などと当初は思っていたのだが、あにはからんや、実はねごとのギタリスト・沙田瑞紀はRHYMESTERの大ファンで、この対バンはスムーズに決まったものだというから世の中分からない。全員平成生まれという若さながら、音楽への造詣、特にオルタナなものへの愛情の深さという点でなかなか侮れないものがあるねごとだが、この日はまず彼女達のそんな側面が淀みなく披露されたへヴィーなステージからのスタートとなった。
しかしながら、この日のねごとはよくあるイベントとは違ったモードで攻めてきた。1曲目に演奏されたのは「NO」という轟音ナンバー。重くゆっくりとしたリズムとラウドなギター・コードが放たれるや照明も一気に赤黒いそれに豹変し、場内の景色は180°変貌する。“夜が少しだけ灰色になっている”と歌いだす歌詞に象徴的なように、冷めた視線でモノトーンの心象を描く手法も彼女達の得意技で、この日はポップ感覚は抑えめ、オルタナ色をかなり強めたカラ―がテーマ。それはやはりRHYMESTERと対バンという機会だからこそ振り切ることが出来たわけで、イベントの趣旨がそのままバンドのキャパシティ拡大に直結しているという、実に納得感の高い1時間へと進んでくことに。2曲目「メルシ―ル―」のイントロで不穏なシンセのフレーズが響き、よりアタックが強化されたバスドラのキックが四つ打ちで鳴りだした瞬間には、こちらも今日のねごとはいつものモードではないことをいち早く察知できる状態だった。
もっともMCはいつも通りの調子で、普段からフォーマルMC担当の蒼山幸子が「20周年おめでとうございます!」と丁寧に挨拶すれば、カジュアルMC担当のドラマ―・澤村小夜子は「キューンは居心地のいい会社で、綺麗なお姉さんがお菓子やお茶を出してくれて、漫画も沢山置いてあって」とそれぞれにポイントどころを抑えた話をしたところはご愛敬。それでも曲に入れば、3曲目にThe Cribsのカバーでちょっと軽めのコーラスが軽快な「Tonight」、そしてデビュー・ミニ・アルバムのリード曲「ル―プ」と確実に熱量を上げていくのだが、それにしても今日はドラムとべ―スの音圧が殊の外大きい。バンド感を強調したタイトな表情を矢面に立たせた演奏で、それは続く5曲目のパワー・ナンバーによる新曲で一層鮮やかなものになっていく。
この頃になると、RHYMESTERのお客さんにもバンドの本意を分かってもらえた安心感が芽生えたのか、ここで改めて今日の対バンの経緯を説明するMCが入り、ギターの沙田瑞紀が実は重度のRHYMESTERファンであることが明かされる。当然、話は彼女に向けられるわけだが、普段は滅多にMCをしない彼女だけに、そういう意味でもこの夜はレア。照れもあってかほとんどしどろもどろの状態で、出てくる台詞は「本当に好きで…」「こうしておろおろしているんですけれど…」等々、全然説明になっていないのだが、愛情はものすごく伝わったからいいと思います。続く小夜子による「リハーサルの時、宇多丸さんは頭の汗が凄くてタオルで拭いてて、そこが可愛いんです」と、これまたそれぞれにRHYMESTER観を説明。このムードから曲は漂うようなギターとキーボードの絡みが夢見心地を誘う「ビ―サイド」、そして“指輪無くしても約束は消えない”と歌う「drop」と、今日は珍しい乙女な部分を見せる時間に入りポップな側面を披露していく。ねごとのお客さんもようやく登場した陽性サイドの時間に、リズムに任せて体を揺らしていく、ほんのりとした安堵感に包まれる時間へ。
しかしながら、今日のねごとはこういう状態では終わらない。本日、MCとして最後に登場した藤咲佑が真摯な口調で「今日はライムス先輩のお客さんに出会えたのが嬉しいです。最近、対バンのお客さんが怖かったりしたんですけれど(笑)、今日はみなさんやさしくて…。(中略)対バンでは悔しい思いをすることが多くて…でも、今の私たちは歯を食いしばって成長する期間だと思っています。なので、今日ねごとを観て“いいな”と思ったら(私たちのワンマンにも)来てください!」と、さらなる精進姿勢を大真面目に語る。それを受ける幸子の話もいつにない強い口調で「次の曲は“sharp ♯”。一歩でも半歩でもいいから前に進みたい気持ちで作りました。全力でやります。聞いてください!」と熱い気持ちを2倍3倍に膨らまして、楽曲に突入していく。その心意気で最終曲「ふわりのこと」までを全うし、ヒリヒリしたテンションを絶やさず放ち続けた1時間は一瞬にして過ぎ去っていった。
まずは序盤の焚きつけですっかりRHYMESTER色の空気を作ったところで、最初のMCタイムで早速タオルで頭を吹く宇多丸に場内が一斉に爆笑。「こういう動きが“かわいい”みたいな?」と、飛び出したばかりの新ネタを早速拾うところが宇多丸だが、「まずは、ねごと、最高じゃない?」と彼女達の健闘を讃えるMCに場内は大拍手。そして、この対バンの意味についてあれこれ想いを語っていったのだが、「今日は、見終った後、みんが納得してくれればいいんだと思う。何がどうなるのか分からない、それを見に来るのがライヴでしょう!」と宣言し場内をさらに沸かせる。「今のところ色々な対バンが行われているけれど、今日が一番面白い日にしたい!」と力強く宣言するあたり、今日の奇妙な対バンについて実は一番楽しみにしているのが彼等自身である様子もハッキリと伝わってきて、こちらもなおさら盛り上がってしまう。なにより、笑顔多めで普段とは明らかに違うスイッチが入っている3人の様子が若々しく、彼等自身が楽しんでいる雰囲気がいい。
曲は一糸乱れぬ2人の高速ラップも見事な「ライムスターイズインザハウス」に突入し、続くは「Don’t Think,Feel…」とRHYMESTER王道ともいえるアッパー路線でまずは期待通りの展開へ。腹の底に響く重圧ビート、そして鋭い切れ味の中に毒もユーモアも山盛りにした、さらには日本のヒップホップ・シーンを黎明期から支えてきた自負もほどよく加味されたフロウは、やはり20周年イベントにこそ相応しい風格。こちらも改めてこのグループ、そしてキューンというレーベルが日本の音楽界に残し続けてきた功績について想いを巡らしてしまう。
それは彼等自身も感じていて、次のMCでは宇多丸が笑いを取りながらもストレートに感謝の言葉を述べる。「11年間在籍していますが、そんなに売れているとはいえない(笑)、しかも我々のような危険で面倒くさい物件に対して、じっくり話し合う場を持ってくれる。大したところです!」といった調子で、彼等らしい悲喜こもごもな話が結構長時間続く。あまりにエピソードが多過ぎて話がごちゃごちゃになってしまい「要は、キューンで良かったってことです!」と声を高らかにして無理に話をまとめてはいたものの、それが本心ゆえの叫びであったことは間違いなく、場内が大きな拍手に包まれる感動的な瞬間へと相成った。そこから「つまり、今の音楽界におけるキューンの位置も、そのキューンにおける俺達の位置も“ちょうどいい”」とゆっくり言い放って次のナンバー「ちょうどいい」に入っていく展開は、ここ数年の中盤チルアウト・タイムへの定番の流れながら、ベテランらしい余裕を感じさせる部分で効果的。
そこからは“人生山あれば谷もあり”な気概を大切にした「POP LIFE」~「Walk This Way」と近年の代表作コーナーが展開するも、やはり終盤は彼等らしいラジカリズム全開のナンバー「ザ・グレート・アマチュアリズム」の登場で熱狂の時間に突入していく。そのまま本編ラストに登場したのは“持ってない奴が持ってる奴に勝つ唯一の方法、それが工夫”と叫んで入る「K.U.F.U.」。近年の老獪さと、初期のサウンド・ダイナミズムが混濁した、ある意味彼等の歴史を集約したナンバーなのだが、まさに20周年イベントの趣旨に適った選曲で最後の最後まで唸らせてくれる3人でありました。
これで彼等の持ち時間は終了となってしまったのだが、興奮曲線が右肩上がりのまま放置されたような観客は当然のこと収まらない。そんな場内を眺め、しめしめといった口調で宇多丸が去り際「ひとつ言っておきたい。アンコールは絶対にしたほうがいいぜ」と言い放ったものだから、場内は早速熱いアンコールに突入していく。
DJセットはそのままに、スタッフが大急ぎでバンドのセットも準備する中、そんなに時間をかけずに再びRHYMESTERの3人が登場。まずは“RHYMESTER IS BACK!”の一言も心強い2009年の活動再開作「ONCE AGAIN」で場内を煽れば、“キューンミュージック!”“おめでとう!”のコール&レスポンスで今一度祝賀ムードも掻き立てる。
そして、ここでねごとの4人を呼び込むという、まさかの事態に。ねごとの4人が「よろしくお願いいたします」と低姿勢なのはいいとして、RHYMESTERの3人まで「こちらこそ、よろしくお願いいたします」と頭を下げている様子も妙に可笑しく、それでもこんなに純朴な表情を公の場で見せることも滅多にないわけで、つくづく貴重なイベントでありレーベルだなと実感。ひとしきり、メ―ルで連絡を取り合う時にどう書き始めたらいいのか悩んだ話で盛り上がった後(宇多丸「さっちゃん…違う。幸子さん…これも違う。蒼山さん…もっと違う。もう悩んだんですよ!」 Mummy-D「“拝啓”とか書いちゃってね」)、ステージ下手からベース→ギター→DJセット→キーボード→ドラムスと並んだ配置に各人が就き、始まった楽曲はねごとのヒット曲「カロン」。ステージ中央に陣取ったRHYMESTERの3人は前半では体を揺らしているだけだったが、間奏部分で新しいリリックを披露するサプライズを見せ、場内を沸かせる。“俺は夢見る、うわごと、ねごと、叫びに変えろ”と、現在の彼等らしい息吹をダイレクトに綴りながら、しっかりと“ねごと”というワードを織り込んだフロウの繰り返しで感情をどんどん高めていったところで、間髪入れずサビ明けの幸子による“何度夢をくぐったら君に会えるの”というラインに繋げていったところは目が覚めるようなトリップ感に襲われた瞬間。
そして最後は、ねごとのリクエストで彼女達の生演奏によるRHYMESTERのナンバー「into the night」が登場。RHYMESTERの曲としては緩い横揺れのグルーヴがどことなくお洒落なナンバーで、いわばRHYMESTERの懐の深さを象徴する曲だが、こういう側面もあるところがRHYMESTERだし、そこに注目している彼女達の感性もまた頼もしいところ。何より4人がとても幸せそうに演奏していて、特に今日のねごとは笑顔を意図的に抑えたメニューだった分、ファンの方々は尚更嬉しかったのではないだろうか。相思相愛のセッションは付け焼刃的なところの全然無い爽やかなもので、エンディングとしてはほぼ最高とも言えるものだったと思う。
世代も音楽性も超えた、本当に素晴らしい意志疎通を感じさせてくれた両者。最後、7人手を繋いで上空に高く掲げるカーテンコール風の挨拶を行ったのだが、終わった後の目で眺めれば何の不思議感も無く、ある意味20周年イベントの意味を端的に表していた瞬間のような気も。去り際のMummy-Dの一言が「これから飲みまーす。俺たちの打ち上げは失敗しません!」とやたら自慢気だったのだが、いや、今日の打ち上げは失敗しようが無いでしょう。(小池清彦)
ねごと
1 NO
2 メルシ―ル―
3 Tonight
4 ループ
5 新曲
6 透き通る衝動
7 ビ―サイド
8 drop
9 sharp ♯
10 ふわりのこと
RHYMESTER
1 After The Last –intro-
2 オイ!
3 付和 Ride On
4 ライムスターイズインザハウス
5 Don’t Think,Feel…
6 ちょうどいい
7 POP LIFE
8 Walk This Way
9 ザ・グレート・アマチュアリズム
10 K.U.F.U.
アンコール
1 ONCE AGAIN(RHYMESTER)
2 カロン(RHYMESTER&ねごと)
3 into the night(RHYMESTER&ねごと)