「SHIBUYA-AXいいね! 今日も非常に楽しそうな笑顔が、そちらこちらから届いております! 満ちております、人が。ってことは……何かが起きるってことなんだね! 今日しか起きない奇跡を、みんなで作り上げよう!」というアジテーター・社長の高らかな宣誓に、天まで届けとばかりに突き上がる拳と大歓声! 10月22日の松本ALECX公演を皮切りに、金沢EIGHT HALL/浜松窓枠/大阪BIGCAT/名古屋Bottom Lineと巡ってきた『SOIL&"PIMP"SESSIONS TOUR 2011』全17本中の6本目=東京:SHIBUYA-AX公演は、タブゾンビ(Tp)/元晴(Sax)/丈青(Key)/秋田ゴールドマン(B)/みどりん(Dr)の繰り出すスリリングな爆裂ジャズ・アンサンブル、「おそらく東京中、いや日本中で、いちばん大きくて美しい声が響いてるのはここだと思う! だが、まだ足りない!」という社長の煽りとともに、アンコールまで含め2時間半にわたってステージとフロアが一丸となって情熱のクライマックスを目指すような、どこまでも熱いアクトだった。
ジャズとフュージョンとファンクが手に手を取って踊り回るような“Some Skunk Funk”の上を舞う、タブゾンビのリバーブかかったミステリアスなソロフレーズ。社長/タブゾンビ/元晴のバケツ・パーカッション乱れ打ち&秋田ゴールドマンのサンバ大太鼓が人間の根源的な欲望と生命力そのもののように響き渡る“Sexual Hungry”。ジャズ・ドラム&ウッドベースで奏でる4つ打ち(!)ビートと社長のヴォコーダー使いが歓喜の異世界を描き出す“Above the Crowd”。ミラーボールのきらめきと競い合うかのように妖しげな狂騒ジャズ・ディスコ音像を展開してみせた“Jazzman in the Rave”……といった最新作『MAGNETIC SOIL』の楽曲を軸に、“Summer Goddess”“SAHARA”“Fantastic Planet”といった必殺曲を絡み合わせて極上の音楽空間&ダンス空間を作り上げ、一大シンガロングとハンドウェーブでAXのフロアを埋め尽くしてみせたSOIL。そして……この日の6人の鳴らすアンサンブルは、身を焦がすような熱量だけでなく、これまでのSOILとは比べ物にならないほどの風通しのよさと包容力をも同時に伝えてくるものだった。
当初から標榜していた「デス・ジャズ」というキーワードからもわかる通り、彼らの超高性能なアンサンブルは同時に、他のジャンルへの、そしてジャズ自身への強烈な攻撃衝動に満ちたものだった。他の国との壁を壊し、他のジャンルとの壁を壊し、まだ見ぬ音楽ファンの心の壁を壊す、パンク精神越しのジャズ・サウンド……しかし。今の彼らの音は、そんなかつての彼らの佇まいすらどこか窮屈に感じるほどに、ダイナミックで、自由だ。彼らの鳴らす音階やビートの1つ1つが目に見えてポップだったりキャッチーだったりするものに変貌したわけではない。音階の足枷を軽々と飛び越え、常軌を逸した音のエネルギーを生み出す彼ら6人自身が、そのデス・ジャズの刃の矛先を別のものに向けた結果だろう。すなわち「僕らの歓喜と生命力を妨げるものすべて」へ、だ。それによって、6人の音はよりクリアになって生命力を増し、彼ら自身のアティテュードも当然「他者との競争・戦い」から「調和」へと変化していった。そういうことだと思う。だからこそ今の彼らの演奏は、スリルや熱量を格段に増しながらも、聴けば聴くほど視界が開けて明日への躍動感と覚醒感を感じさせるようなヴァイブを体現し得ているのだ。
随所で挿入される丈青のワイルドなピアノ・プレイも、タブゾンビのエモーショナルなトランペットも、元晴の渾身のサックスも、秋田ゴールドマンのタフで粘っこいベースも、みどりんのしなやかなドラムさばきも、それ単体で2時間でも3時間でも観ていたいくらいに高度に音楽的に研ぎ澄まされたものだったし、それが時に惑星直列を果たし、時にバラけて未知の音の星座を描き、時に誰かが流星のように鮮烈なソロを奏で……という彼らの変幻自在なプレイアビリティは、それ自体が途方もないアートそのものだった。そんな演奏に沸き立つ熱気を、「この会場に満ちた『気』がもう、こう……ボヨンとなってる! あとひと息で、この気が天井を突き破る!……あ、鼻で笑ったな!?(とフロアを指差す)。そういうんじゃないんだよ!(笑)」とお茶目さ倍増の社長のアジテーションがさらに悦楽の彼方へと導いていく。
本編終盤、「さあみんな、拳を掲げて、大事なものを叫んでみよう! 何がいいかな……やっぱり音楽かな?」というMCに続けて「WE LOVE MUSIC!」のAX一丸大合唱を誘う社長。「恥ずかしいか? むしろカッコいいよね? WE LOVE MUSIC! WE LOVE JAZZ! 信念を持った声は本当に美しい!」という言葉に誘われるように、夜空を貫く勢いの「WE LOVE MUSIC!」コールが沸き上がっていく……迷いも衒いもなく、生命の喜びと真っ向から向き合うこと。それを圧倒的な才能をすべて注ぎ込んだ音楽として鳴らすこと。そんなSOILの精神そのもののような晴れやかな光景に、思わず心と身体が熱くなった。さすがに“MOVIN'”(ゲスト・ヴォーカルにあのマイア・ヒラサワをフィーチャーした『MAGNETIC SOIL』のリード・シングル)こそやらなかったが、「渋谷の熱量は確かに受け取った! この熱量は必ず次の街へ持っていきます。つながっていこう! この国を熱くしていこう! ディス・イズ・デス・ジャーズ!!」という社長の声が、聴く者を誰1人拒むことのない今のSOILのでっかい可能性を象徴するかのように、ひときわ誇らしく響いた。12月10日・京都磔磔まで続く全国ツアー、次は11月10日・仙台darwin公演!(高橋智樹)
SOIL&"PIMP"SESSIONS @ SHIBUYA-AX
2011.11.07