ハウラー @ 原宿アストロホール

ハウラー @ 原宿アストロホール - pics by 久保憲司pics by 久保憲司
ハウラー @ 原宿アストロホール
先月デビュー・アルバム『America Give Up』をリリースしたミネソタ州ミネアポリスの5人組バンド、ハウラー。ストロークスやリバティーンズを見出してきた英国老舗レーベル<ラフ・トレード>のジェフ・トラヴィスの耳に留まってアルバム4枚分の契約に至り、その後NMEの「Best New Band of 2011」の3位に選出されるなど、母国アメリカに先立ってイギリスでの人気が高まっている彼らの初来日公演が今夜行われる。明日あさってはそれぞれ東京と大阪でザ・ヴァクシーンズの日本ツアーのゲスト・アクトも務めることになっている。

14歳でギターを始めて以来、数えきれないほどのバンドを渡り歩いてきたという現在19歳のジョーダン・ゲイトスミス(Vo/G)、ギターのイアン・ニゴール、ベースのフランス・キャンプ、そして先日までプリンスの息子なのではないかという噂が流れていたドラムのブレント・メイズ(http://ro69.jp/news/detail/64054)がステージに上がる。なお、キーボードのマックス・ペトレックは今回の公演には不参加。

ライヴは“America”で幕を開け、続けて『America Give Up』のオープニング曲“Beach Sluts”と、昨年2月に発表したEP『This One's Different』からの“For All Concern”に入る。力強く叩ききるようなドラムとドライヴ感のあるベースの上で、ジーザス&メリー・チェインとマイ・ブラッディ・ヴァレインタインを意識したという2本のギターが会場の空気を歪ませ、軋ませる。

「ハッピー・ヴァレンタインズ・デイ! 次の曲は日本の女の子みんなに捧げるよ」と言って始められたのは“Too Much Blood”。夏の陽光の下で視界の全てが白く飛んでいくような60'sポップ風のけだるい曲調は、アップテンポな曲の多いレパートリーの中でとりわけ異彩を放っている。イアンの弾くアーチトップ・ギターの歪んだサウンドにジョーダンのクリーンで硬い音色のストラトキャスターが乗せられる“This One's Different”もハイライトの1つになった。

ハウラー @ 原宿アストロホール
フロントの3人で軽いジョークなども飛ばしながら展開した本編は人気曲“Back of Your Neck”で締めくくられ、アンコールではベースレスの楽器編成で“Black Lagoon”が演奏された。全11曲40分弱のセットはハウラーというバンドのさまざまな局面を眺めるのには短かすぎるように思えたが(まだアルバムを1枚しか出していないのでしょうがないけれど)、そのような印象を受けたのは、彼らが今夜のライヴ、あるいはアルバム『アメリカ・ギヴ・アップ』を通じて表現しようとしていることがほぼワンテーマに絞られていることの表れでもあるのかもしれない。

そのテーマは、インタビューでのジョーダン・ゲイトスミスの言葉を借りれば、「不満――だけどかなり皮肉なレンズを通過させた不満」ということになる。ほとんどの曲で男女の恋愛関係から来るフラストレーションに喩えられている彼らの不満は、「アルバムで唯一政治的な曲」だという“America”で、アメリカを象徴すると思われる女性に対する「もう終わっちゃったんだから諦めなよ」というアルバム・タイトルの「アメリカ・ギヴ・アップ」に繋がるセリフによって表明される。何を諦めるのか、それは21世紀に入って以降アメリカが急速に失いながらも固執し続ける世界の覇権であるように聴こえなくもないが、はっきりしない。

不満があることとその原因の「はっきりしなさ」はティーンエイジャー特有の心性のようにも感じられるけれど、一方で彼らが十分な社会性を獲得する前に9.11以後の世界に入ってしまった世代であることも忘れてはならないだろう。80年代以降生まれの日本人がバブル期の記憶がほとんどなく、「失われた10年(だか20年だか)」がベースとしての現実になっている(つまり世代としては何も失っていない)のと同様に、ハウラーは現在を歴史的に相対化するための別種の現実をそもそも体験しておらず、したがって喪失感そのものがない。

その意味では彼らの「わけもなく感じる不満」は集合的記憶としての歴史性と個人の認識における非歴史性との混合に根拠を持つわけだが、まさに歴史性を持たないがゆえに彼らは傷を負うことも幻想を抱くこともなく、皮肉によって距離感を取りながら現実を生き抜いてしまう。それは内的な格闘の音楽ではないかもしれない。しかしそのメロディには、リズムには、多くの信念が崩れ去り、また崩れ去りつつある世界において今この瞬間を泳ぎきるための極めてプラクティカルな方法論が刻み込まれている。

ハウラー @ 原宿アストロホール
「日本に来るのは今回が初めてなんだ。最高の街だよ」と今夜のMCで話していたジョーダン。この冬ヴァクシーンズのサポート・アクトとして行ったUKツアーで生まれて初めてアメリカの外に出たという彼は、今まさに世界の多様な現実を体験している最中なのだろう。プラクティカルにならざるを得なかったという意味では彼らの世代もやはり楽ではないのだろうけれど、アメリカを初めて外から見るという経験が、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド寄り」のシンプルなサウンドになるという現在制作中の新作に新たな息吹をもたらすことを願いたいと思う。(高久聡明)

セットリスト
AMERICA GIVE UP
BEACH SLUTS
FOR ALL CONCERN
TOO MUCH BLOOD
WAILING (MAKING OUT)
THIS ONE’S DIFFERENT
PYTHAGOREAN FEAREM
TOLD YOU ONCE
BACK TO THE GRAVE
BACK OF YOUR NECK
(BLACK LAGOON)...HMMMMM....MAYBE!!!!
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