レニー・クラヴィッツ @ TOKYO DOME CITY HALL

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レニー・クラヴィッツ @ TOKYO DOME CITY HALL
まず最初に断言させてもらえば、今回のレニクラは、絶対に観た方がいい。直近2回の来日ツアーがキャンセルになってしまったからとか、それで2004年のロック・オデッセイ出演以来8年ぶりの来日公演になるからだとか、ましてや単独来日公演としては14年ぶりなるからとか、そんなことではなく、まずセットリストがすごい。聴きたい曲というか、レニクラという人のキャリアを象徴する曲は大概やってくれる。それになにより、黒人のグルーヴを持ちながら白人的なロックの本質を掴んだ現代的なキャラクターとして、レニー・クラヴィッツが如何に唯一無二の才能であったか、それを全面的に叩き付ける内容なのだ。昨年リリースした9作目のアルバム・タイトルは『ブラック・アンド・ホワイト・アメリカ』だったが、まさにそういうことだった。

正直に言えば、この日の公演は満員御礼というわけではなかった。久しぶりの来日公演になるだけに、レニーがこの状況を見たら、どう思うだろうなんてことも頭をよぎらないわけではなかった。けれど、始まってしまえば、すべては杞憂だった。ここからは具体的なセットリストに触れながら書いていくが、基本的にセットリストは直近のオーストラリア・ツアーと同じもの。ライヴを観ると、それが何故か分かる。すごくゆるやかな形で、レニー自身のストーリーが反映されているのだ。冒頭を飾ったのは、最新作からの“カム・オン・ゲット・イット”。3人編成のホーン隊が圧倒的な音圧をたたえ、骨太のリズムに乗ってレニーがあの声量で歌い出した瞬間、一発で今日のライヴが間違いなく本気であることが分かる。ファンクの黒いグルーヴは強烈。最新作は、音源で聴いた時は現代的な印象があったのだけど、生で聴くと、このグルーヴをはじめ、原点回帰的な作品であったことに気づかされる。そして、レニーがようやくレス・ポールを手にとって弾き始めたのは、“オールウェイズ・オン・ザ・ラン”のギター・リフ。2曲目で早くも名作『ママ・セッド』からの楽曲が投下される。名手、クレッグ・ロスとのギター・コンビネーションは往年のまんま。3曲目は、『オースティン・パワーズ』のサウンドトラックに提供していたゲス・フーのカヴァー“アメリカン・ウーマン”。ここで一旦、ホーン隊とキーボードが去って、4ピースのバンド・スタイルになるが、さっきまでの力強さは変わらない。この日初のレニーのギター・ソロもキメる。そして、自身の歩みを総括していくようなセットリストがヤバい。

レニー・クラヴィッツ @ TOKYO DOME CITY HALL
この曲が終わったところで、レス・ポールを高々と掲げて、大喝采を浴びながらMCへ。やっと日本に戻ってこられたこと、久々に日本に来て、自分がこの場所をどれだけ愛していたか忘れていたこと、そして、これからはもっと頻繁に日本に来たいと思っていることを笑顔で語り出す。その表情に社交辞令じみたものは感じなかった。そんなMCに続いて演奏されたのは、再び『ママ・セッド』からの“イット・エイント・オーヴァー・ティル・イッツ・オーヴァー”。ストリングスに乗って、この曲のやわらかなグルーヴが溢れ出す。途中、レニーはサングラスを外し、アルバムとまったく同じあのギター・ソロを弾く。観てる方としてはここらへんでかなり感極まってしまう。ファーストからの“ミスター・キャブ・ドライバー”は最後のアウトロで、トランペットのソロからジャズ的な展開に突入し、そのまま最新作の表題曲“ブラック・アンド・ホワイト・アメリカ”に突入していく。ここらへんの演出が絶妙で、レニーのキャリアを横断しながら、黒人音楽の歴史を遡っていくようにも見える。そして、再び『ママ・セッド』からの2連発である。“フィールズ・オブ・ジョイ”に続いて“スタンド・バイ・マイ・ウーマン”。“スタンド・バイ・マイ・ウーマン”では柵前に降りて、レニーがこの名曲を歌う。もちろん会場中がシンガロングする。更にレニーがアコギを手にして始まったのは、『自由への疾走』から“ビリーヴ”。レニクラの名バラードが連発されて、このあたりから会場は特別な雰囲気になる。

ここからはお祭り状態というか、最新作からのリード・シングルとなった“スタンド”、日本では当時驚異的なヒットとなった“ロックンロール・イズ・デッド”、再び最新作からの“ロック・スター・シティ・ライフ”、そしてアルバム『バプティズム』から“ホエア・アー・ウィ・ランニン?”と、アッパーなナンバーというか、ゴキゲンなナンバーと表現したい曲が続く。それで、なんでそういうことになるか、と言うと、やっぱりグルーヴなのだ。レニー自身も語っていたようだが、ドラマーのフランクリンとベースのギリアン・ドロシーのリズム隊は最高。80年代末から90年代にかけて、袋小路にあったロックをレニーがグルーヴで打開した事実を改めて思い出す。そして、本編最後は“フライ・アウェイ”と、来ました、“アー・ユー・ゴナ・ゴー・マイ・ウェイ”の大ヒット曲2連発。当然、会場は大盛り上がり。ここまででもうお腹いっぱい。しかし、アンコールがすごかった。

レニー・クラヴィッツ @ TOKYO DOME CITY HALL
会場からはレニー・コールも起こるなか、バンドがステージに現れて、「1989年に戻ろう」というレニーの言葉とともにアンコールで披露されたのは、ファーストから“レット・ラヴ・ルール”。アンコールはこの1曲のみ。会場のシンガロングを煽るなか、ジャムに突入していくのだが、ここで事件が起こる。なんとレニクラがステージを降りて、柵も超え、客席フロアに入ってきたのだ。場内は騒然。そのままスタッフに囲まれながら、スタンディングのフロアを横断し、1階バルコニーまで到達し、1階バルコニーを観客に囲まれながら、凱旋していく。途中、客席に小さな子供がいるのを見つけると、すぐさまマイクを手放して、その少年を抱擁してみせる。会場中からはレニーと子供に大きな拍手喝采が向けられる。これが画になってしまうのがすごい。レニーとはやっぱり生粋のロック・スターなのだ。再びスタンディングのフロアに降りて、観客に揉まれながら、ステージに戻るレニー。本当にライヴを観るのは久しぶりだったが、レニーがレニー・クラヴィッツという自分に誇りを持っていること、それを観客に対して受け入れられたことが何よりも伝わってくるシーンだった。だから、今回のようなセットリストがあるのだ。そして、それは人種的な境界に立ってきた彼が彼にしかできないロックがあることをメッセージとして発しているようにも映った。カーテンコールの後、場内にかかり始めたBGMはジミヘン。そうだよな、そういうことだよな、と思った。久しぶりのレニーは、やっぱりレニー・クラヴィッツだったのだ。(古川琢也)

セットリスト
1. Come On Get It
2. Always On The Run
3. American Woman
4. It Ain’t Over Till It’s Over
5. Mr. Cab Driver
6. Black And White America
7. Fields Of Joy
8. Stand By My Woman
9. Believe
10.Stand
11.Rock And Roll Is Dead
12.Rock Star City Life
13.Where Are We Runnin
14.Fly Away
15.Are You Gonna Go My Way
---Encore---
16.Let Love Rule
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