●PERFUME GENIUS (14:00~14:45)
シアトルを拠点に活動するマイク・ハッドレアスことパフューム・ジーニアスが今日の1組目。ライヴはデビュー作からの“Perry”でスタートしたが、セットの中心は2月15日に日本先行リリースした2ndアルバム『Put Your Back N 2 It』の収録曲。アルコールやドラッグへの中毒やゲイとしてのアイデンティティと付き合ってこなければならなかった彼の歌う孤独と苦痛が、いつしか聴き手の孤独と苦痛を捉え、それを少しずつ解きほぐしていくところに彼の音楽の力がある。“Learning”ではパートナーでもあるサポート・キーボーディストのアランとぴったりくっついて連弾。見た目はまだ20歳そこそこに見えるマイクだが、ガーディアン紙によれば現在30歳なのだそうだ。
●ANNA CALVI (15:15~16:00)
真っ赤な衣装で現れ、ダンディズムすら感じさせるギター・ソロを大音量でかき鳴らしたのは初来日となるイタリア系イギリス人シンガー、アンナ・カルヴィ。ブライアン・イーノをして「パティ・スミス以来の大物」と言わしめたその本領を早速見せつける。正統的なバンド・サウンドを土台に、エディット・ピアフによる録音で有名な“Jezebel”ではフラメンコのフレイヴァーを加え、TVオン・ザ・レディオ“Wolf Like Me”のカバーではスライド・ギターを操り、昨年1月に発表した1stアルバム『Anna Calvi』の“Love Won't Be Leaving”では猛烈なファズ・ギターを聴かせてステージを後にした。ジミヘンとジャンゴ・ラインハルトに影響を受けたというヴィルトゥオーサ的ギタープレイは現在のインディー・シーンには類の無いものだ。
●TORO Y MOI (16:30~17:30)
続く3組目は、アフリカン・アメリカンの父親とフィリピン系の母親を持つサウスキャロライナ出身のチャズ・バンディックによるソロ・プロジェクト、トロ・イ・モワ。今回は昨年6月のTAICOCLUB '11以来となる日本公演。先月来日した友人のウォッシュト・アウトと同じバンド・セットでのライヴは代表曲“New Beat”で幕を開け、初期ディスコ風の曲から8ビートのロックに近い曲まで、アーバン・ミュージックとエキゾティック・ミュージックが奇妙に混淆した独特の風景を描き出す。夜の匂いが漂うそのマイナー・コードからはどこか懐かしいエモーションが伝わってくる。後半に披露された、今年リリースされる3rdアルバムの収録曲と思われる新曲が特に良かった。
●ATLAS SOUND (18:15~19:15)
「SF」という新作『Parallax』のテーマを強調するかのように、アトラス・サウンドのステージは終始緑一色の照明に彩られていた。がらんとした舞台に1人現れたブラッドフォード・コックスがヴォーカルとアコースティック・ギターとハーモニカに同時録音とディレイを中心とする種々のエフェクトをかけながら歌う冒頭の“Te Amo”、“Walkabout”、“Amplifiers”には、他のアーティストたちとは全く質の異なる緊張感が漂っている。初期のボブ・ディランを彷彿とさせる伝統的なフォーク・シンガー・スタイルとテクノロジーの先端を感じさせる音響効果のあいだを足元のペダルひとつで瞬時に行き来するさまはまるでマジックを目の当たりにしているようだが、そこから出てくる音にはすべて極めて個人的な刻印が押されている。「ここ(日本)に来られるのはいつも嬉しいんだ」と言って始まった終盤の“Terra Incognita”と“Flagstaff”ではエフェクトを抑え、「自分が作った中で一番孤独なアルバム」だという『Parallax』の果てしない寂寥感を表現してみせた。
●SPIRITUALIZED (20:00~)
黒人女性のコーラス2人を擁する8人編成で登場したスピリチュアライズドが1997年作『宇宙遊泳』からの“Come Together”で火蓋を切って落とすと、会場は一気にフェスティヴァルのムードに包まれる。吹き荒れる3本のギターの間を縫うように歌うジェイソン・ピアースはいつものようにステージ右端に位置取ってメンバーたちを見渡す。“Cheapster”など延々と反復するアップビートな曲が集められた序盤、今年リリース予定のニュー・アルバム『Sweet Heart Sweet Light』からの“Too Late”のようにブルースやゴスペルの血を引くスロー・バラードに移行した中盤を経て、スペースメン3時代の“Take Me To The Other Side”で今日一番の轟音を響き渡らせ、第1回『Hostess Club Weekender』の幕を下ろした。サウンド、歌詞ともにキリスト教に色濃く影響を受けている彼らの音楽が日本でこれほど多くのファンを獲得しているのは改めて考えると不思議な気もするけれど、シンプルなメロディとわずかなコードというミニマリズムの中に詰め込まれた爆発的な音の広がりのマキシマリズムには、国境や宗教を越えて訴えかける間口の広い喜びの感覚がある。
なお、6月に2度目の『Hostess Club Weekender』が開催されることもイベント中に発表された。ラインアップは後日発表されるとのこと。こちらも要注目だ。(高久聡明)