serial TV drama @ 下北沢GARDEN

「今日は文字通り――こう言っていいんじゃないでしょうか? 『俺たちのために集まってくれてありがとう!』。いつもよりちょっとだけ長くやるよ! それでもあっという間だから!」というトツさんこと鴇崎智史(Vo)の快活なMCが、ともすれば下北沢GARDENを埋め尽くしたオーディエンスの胸にこみ上げてきそうになる寂しさをありったけの熱気で塗り潰していく……ヘヴィ・メタルにハード・ロックにロックンロールにダンス・ロックに、といった音楽の要素を過積載しまくって爆発的な歓喜と熱狂空間を生み出していく唯一無二の異才5人組=serial TV dramaが、ベース・近藤太の脱退表明を機に、serial TV dramaが解散を発表したのが今年1月12日のこと。そして――この日が彼らの、正真正銘ラスト・スタンド。開演前から汗ばむほどの熱気が漂う超満員状態の中、17:12、最後のワンマン・ライブ『serial TV drama ~serial TV drama disc.1~3 : 初回限定盤特典付き~』は始まった。」

いきなり1曲目“狼”から弾けまくる、ハード・エッジな爆音越しのポップ感! 聴く者すべての脈拍を加速するような新井弘毅の超絶快速ギター・ソロ! “ティリラ・ティリラ”で聴かせる全員コーラス一斉掃射状態の極彩色の音空間! 下北沢GARDENをオリエンタル・ハード・ロック・ディスコとでも言うべきマジカルな世界へ直結する“コピペ〜ENTER the SERIAL〜”!……と息つく間もなくロック・スペクタクルを描き出していく5人。地下のステージから夕闇を貫いて銀河まで届きそうなトツさんの高らかなヴォーカリゼーション。ギブソンSGの鋭利なストロークでざくざくと空気を斬り刻んでいく稲増五生のギター。エッジ感の塊のようなアンサンブルにしなやかなうねりを加えていく近藤のベースライン。あからさまに日本人離れしたパワフルさで怒濤の推進力を生み出す岡田翔太朗のドラミング。そして、情熱とロマンとメタル魂が渾然一体となった新井の激烈プレイ……どこを切っても痺れるような快感があふれ出すそのサウンドに、フロアはジャンプとダンスの嵐! “シティーボーイの憂鬱”まで最新アルバム『パワースポット』の曲を畳み掛けた後、“ガーネット”“噛ませ犬”“yellow”とインディー時代の楽曲を連射—―と、ここまでほぼノンストップで駆け抜ける。

その気になればシリアスでストイックなヘヴィ・ロックだってシューゲイザー的な音像だっていくらでも鳴らせたし、いわゆる「ロック的」な文脈でのカッコよさを追求することだってできた。が、(特にメジャー・デビュー以降の楽曲に顕著なように)serial TV dramaというバンドは、膨大なアイデアと幅広いプレイアビリティを、「今、ここ」を踊らせ熱狂させるポップ感とパーティー感に注ぎ込んできた。が、彼らが「パーティー・ロック・バンドとしてのエンタテインメント」を体現してきたのは「目的」ではなくあくまで「手段」であり、彼らが今のロック・シーンに/時代にカウンターカルチャーとして向き合うために必要不可欠な戦闘態勢だった――ということを、絶頂のさらにその先を目指す勢いで炸裂する彼らの楽曲を聴きながら改めて思い返していた。1曲また1曲と「最後の瞬間」を迎えていく彼らの曲を、力の限りに謳歌しまくるオーディエンスも、それは同じだったに違いない。

とはいえ。ラスト・ライブならではの湿っぽさとは、まだこの頃は無縁だった。「まあ、今日はあれだよ、いつもなんだけどさ、特にしゃべることは……流れに任せていこうと思ってるから。みんなもしゃべりたかったら、こっちきてしゃべっていいから!(笑)。いやなことは全部置いてって、楽しんでね! 俺たちも、今日という日を――置いてはいかないけど、明るい未来のために!」というトツさんのMC。中盤でさらに“立ち止まりJOURNEY”“シーフード”“アカシア”とインディー曲を披露して垣間見せたセンチメンタル・サイド・オブ・シリアルの鮮烈さ。エレキ・シタールとストラトを駆使して“ソング・オブ・ガンジス〜ホロレ禁じられの歌〜”の摩訶不思議な音像を紡ぎ出す瞬間の悦楽。ステレオポニーのSHIHOにドラムを任せた岡田が謎のMC=OKD(もちろん岡田)を招いてトツさんとの2MCを展開し、「Say、ホー!」「Say、解散かもしれないけど今夜は最高の夜だぜー!」と熱気を混ぜっ返して「トツくん、いい歌歌うね!」と意気揚々と去っていく、という一幕で爆笑を巻き起こした異色のミクスチャー・ロック“Overslept Kills The Day Feat. OKD”。「……あれ(OKDの正体)言わないほうがいいの? タイガーマスク的な? ゴオ(稲増)さんなんじゃないかって話をTwitterで見たよ(笑)。バカなバンドでしょ? でもね、バカなバンドを観に来てるみんなもバカだからね!(笑)。楽しんでるかー!」というトツさんのコールに、ひときわ熱い歓声が沸き上がる。

新井「指攣った! 初めて!」
鴇崎「お前、攣っても弾けんだな! こいつギターうめえんだよ!」
岡田「まあ、今日で解散なんですけど……」
新井「なんか、もうちょっと重みがほしいよね……(考える)……今日何食べた?」
岡田「え、今日? ……ビックリマンチョコ!」
鴇崎「……もう1回バカのくだりからやっていい?(笑)」

……というとりとめないMCからも、最後のライブを5人で一生懸命「楽しみきろう」という空気感が伝わってくる。「バカヤローだよ。バカヤローって言って!」というシャウトをきっかけに、ライブはいよいよ終盤へ。惑星直列級の輝度とダイナミズムを凝縮した“スペースオペラ”から“赤いパーカー”へとつないだ後、再び最新作『パワースポット』の世界へ。結果的に2010年のメジャー進出以降はシングル3枚とミニアルバム1枚、そしてフルアルバム1枚しか残せなかった彼らだが、その『パワースポット』から“アナログ革命”を――70年代ハード・ロックへのリスペクト越しに「今」を狙い撃つ爆裂ロックンロール・ナンバーを鳴らした時、本当に残りわずかになってしまった「シリアルとの時間」への寂寞感が、これまで彼らが音楽で実践してきた闘いの足跡と一緒になって、一気に胸に迫ってきた。

《嗚呼ロックよりもアニメが好き/それはそれでいいんだけど》……彼らのハイテンションでアッパーでスリリングで過剰な楽曲はそのまま、「2010年代の今、果たしてロックはアニメより、ゲームより、あるいは他のあらゆるエンタテインメントよりもスリリングでハッピーで魅力的な表現たり得ているか?」という問題意識そのものだったし、「自分たちの音楽を聴いてほしい」よりも「自分たちの楽曲を通して音楽の面白さと力に気づいてほしい」という真摯な願望だった。その背景にあるのは取りも直さず、「普通にロックの畑の人が満足してるものでは響いていかない。イロモノと思われてもいいくらいに突き抜けた何かがないと、その外には出ていかない」という新井の決意だった。しかし、そんなシリアルの冒険は、世の中を大きく巻き込んで未曾有の風景を生み出すその前に終わりを告げることになる。

シャッフル・ビートのハード・ロックからスクエアなビートとともに超高気圧型サウンドスケープへ流れ込む“桃源郷エイリアン”、《君と闘おう 清々しい日々の為に 新しい日々の為に》と勇壮なメロディを高々と突き上げる“ユニコーンの角”で轟々と多幸感と狂騒感が吹き荒れる中、本編が終了。アンコールを求める声に応えて再びオン・ステージ、1stミニアルバムから“ginger”、1stシングル曲“まえぶれ”を立て続けに演奏し、さらに“まばゆい”でフロア一面タオル風力発電所状態に叩き込んでみせる。そして……Wアンコールでもう一度舞台に立った5人が、シリアルとして最後のメッセージを語っていく。

「笑いすぎて顔が痛い! 悲しい顔してる人が少ないといいなと思ってたけど……案外笑顔だよね。ありがとうみんな!」と朗らかに感謝を伝える稲増。「今日で解散なんですけど……バンドはなくなっても、音楽はある! 僕らの音楽も、みんなの中に感触が残ってるうちは生きてると思ってるから」とビシッと決めた――かと思いきや「人間の血は3ヵ月で全部入れ替わるっていうから、3ヵ月経てば、全部なくなるっていう……」と言い出してフロアからもメンバーからも「えーっ!?」と声が上がり「や、だから聴き続けてくださいって話!(笑)」と慌てて補足したのはもちろん岡田。「この音が、どこかで誰かのステップにつながってくれればいいなと思ってます」と近藤。「8年間、俺はその中の2年以内(前Vo・伊藤文暁に代わり2010年に加入)なんだけど。ハタで見てるイメージと、中に入ってみたシリアルって全然違くて。強靭なやつらって思ってたけど、ほんとは弱くて。そんな弱いやつらが、音楽を表現するのは、強い希望だったわけ。この5人で、1枚だけアルバム出せて……最高だったっしょ!」と鴇崎。そしてリーダー新井。流れる涙で声を詰まらせながら、ひと言ずつ語る。「お騒がせしてばかりしてきたけど。いろんな人に心配かけてきたし、迷惑かけてきたし……でも最後に、たくさんの人が来てくれて、誇りを持てるバンドだったなって、間違ってなかったなって思います。最後に、見せたかった光景を見せることができて、よかったです……もうちょっと早く見せられたらね(笑)」。熱い拍手の中、フロアを一気に切なさと悲しみが襲う。

“THE DANCE(OF OUR NAKED HEART)”でさらに濃密な歓喜の世界を描いた後、serial TV dramaで最後に披露したのは“PARTY ROCK ANTHEM”。色とりどりの風船がオーディエンスの頭上に舞い踊る中、《PARTY ROCK FOR YOUR LONELY HEART》《you shall want for nothing/as well as we ROCK(何も不自由はさせないよ 僕らがロックする限り)というフレーズが、どこまでも強く胸に焼きついて……19:57、すべての音が鳴り止んだ。5人で手を取り合って一礼し、観客と一緒に記念撮影した後、1人、また1人とステージを後にする。最後に1人残った新井の「調子いいぜ! またねー!」の絶叫が、serial TV dramaの何よりのカーテンコールだった。ありがとうシリアル!と心から思える、最高のラスト・ライブだった。(高橋智樹)


[SET LIST]

01.狼
02.ティリラ・ティリラ
03.コピペ〜ENTER the SERIAL〜
04.シティーボーイの憂鬱
05.ガーネット
06.噛ませ犬
07.yellow
08.立ち止まりJOURNEY
09.シーフード
10.アカシア
11.ソング・オブ・ガンジス〜ホロレ禁じられの歌〜
12.Overslept Kills The Day Feat. OKD
13.スペースオペラ
14.赤いパーカー
15.アナログ革命
16.桃源郷エイリアン
17.ユニコーンの角

Encore1
18.ginger
19.まえぶれ
20.まばゆい

Encore2
21.THE DANCE(OF OUR NAKED HEART)
22.PARTY ROCK ANTHEM
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする