SonarSound Tokyo 2012 1日目 @ 新木場ageHa/スタジオコースト

東京での開催は今年で5回目となる、世界的/先鋭的な光・映像と音楽の祭典=SonarSound。昨年は震災直後にも関わらず、多くのアーティスト(バトルスやアンダーワールドDJs、Y.SunaharaやDJ KRUSHら。個人的にはとりわけ、亀仙流道着と圧巻のバンド・パフォーマンスによって日本にエールを届けてくれたフライング・ロータスには泣きそうになった)たちが出演。ちょうど一年後に繰り広げられる今回の開催に繋げてくれた。 初日となる4/21は、20:00開場のオールナイト開催。ageHa/スタジオコーストの入り口から伸びる長蛇の列が、新木場駅方面へと向かう橋を越えてしまうぐらいの盛況ぶりだ。会場内は今回も4つのステージ/ブースを設ける構成でそれぞれパフォーマンスが進められ、メイン・フロアとなるSonarClubの模様を中心にレポートを進めたい。SonarClub1組目のスタートまでにはまだ時間があったので、ライヴ・パフォーマンス以外に映画上映が行われたりもする、ドリンク・カウンターそばのSonarComplexにてまずはフランスのアーティスト、チリー・ゴンザレスのライヴ映像をゆっくり鑑賞してみた。一度やってみたかったのだ。

さて、SonarClubのトップに登場するのは黒川良一。映像と音楽を手掛けるトータル・アーティストの彼が、ノイジーに立ち上がって有機的に繁殖するようなエレクトロニカと、背後の2面のスクリーン上で同期する映像によって感覚を刺激してくれる。どんな轟音であろうと、リズムというのは心に安心感をもたらしてくれるものなのだなというパフォーマンス。緻密な映像と音像を一手に担うクリエイティヴィティも圧巻だ。屋外のプール・サイドにあるブースSonarLabでは、こちらも邦人アクトであるMergrimのライヴがスタート。クールなパーカッションの生演奏を絡めながら、じわじわと体を温めてくれるエレクトロニック・サウンドを披露する。邦人アーティストならではと言える、極めて繊細なプロダクションだ。
SonarSound Tokyo 2012 1日目 @ 新木場ageHa/スタジオコースト - Ryoichi KurokawaRyoichi Kurokawa
SonarClubの2組目は、昨年に引き続き連続出場となるオーストリア出身のプロデューサー、ドリアン・コンセプトことオリヴァー・トーマス・ジョンソン。自身の名義でメイン・フロアに立つのは初だが、昨年はフライローのライヴにキーボード奏者として参加し、素晴らしい活躍を見せてくれていた。彼独特のピッチがうねりまくる浮遊感に満ちたキーボード・サウンドに、DJ的手法で魅せるプレイ。そのスタイルを踏まえながら、こんなにもパーティ野郎だったのかというビートで歓喜のダンス・タイムを提供してくれていた。これは嬉しい誤算。まだ先は長いのに、こんなに体力を使わせて一体どうしてくれるんだ。
SonarSound Tokyo 2012 1日目 @ 新木場ageHa/スタジオコースト - Dorian ConceptDorian Concept
続いては、ケン・イシイと菊地成孔(Sax.)、Jazztronikこと野崎良太そして坂本昌己(共にKey.)という顔ぶれによるコラボレーション・プロジェクト。不穏なベースとウインド・チャイムのようなシンセ・フレーズが鳴り響き、クールに抑えられたケン・イシイのトラックを基に、スペイシーでソウルフルなセッションが繰り広げられる。デトロイトというかギャラクシー2ギャラクシーのジャズ/ファンク解釈とも共振するような、この顔ぶれだからこそなるほど、と思える共演だ。それぞれに幅広いレンジの表現スタイルを持っているからこそ、各々が明確な居場所を見つけた着地の鮮やかさに溜め息が漏れる。
SonarSound Tokyo 2012 1日目 @ 新木場ageHa/スタジオコースト - Ken Ishii presents Metropolitan Harmonic FormulasKen Ishii presents Metropolitan Harmonic Formulas
ちょっと気になって足を運んでみたのが、渋谷慶一郎と東京大学理学博士・池上高志の映像によるパフォーマンス。超々高速で乱舞する騒音のようなエレクトロニック・ビートは不思議と像を結ぶようであり、激しく明滅するライティング&パターン映像とで繰り広げられる世界観がヤバい。触れながら、動悸が激しくなるのを自覚してしまう。エレクトロニックな音響と視覚効果によるアートフォームにおいて、これほど容赦なしに可能性を探ろうとするパフォーマンスもなかなか見当たらない。

時刻は間もなく深夜1時というところで、来場者も最大の時間帯に。ここでSonarClubに大歓声に迎えられて登場するのが、過去10年ほどで英Warpのトップ・クリエイターの座にまで登り詰めたクラークだ。今月、最新アルバム『イラデルフィック』をリリースしたばかり。ソリッドにしてタメのあるブレイクビーツ、スクエアプッシャーのお株を奪うようなドリルンベースと、まさにWarp印のダンス・ミュージックど真ん中というプレイで盛り上げまくる。シンセ・フレーズの音響がすこぶる良いことも、高揚感に拍車を掛けていた。
SonarSound Tokyo 2012 1日目 @ 新木場ageHa/スタジオコースト - ClarkClark
一方、テント型ステージのSonarDomeには、南アフリカ出身のアーティストであるクロー・デ・ソングが出演。ケープタウン開催の経緯も誇るSonarならではのブッキングだろう。アッパーでありながらどこか聖性を受け止めさせるディープ・ハウスだ。こちらのフロアでは音が頭上のスピーカーから降り注ぎ、カメラで捉えられたアーティストの姿が3Dポリゴン・モデル化されて映し出されるというヴィジュアル効果もかっこいい。

さあいよいよ、初日の目玉アクトと呼んで差し支えないだろう、クラークとのワンツー出演となるWarpの重鎮、スクエアプッシャーの登場である。5月にリリース予定のアルバム新作『Ufabulum』を見据えてのステージであり、というか完全に新作ライヴだった。新作のプロモ映像で見られた、背面の壁と卓、更にはトム・ジェンキンソンが被っているヘルメットまでもがLEDスクリーンになっているというあの光景。あれがそのままステージ上で再現されてしまう。筆者と同様に、多くの人々が度肝を抜かれたのではないだろうか。
SonarSound Tokyo 2012 1日目 @ 新木場ageHa/スタジオコースト - SquarepusherSquarepusher
『Ufabulum』は、バンド・プロジェクトからの反動もあってか、トムが目一杯エレクトロニック・ミュージックに立ち返った作風であり、発光するようなシンセ音のレイヤー、そしてトムのセンチメンタルなメロディが、キャリア最大規模で溢れているアルバムだ。それだけでも充分に美しいのだけれど、視界を覆い尽くすようなLEDスクリーンが、眩いサウンドのレイヤーと同期する四角模様がデザインされたCGによって煌めくとき、えも言われぬ巨大なエモーションが立ち上がってくる。トム自身も終始腕を振ってゴキゲンに煽りまくっていた。こんなに感情を露にする人だったっけ? というほどだが、それだけ『Ufabulum』が自信に満ちた作品になったということだろう。視覚・聴覚そして五体をフル稼働させて胸を揺さぶる、見事なパフォーマンスだった。

この後のSonarClubには、ダブステップにダンスホール・レゲエとどキャッチーなトラックで踊らせまくるアフリカ・ハイテック(メンバーのマークはこの夜、グローバル・コミュニケーションとしても出演しておりダブルヘッダー)で夜明けを迎えてゆく。SonarDomeのトリを務めたAkiko Kiyamaの滑らかなミニマル・サウンドもすこぶる気持ちいいものだった。初日から余りにも濃密なパフォーマンスが続出だ。明けて午後からスタートする2日目についても、引き続きレポートします。(小池宏和)
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