黒猫チェルシー @ 恵比寿リキッドルーム

黒猫チェルシー  @ 恵比寿リキッドルーム
11月に自身初のシングル『アナグラ』をリリースした黒猫チェルシーによる、全7公演の『アナとマタTOUR』、今夜は東京公演で会場は恵比寿リキッドルーム。同ツアーはこの後に仙台、長野の2公演(これらはOKAMOTO’Sとの対バン)を残しているが、ワンマンとしてはひとまずファイナル、年内の東京公演もこれがラストである。多くの黒猫マニアが詰め掛けた今夜のライヴは、ブレのないバンドの核心を剥き出しにした掛け値なしに素晴らしい夜だった。

定刻を少し回った19時10分頃に場内が暗転。割れんばかりの拍手の中にメンバーがぞろぞろと登場、今日の渡辺大知は学ランだった。(毎度思うことだけど、彼の学ランとそれ以外の衣装の着分けには何かフラグがあるんですかね?)SEを打ち消すように鳴り響く豪快なアンサンブル、澤竜次の荒々しいギターがさらに引っ掻き回すオープナーは“スピーカー”である。大知のヴォーカルは、デビュー前後のやけっぱちな衝動を小脇に抱えつつも、色艶がしっかりと引き伸ばされている。歌声にリアリティのある心情が加わり、楽曲の奥深くにぐっと引き寄せるブレない決意を感じる、力のある声だ。「キョンばんはー!!!」(と聴こえた)、「『アナとマタTOUR』へようこそ!!!!」」と大知の気合一発、続く“泥カーニバル”は、土着的なロックンロール。その内にどす黒いサイケデリアを滲ませながら、怒涛の突進力で転がり、のた打ち回っていくグルーヴ。フロア狭しと詰め掛けたオーディエンスからは無数の拳が突き上がっている。
黒猫チェルシー  @ 恵比寿リキッドルーム
黒猫チェルシー  @ 恵比寿リキッドルーム
黒猫チェルシー  @ 恵比寿リキッドルーム
“ショートパンツ”、そして“ノーニューヨーカー”と、序盤は初期の楽曲を中心としたセットだったが、これらの曲はもう、ただ「個々の演奏技術が向上した」という一言では到底説明できないほど、別の楽曲に生まれ変わっている。多くのミッドセクションで見られる澤の憑依的で超人的なギタープレイの数々、そして豪傑で荒々しいサウンドは、もはやアレンジの域を大きく飛び越え、別の側面から光をあて、新たな楽曲として昇華させている。はたしてこれが熟考を重ねた結果なのか、思いつきと閃きの産物なのか(だとしたら大したものだけれど)はわからないがとにかく、そのサウンドに対する嗅覚の良さ、これは今夜のライヴで随所に感じたことだった。もちろんライヴにおいて更なるアレンジを加えることは特段珍しいことではない。が、黒猫の場合、それが熱心なファンのみにわかる些細なものでも小手先のものでもなく、なんとなく聴いたことがあるリスナーにもはっきりした変化として届けることができる。そしてそれが恐ろしく好意的に、熱狂的に受け入れられているということ。黒猫の新たなポピュラリティの獲得を見た瞬間だった。続く“モーター”では、彼らのバンドとしての飛距離をまざまざと見せつけるように、衝動性をぐっと内に込めてゆっくりと解き放つロックンロールが展開され、フロアを緩やかに揺らしていく。

中盤に披露された“排泄物 from くち”、“オーガニック大陸”、“ファンキーガール”のような楽曲もまた、大知のヴォーカリストとしての飛躍を大きく感じさせるものだった。大知は、ある時は収まりつかない苛立ちを英雄的に叫ぶエレファントカシマシ宮本のように、またある時は言葉を散弾的にぶちまけていくラッパーのように、バンドアンサンブルに対しての言葉の乗せ方、あるいは外し方と、巧みに使い分けている。それを意識的というよりは感覚的に表現できる大知は、やはり天性の才能を持ったヴォーカリストなのだろう。そして“ベリーゲリーギャング”へ。ニューウェイヴ/ポスト・パンク期のような音の余白を、黒猫の野性的な豪傑サウンドでロールする彼らの姿は本当にかっこいい。黒猫にとって最もダンサブルなこの曲でフロアは身悶えするように踊り狂い、その熱量を天井知らずに上げていくのだった。

そして、11月2日にリリースされた初のシングルから“マタタビ”、“アナグラ”がプレイされ、彼らの初期に立ち返るような強靭なロックンロールが鳴らされる。とはいっても、黒猫にとって原点回帰型のロックンロールかと言われればまた少し違う。『NUDE+』でサウンドやアンサンブルの鳴り方、プロダクションが徹底的に磨かれて音の全体像がクリアになったことで本質的なバンドのスケールが剥き出しになり、より大きな形として描かれたロックンロール・ソングである。先程の過去曲が大きな変化を遂げて届けられたことも決して無関係ではないだろう。スタジアム的というのは言い過ぎだとしても、その飛距離を確実に伸ばしている。ハードロックを無理矢理高速回転させたような“アナグラ”を筆頭に、様々な音楽のエッセンスを取り込みながらも、あくまでロックンロールの土壌で解釈すること。それは彼らの今後変わらぬ普遍的な強さと魅力であり、たとえその飛距離を伸ばし続けたとしても初期からの熱心なファンを置き去りにするようなことはない。「久しぶりの顔ばっかやなー、みんなの顔覚えてんねんぞ」、それは大知のMCにもしっかりと表れている。

ザ・キュアー“ボーイズ・ドント・クライ”のカバーからシームレスに繋がれた“夜更けのトリップ”で、よりストレートにエモーションを描くとライヴもいよいよクライマックスへ向かう。脳天直下型のパンク・ソング“YOUNG BLUE”、《更に窮屈なロックンロール》のシンガロングに沸いた黒猫アンセム“廃人のロックンロール”、岡本啓佑のパーカッシヴな四つ打ちと澤のファンキーなカッティングがダンサブルに展開する“Hey ライダー”、と堂々とした立ち振る舞いから繰り出されるロックンロールで、オーディエンスを上げに上げていく黒猫。そして何よりも圧巻だったのが“オンボロな紙のはさみ”だった。曲終盤の《やりたいことが多すぎる》の一節をいきなり冒頭にもってくるなど大きく展開を変えたこの曲は、澤のギターがリヴァーヴを通り越してノイズの域に近づき、宮田のベースラインがのたうち回り、岡本のドラムが本能のままに暴れ狂い、大知はトチ狂ったボブ・ディランのようにハーモニカを吹きまくる。この着地点を全く見据えずに、バラバラの個性がしのぎを削りあった音像の先には巨大なサイケデリアが表出し、凄まじいトリップをオーディエンスにもたらすのだった。間違いなく今夜のハイライトだろう。本編ラストは“Pop Life”、そしてアンコールで“嘘とドイツ兵”をたたみかけ、約1時間30分の濃密なロックンロール・ショウは幕を閉じた。
黒猫チェルシー  @ 恵比寿リキッドルーム
言うまでもないことだけど、黒猫チェルシーは偉大な先人達が鳴らせてきたロックンロールを力ずくで乗りこなし、自分たちとその周りを巻き込んでロールしてゆくことができるバンドだ。しかも今の彼らはロックンロールを乗りこなすだけでなく、自らの血となり肉としている。イントロのリフ一発で根こそぎもっていかれるあの瞬間は、そうそう出会えるものでもない、彼らのライヴを観るといつもそんなことを思う。今夜のライヴで大知がしきりに水のことを「エタノール」と呼んでいたことだけはよくわからなかったけれど。(古川純基)

セットリスト
1.スピーカー
2.泥カーニバル
3.ショートパンツ
4.ノーニューヨーカー
5.モーター
6.あらくれにっぽん
7.排泄物 from くち
8.オーガニック大陸
9.ベリーゲリーギャング
10.ファンキーガール
11.マタタビ
12.ダイナマイトを握っているんだ
13.アナグラ
14.Boys Don't Cry
15.夜更けのトリップ
16.YOUNG BLUE
17.廃人のロックンロール
18.Hey ライダー
19.オンボロな紙のはさみ
20.Pop Life

アンコール
21.嘘とドイツ兵
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