回は8ヶ月で早いスパンを目指したんですけど、しばらく音源は作らないと思います。いや、2年とか3年とかじゃないんだけど、しばらくライブに力を入れたいと思って。やっぱり、古い曲も大事にしたいんだよ。だからライブで、激しいの行っちゃおうよ」とMATSUMURAが告げて突入した本編の最終ブロックは、デビュー・アルバムに収録された“REBEL FIRE”や、満場のOIコールを巻いて爆走し、スリリングなブレイク部ではHIROSHIも高く腕を掲げる“LAST ALLIANCE”といった往年の楽曲群だ。BOUBACARの熱いギター・プレイもラスト・スパートに突入するが、テクニカルなだけでなく独特の味わいのフレーズを次々に繰り出すこの人のギター・ワークは本当にかっこいい。そして本編最後は“片膝の汚れ”だ。黒くうねるリキッドルームのフロアから、一斉に「ウォオーオ」とコーラスが歌われてフィニッシュする。
アンコールは、新作のボーナス・トラックに収められていたバンド初期からの楽曲群“Melancholy”や“一握りの青”である。なるほど、過去曲を見つめ直すモードはここから始まっていたのだろうか。そしてダブルアンコールで「みんなに捧げます」と美しい“Letter”が披露されて、全23曲のファイナルは幕を閉じた。2時間にも満たないショウだったが体感時間はそれよりも短く、しかも手応えは濃密という、つまりバンド側もオーディエンスも一切集中力の途切れない素晴らしいライブであった。パンク/エモを起点に、現代の青き神話を宙空に描き出してしまうようなラスアラの世界観は今、めちゃめちゃ充実している。12/27には代官山UNITで、様々な企画を盛り込みつつ今のラスアラの季節を総括する特別なワンマン・ライブを企画中ということなので、こちらもぜひ楽しみにしていて欲しい。また10/13には、彼らの所属するVAPの30周年企画『VAP 30th Anniversary 電撃バップvol.1』@SHIBUYA-AXにも出演予定だ。(小池宏和)
セット・リスト
1:in my hand
2:Revolution is starting
3:WEDGE
4:LOSER
5:TODAY
6:HEKIREKI
7:One
8:WING
9:stardoubt
10:BLUE LIGHTNING
11:僕信論
12:エンプティハート
13:スロートワート
14:μ
15:静寂の中、その矢は放物線を描く
16:REBEL FIRE
17:Everything is evanescent
18:LAST ALLIANCE
19:剣戟の響き
20:片膝の汚れ
EN1-1:Melancholy
EN1-2:一握りの青
EN2:Letter
      
      
      
      LAST ALLIANCE@恵比寿リキッドルーム
        2011.09.24