セバドー @ 渋谷O-nest

セバドー @ 渋谷O-nest - pics by 小原泰広pics by 小原泰広
1994年発表の金字塔的作品『Bakesale』を今年4月にリマスタリング&ボーナスCD付でリイシューしたセバドー。現在のところセバドーの最後のアルバムとなっている『The Sebadoh』を1999年にリリースした後、フォーク・インプロージョンやセントリドーやソロ名義で作品を発表していたフロントマンのルー・バーロウだが、2005年に再加入したダイナソーJr.やソロとしてはたびたび来日していたものの、セバドーとしては久しぶりの来日公演となる。ツアーは今後、名古屋・大阪・福岡を廻り、再び渋谷でファイナルを迎える(以下、一部セットリストに触れるのでこれから行く方はご注意ください)。

そんな彼らのために、今夜は3ピースバンドのuri gagarnがオープニング・アクトを務めた。反復する8ビートのリズムに、ゆったりとした言葉数の少ないボーカルを乗せるのはgroup_inouでもcpとして活動している威文橋。「本当セバドーやばいですよ」と興奮して繰り返し話す様子にフロアから笑いが上がった。

セバドー @ 渋谷O-nest
ステージに登場するなりマイクに向かって「モシモシ」と話したルーが最初に始めたのは、今後リイシュー予定の1996年作『Harmacy』から“Too Pure”。オリジナル・メンバーのジェイソン・ローウェンスタイン(Vo、B、G)と、ジェイソンとはファイアリー・ファーナセスのツアーサポートメンバーとして一緒に活動しているボブ・ダミーコ(Dr)が、ルーの歌とギターを完璧なコンビネーションで支える。

今回のツアーは「The bakesale / harmacy remembering time tour」と銘打たれているだけあって、続いて“On Fire”、“Skull”、“Rebound”といった『Bakesale』『Harmacy』期の人気曲が次々と披露される。7曲目からはルーとジェイソンが立ち位置を替えて“S. Soup”や“Mind Reader”などのヘヴィーな楽曲に移るのだが、特にこうしてジェイソンがボーカルを取ったときのステージングは第一線で活躍する若手バンドさながらの熱気に満ちていて驚かされる。この後もルーとジェイソンは何度か位置を替えながら各々が作曲した曲でメインボーカルを取った。

セバドー @ 渋谷O-nest
“License to Confuse”の後にルーが「ふう! 今のちょっと速くやりすぎたよ」とおどけて見せたり、「今夜は猫カフェに行きたいね」という妙に日本通な発言からルーの飼っている猫についてジェイソンとしばし談笑したりと、観客との距離感も近い今夜のセバドー。チューニングがうまくいかなかったりスネアが壊れたりといったトラブルもあったものの、序盤の「できるだけたくさん曲をやるからね」という言葉通り、30を超える楽曲を演奏し、本編最後を初期の名曲“Brand New Love”で締めくくった。

世間で最高傑作とみなされている『Bakesale』よりも、自分では『Sebadoh III』(1991年)、『Bubble and Scrape』(1993年)、『The Sebadoh』(1999年)の3枚のほうが気に入っていると過去に語ったことのあるルーは、今年行われたインタビューで「なんでみんなが『Bakesale』を僕らのベスト・アルバムだと考えているのかやっと分かったよ。あれは僕らの作品の中でいちばん一貫性があるレコードなんだね」と話している。

セバドー @ 渋谷O-nest
この発言の通り、『Bakesale』と『Harmacy』を中心に組まれた今夜のセットはセバドーというバンドの核となる部分をはっきりと示していたように思う。2011年のいま彼らのCDを聴いているとそのローファイというスタイルばかりに目が(耳が)行ってしまうけれど、今日感じたのはただただ彼らの曲の良さだった。そのメロディや曲の展開は、キャッチーとさえ言えそうなほどまっすぐに心に響いてきた。

逆に言えば、音色そのものの美しさやヴァリエーションに頼ることのできないローファイという枠組みがあるからこそ、「いい曲を作ろう」というソングライターとしての基本的な姿勢に立ち返ることができたのかもしれない。そしてこのことは、ペイヴメントやガイデッド・バイ・ヴォイシズを始めとするローファイ勢の近年になっての再始動・再結成が期待を込めた眼差しで見守られている理由の1つなのではないだろうか。

もちろん、ローファイ・ミュージックが当時(80年代)のきらびやかで商業的なメインストリームの音楽に対する個人の側からの反抗であったことも忘れてはならないと思う。安価なレコーディング環境のために聴き手に元の音質のまま届けられることのないミュージシャンの声は、社会の表舞台に届けられることのない若者たちの声をそのまま表現していたはずだ。

時を経て現れた、インターネットによって「声が世界中に届けられる」ことを保証された世代のアーティストたち、特にグローファイまたはチルウェイヴと呼ばれる一群のアーティストたちも、リヴァーブやハーモニーを多用することによって「すでに届けられた声」をいかに世界や他人と調和させていくかを模索しているという意味では、ローファイ・バンドたちの課題の延長線上にいると言えるだろう。アンセム的なアレンジで演奏されたアンコールの“Willing to Wait”を聴きながら、セバドーが今もインディーロック界の良心のような存在として多くのファンやアーティストから絶大な支持を集めている当の根拠を身をもって体験できたような気がした。(高久聡明)


セットリスト
1. Too Pure
2. On Fire
3. Skull
4. Rebound
5. Ocean
6. Magnet's Coil
7. S. Soup
8. Mind Reader
9. Got it
10. Love to Fight
11. Drag Down
12. Dreams
13. The Freed Pig
14. License to Confuse
15. Sister
16. Drama Mine
17. Crystal Gypsy
18. Careful
19. Bird in the Hand
20. Soul and Fire
21. 2 Years, 2 Days
22. Beauty of the Ride
23. Not a Friend
24. Together or Alone
25. Forced Love
26. Sixteen
27. Give Up
28. New Worship
29. Brand New Love
-Encore-
30. Not Too Amused
31. Willing to Wait
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