アーティスト

    Hilcrhyme@渋谷公会堂

    12月にリリースした3作目のアルバム『RISING』を携え、新年明けていよいよスタートした『Hilcrhyme RISING TOUR 2012』、全国25公演の序盤である東京・渋谷公会堂2デイズ。その2日目の模様をレポートしたい。4月まで続くツアーということもあるので、演奏曲のタイトルや曲順についてはあまり触れないように書き進めますが、ネタバレを極力避けたい、という今後のツアー参加予定者は、以下の閲覧にはどうぞご注意ください。

    TOC(MC)とDJ KATSUの正規メンバーに、CLOPとTHUG-HOMY、それぞれ3名ずつのダンス・チームを加えた、総勢8名のツアー・メンバーによって繰り広げられている今回のツアー。まず公演全体の流れで言うと、「新作ツアーかくあるべし」と言わんばかりにステージ本編にはがっつりと『RISING』の楽曲が詰め込まれ、また「アンコールというのは本来、一度やった曲をもう一回やることを言うらしいですよ」というTOCの説明を踏まえたアンコールの展開なども非常に興味深いものになっていた。つまり、新作のツアーでしっかり新曲群を披露するということは以前のヒット曲群を削らなければならず(不特定多数のオーディエンスを前にしたらヒット・シングルをズラリと並べた方が平均的な反応は高くなるはず)、また同じ曲を再演奏するという意味でのアンコールを行うということはそれだけの必然が求められる(アンコールでは本編と異なる曲をプレイした方がより多くの楽曲を聴けてお得な気がする)わけで、どちらもパフォーマンスとしては難易度が高いというか、「当たり前のことって実は難しい」という部分に敢えて挑戦しているのである。

    Hilcrhymeは、いつだってそんな風に知的なトライアルを自らに課し、それを乗り越えることによってスペシャルなエンターテインメントを作り上げるグループだ。無尽蔵のスタミナとサーヴィス精神でラップに歌にダンスにと活躍するTOCは、ファンがそれぞれに手にした色とりどりのサイリウムを振る光景を信頼した上で“パーソナルCOLOR”のメッセージを投下する。かと思えば、ダンサーが運び込んだ酒のボトルをショットで煽り(実際はアルコール入ってないと思うけど)、酔いどれ気味のテクニカルなフロウ“ポンピラ”を披露してみせたりもする。酔い潰れた(ふりの)TOCがステージから担ぎ出されたときに用意されていたのは、DJ KATSUの緻密に構築されながらもひたすら高揚感に満ちたトラックがライヴ感一杯にプレイされるDJタイムだ。ステージの進行もそんなふうにいちいち練り込まれ、ニュー・アルバムの収録曲をいかに見せるか、という部分に力が注がれている。

    『RISING』は、忘れがたい2011年を踏まえた楽曲も収められたアルバムで、当然“二〇一一日本ニテ記ス”や“Changes”といったメッセージ性の強いナンバーはハイライトとして機能していたのだが、シリアスに時代と向き合いながら、そのためのエネルギーを補給するパーティ性も同じように大切なのだ、とするHilcrhymeらしい意志を強く受け止めるステージにもなっていた。そんなヴァイブレーションは『RISING』からも感じられていたし、今後、我々が長く向き合っていかなければならない生活のリアルを射抜いていると思う。TOCとDJ KATSUがHilcrhymeを名乗る前から活躍していた地元・新潟のクラブ・シーンを振り返りつつ、「今でこそ2時間、3時間のセットが組めるけど、クラブでやってた頃は一組の持ち時間が15分、下手したら7分とか。それだけの時間でどうやって見せるか、それを考えていました」とTOCが語り、きっちり15分のメドレーを披露してみせたりもする。

    また、TOCはこんなことを語っていた。「2012年の目標について話します。頑張る(笑)。俺、頑張る。KATSU、頑張る。Hilcrhyme、頑張る。というのも、2011年はいろんなイヴェントとかフェスとかにも出て、そうすると、盛り上がらないこともあるんだ。そういうときに、みんな(ファン)が下を向かなくて済むように、「ヒルクライマーです!!」って言えるように、頑張る。いろいろノイズとか、否定的な声とか、聞こえてくることがあるかも知れないけど、そんなの俺が吹き飛ばしてあげるよ」。彼らは、タブーを踏み越えて新しいポップ・ミュージックを生み出すことの困難さを、自身の体でよく知っているのだろう。ひとつだけ確かなことがある。あらゆるポップ・カルチャーは、古典芸能になってしまった瞬間、安定を手に入れる代わりに何かを失うということだ。ビートルズも、セックス・ピストルズも、ラン・DMCもエミネムも、みんなタブーを踏み越え、逆風を浴びながら新しい時代を作ったのだ。

    日本人としてもアーティストとしても、新しい時代の扉をこじ開けるために全国を巡る『Hilcrhyme RISING TOUR 2012』。ぜひ多くの人に見届けて欲しいと思う。あと、これは余りにも個人的な感想になってしまうが、「いつもKATSUくんだけがステージから捌ける時間がないから」という理由で盛り込まれたTOCのソロ・コーナーでは、ウインド・チャイムとシンセサイザーを懸命に駆使してウェディング・ベルを奏で、そのまま“友よ”になだれ込むという場面があった。筆者は奇しくもライヴの前日に15年来の、同い年の友人の結婚式が行われ、学生時代の仲間が大集合するという機会があったものだから、思わず視界がぼやけてしまうぐらい感動してしまいました。普段は、他人の幸せなんか、と思っているクチですが、いいもんですね。(小池宏和)
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