ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト

ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト
ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト - pics by 橋本塁pics by 橋本塁
迷った。自宅を出るときから迷っていたのだ。ヒートテックなんか着ていったらまずいのではないか、と。で、やっぱり後悔した。室内とはいえ、12月にあってはならない温度だった。9/22の東京・渋谷クラブクアトロを皮切りに、2ヶ月半に渡って全28公演の全国行脚をこなしてきたストレイテナーの『LONG WAY TO NOWHERE TOUR』、東京・新木場スタジオコーストにおけるファイナル。みっちみちにオーディエンスで埋まったフロアは、開演前から異様な熱気が立込めている。それみたことか。せめてTシャツを用意するべきだったのだ。

暗転した場内に大歓声が沸き、ホリエアツシ(Vo./G./Key.)、ナカヤマシンペイ(Dr.)、日向秀和(B.)、大山純(G.)の4人がさっと定位置につく。プレイされるのは、結成13年目のセルフ・タイトル・アルバム『STRAIGHTENER』のオープナーにして今回のツアー・タイトルにも引用されている“A LONG WAY TO NOWHERE”だ。最少限なのに雄弁な、この4人のアンサンブルが沸々と熱を帯び、寄り集まって新しい感情と視界を描き出してゆく。駆け出した“CLARITY”でグイッとオーディエンスを連れ、ホリエはヴァイオリンのような美しい音色のフレーズを鍵盤から繰り出すのだった。完全に火が点いたオーディエンスたちはOIコールで“VANISH”を煽り立て、一斉にコーラスを重ねてゆく。今度はバンド側が、尻に火をつけられたようにテンポを加速させた気がした。

「『LONG WAY TO NOWHERE TOUR』、ファイナルです! 2ヶ月半ぐらい日本を廻ってきたんですけど、でもこの長くあてのない道程はまだ続きます。今は、ここに、いる! NOW, HERE!! ……(囃し声が飛ぶ)……」「出口、見失ってんじゃねえよ(シンペイ)「今ここで、ストレイテナー今日もいきます! 最後までよろしくお願いします!」と軽く躓いたホリエ。惜しい。しかしその程度の失敗では、今のテナーのパフォーマンスは揺るがない。“Ark”を雄々しく歌い上げるホリエにはOJの熱いギター・ソロとひなっちのワイルドなリード・ベースが続き、シンペイがドカドカとビートを繰り出して転がり出すナンバーはなんと…ひなっちがサポートするよりも前に生まれたレパートリー“NEVERLAND”だ。唐突にリズムが切り替わるこの曲を縫うように歌い上げるホリエには、何か頼もしさすら覚えるようだ。今度は彼の跳ね上がるギター・リフに、力強さと語るような滑らかさを併せ持つシンペイのドラム・プレイが絡んで“FREEZING”。それにしても場内が、加速度的に暑さを増してゆく。

物憂げなキーボードの旋律が流れ出して“Lightning”がプレイされる。この曲、ハーモニー・ワークが一層豊かになっていないだろうか。“REMINDER”を経た後は“YOU and I”だ。ロック・バンドらしい力強いドライヴのリフと、決して太い訳ではないというかむしろ線が細く感じられるのに、鮮やかに爆音の中をかい潜って来るホリエの歌。これ、彼らは自然にやっているように見えるが、実はもの凄くアクロバティックなのである。

ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト
ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト
英語文化のロックというのは。当然、英語のイントネーションやアタック感をベースに歌メロが作曲されているので、バンド全体のアレンジもそれに見合ったものになる。大昔、日本語でロックするのは難しいと言われていた時代があったけれど、それはロックが「英語のために」生まれた音楽だからだ。その後、多くのアーティストの多くの努力があって、日本語ロックは進歩してきた。で、テナーにおけるホリエの歌。声を張り上げるでもない繊細なメロディなのに、あのシンペイとあのひなっちとあのOJの極悪同盟みたいなロック・サウンドの中から、抜けて来る。4人がそのためのサウンドとアレンジを編み上げているからだ。《解けない迷路の中で/合わない鍵を探して》、“YOU and I”そのままに、ダイレクトにオーディエンスに届く。

ひなっちの美しいベースのアルペジオが加速して、新作収録曲が続く“氷の国の白夜”。4人の背後にある、あれはミラーボールならぬミラープレートだろうか、それともあれ自体が光源なのか、極彩色の光を放って目映いばかりの演出だ。その後に控えているのは、激しくレーザーが飛び交う“Man-like Creatures”から“KILLER TUNE 【Natural Born Killer Tune Mix】”の息もつかせぬ連打。余りの最高潮ぶりに、もしかしてもう終わるのか? と思ってしまうほどであった。

ホリエ:「前半終わったよ」

シンペイ:「クールな報告だな。俺ね、こんなに待たれてる感があると思わなくて、みんなのテンションを受け止めるのに必死です、今! 今日は来るとき、初日のテンションに似てると思って。いや、初日って危ないのよ。入れこみ過ぎて」

ホリエ:「初日観た人、わかるでしょ? クアトロ、入れこみ過ぎ」

シンペイ:「言っても、地方で何年もストレイテナーを待ってる人には敵わないだろう、と思ってたのよ。(東京で)毎月のように観てる人は。間違ってました! ごめんなさい!」

ホリエ:「じゃあ後半も、ぶっ飛ばしていきましょうか!」

確かに、オーディエンスのテンションが凄い。この後も“VANDALISM”から“KINGMAKER”とバンドは有言実行よろしくぶっ飛ばすのだが、ぎっちりのフロアで序盤からずっと息切れもせずに食らいつき、ステージに向けて言葉を投げかける。“DONKEY BOOGIE DODO”のOJによるファンキーなカッティングに踊り、間の手をあげ、大きくフロアが波打つようなジャンプも見せる。が、ダレ場を作らないよう心掛けるバンド側の配慮も見事だ。可能な限り、1曲をプレイし終える前にメンバーは楽器をチェンジして、すぐさま次の曲へと向かう。シンペイが椅子の上に立ち上がって吠えるお得意のポーズを見せると、ひなっちのスラップが火を噴く“CRY”である。ホリエは「湯気が霧みたいになっててヤバイ」と告げていた。「目の錯覚だろ! もしくはお前の涙だ!」とシンペイに突っ込まれていたが、2人とも、困ったときにインチキ関西弁で誤摩化そうとしてはいけないだろう。

ああ、初めてダレ場が来たか、と思いきや、“瞬きをしない猫”で魔法のように高揚感を取り戻してしまう。レーザーとノイズが溢れ帰る“Little Miss Weekend”、そして狂おしさとともに延々と破裂音が繰り返されるような“プロローグ”である。どこまで行けば気が済むのだろうか、このバンドは。「あー楽しー!! 2ヶ月半も一緒にいて、まだ楽しいんだよ? すごくない!?」と漏らすホリエ。ツアーの充実ぶりを伺わせる言葉だ。終盤戦は、空間系エフェクトを噛ませたホリエの美しいギターとOJのキーボード・フレーズが交錯する“The Novemberist”。序盤の“A LONG WAY TO NOWHERE”と対を成すかのように、ホリエのたなびくファルセット・ヴォイスがこれまで歩んできた道程と果てしなく続く道程に思いを馳せる“プレアデス”。フィナーレは“羊の群れは丘を登る”から、フロア一面に揺れる拳や掌、そしてシンガロングが彩った“Melodic Storm”が締めくくる。汗まみれの4人はステージ中央で肩を組み、頭を下げた。

ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト
「こんなに暑くなると思わなかった。本当にいいライヴ。ありがとう、また会おうね」再登場したホリエはそう語り、バンドはアンコールまでの間が無かったかのように、一撃で叩き起こす“TRAVELING GARGOYLE”を披露した。「『LONG WAY TO NOWHERE TOUR』ラスト!! 新木場スタジオコーストの、バーサーカーに捧ぐ!!」とシンペイが叫び、下手にドラマチックな幕切れなど要らん、とばかりに“BERSERKER TUNE”の狂騒の中へと突入。まったく最後まで凄いライヴだった。このままテナーは、我々はどこまで行くんだろう。スリルと、それに倍する期待感を押し付けられて帰路につく、そんなライヴであった。

既にニュースでも報じられているが、今回のツアーの模様を収めたDVDが2012年2月29日にリリースされるという。また、ストレイテナーは12/30に、千葉・幕張メッセで行われるCOUNTDOWN JAPAN 11/12に出演を予定。同日にはホリエのDJ出演も行われる。また、12/28にはシンペイとOJが在籍するanother sunnydayが、12/31にはひなっち擁するNothing’s Carved In Stoneがそれぞれ出演予定なので、こちらもお楽しみに。(小池宏和)
ストレイテナー @ 新木場スタジオコースト


セット・リスト
01:A LONG WAY TO NOWHERE
02:CLARITY
03:VANISH
04:Ark
05:NEVERLAND
06:FREEZING
07:Lightning
08:REMINDER
09:YOU and I
10:氷の国の白夜
11:Man-like Creatures
12:KILLER TUNE 【Natural Born Killer Tune Mix】
13:VANDALISM
14:KINGMAKER
15:DONKEY BOOGIE DODO
16:CRY
17:瞬きをしない猫
18:Little Miss Weekend
19:プロローグ
20:The Novemberist
21:プレアデス
22:羊の群れは丘を登る
23:Melodic Storm
EN-1:TRAVELING GARGOYLE
EN-2:BERSERKER TUNE
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