back number@渋谷公会堂

back number@渋谷公会堂 - pics by 佐藤祐介pics by 佐藤祐介
メジャー・ファースト・アルバム『スーパースター』はオリコンのTOP3ヒットをマークするなど、ラブソングを主体…というよりその儚さに徹底的にこだわり続ける…もっと言うと報われなさを赤裸々に吐き出す剥き身の姿が幅広い層に深い浸透力を見せている彼等の音楽。なので、アルバムを受けての全国ツアー「恋は盲目ツアー2012」は当初ライヴハウス9ヶ所というスケールで始まったものの、当然のように全公演ソールドアウトを記録し追加に次ぐ追加の結果、遂に今日の渋谷公会堂という初ホール公演(こちらもソールドアウト)へと相成った。入場してステージ上を見渡せば、そこには彼等を見守るように虹型のアーチが掲げられ、随所に仕込まれた照明が目映い光を作り出すのであろう贅沢な設計が鎮座する一方、背後に掲げられたバンド名のロゴマークも誇らしく、開演前から今日が特別な日であることをそれとなく主張してくる。

そして、開演時刻を5分ほど過ぎたころに場内BGMが消え客電が落ちるや、若きオーディエンスで溢れた渋谷公会堂の場内は大きな歓声に包まれる。するとファンファーレのように厳粛な音楽が鳴り響き、そのまま後進曲のようなSEが流れるだけで場内一丸となった手拍子が始まってしまうのだから、彼等の現在の勢いがわかろうというもの。

そんな中、下手からサポートのキ―ボーディストとギタリストを含む5人がゆっくりと現れ、各自セットにつくや、ドラム栗原寿の「ワン、ツー」という声カウントから1曲目「海岸通り」の歯切れの良いギター・カッティングへと繋がっていく、所謂ロック・コンサートらしい威勢のよさでライヴはスタート。冒頭から「行くぞ、渋谷!」と叫ぶフロントマン清水依与吏の声も雄々しく、人気急上昇中のバンドらしい豪快なライヴを連想させる幕開けとなった。

のだが、世の中そうは問屋が卸さないというか、はたまた彼等らしい展開と言うべきか、1曲目の終了とともにそのまま次の曲になだれこんだドラムのイントロを、いきなり清水が制するシーンが。どうやら曲を間違えていたようで、場内が大きくどよめくもそこで無理矢理「渋谷!まだまだ行けますか?」と清水が大声で場を繋いでみせる荒技が何とも彼等らしい朴訥さで、予定外ながら早速場内がback number色にみるみる染まっていく展開に。ようやく始まった本来の曲「こぼれ落ちて」も元々がエモーショナルな楽曲なせいもあり、場内の歓声も応援する姿勢を一層強め俄然熱くなっていくところは、ちょっとしたミスくらいなら結果的に上手い方向に転がってしまう、乗っているバンドならではのシーン。途中、清水がステージ前方に出てきて両手を合わせて“御免!”のポーズをとる佇まいも、早くも序盤戦で実直にして馬鹿正直な音楽性と人柄をしっかりと場に根付かせてしまっているから流石である。

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3曲やったところで入った清水の最初のMCも、最初こそ「ようこそ渋谷公会堂へ!」という勇ましいものだったが、長い拍手を浴びながら何回も水を飲んでいるうちにいつしかモードは完全にいつも通りの素朴さに回帰。「序盤から泣きそうになっちゃって…」「立ち上がりが遅いタイプだから…」「ちょっとビビってます」等々、正直過ぎるくらいに正直なMCが続く。それでも自らを奮い立たせるべく話の締めを「今日は特別な一日にしたいと思っていますが、すでにみなさん都合をつけてくれてこうして集まってくれただけで、もう特別な一日だと思います」と感謝の辞でまとめるところは、彼の誠意が素直に表されていた瞬間で、場内もそんな彼等を励ますかのように熱い拍手が延々と続いた。

曲はそこから、ギターの綺麗なアルペジオから入る「春を歌にして」、そしてアコースティックギターに持ち替えての「風の強い日」としっかり聴かせる曲が続くが、このあたりから照明がイルミネーションのように彼等を時に青く時に赤く照らし出し、ステージ上や天井に映し出される幾何学模様も美しく、彼等の音楽の持つナイ―ヴな側面を視覚的にも強調していく。“あなたの思うような人になれなかった”“心が割れそうになる”“それでももう少しここにいるよ”等々、どこまでも足りない自分をどこまでも嘆く歌がここでは一層引き立つのだが、そんな情景を見つめる場内の目がどこまでも温かくそして生気に満ちているのは、それは彼が自己憐憫としてそれを歌っているのではなく、強く幸せを求める気持ちがあらばこそ、その裏返しで懺悔の念をダイレクトに歌ってると熟知しているからだろう。

例えば「ささえる人の歌」で歌われる“あなたの好きなものを作って待っている”という母親を描いた一節や、「信者よ盲目であれ」での“いつだって不安なんだ、怖くて怖くて仕方ない”という虚飾の無い歌詞に、オーディエンスがそれこそ全身を耳にして聞き入る姿は、言葉の裏にある不屈の意志のようなものを探り出す積極的な視線を感じさせるもので、その熱量こそが彼等のライヴの醍醐味だったりするのだ。

back number@渋谷公会堂
清水も中盤のMCで「今日は日ごろの鬱憤やイヤな事を忘れて、この時間だけは楽しく盛り上がろうぜ!というライヴではないじゃない?我々の人柄からして(笑)。でも、ライヴが終わった後に何かを残したい気はしていて。ライヴの後の帰り道に、何かが違って見えたら最高だと、そんな風に思っています。まとまらないけど、そんな俺たちに寄り添っていただけますか?渋谷公会堂の皆さん!」と語っていたように、一方通行ではない、テレパシーの交感を見るような風景が彼等のライヴのユニークなところであり、それは後半のシングル曲の連続という流れに入っても、盛り上がるというよりもより深い情念がふつふつと沸き立つ空気へと連なっていく点からも明らかだ。

それでも、後半のMCで清水はちょっと場を緩めるような口調で「僕は歌詞を踏まえた人生を歩みたいと思っていて、それは書いた人間としての責任もあると思うんですけれど(中略)どんなにすごいところに住んでいたとしても、好きな人がいなかったらそれは幸せではないと思います」と語り「花束」に入っていったのだが、ここからは彼等の曲の中でも比較的穏やかな質感のナンバーを配することで、彼等の“虚飾の無さ”を分かりやすく表現していた部分。続く「はなびら」で登場した大量の花びらが天井から降り注ぎステージ上をピンクに埋めつくす演出も、ヒネリの無いまっとうなアイデアだからこそ彼等の思い描く“幸せ”の在り方をストレートに視覚化した瞬間となった。

back number@渋谷公会堂
その雰囲気を大切にしたまま、本編最後の2曲は「あとのうた」「スーパースターになったら」というスピード・ナンバーで大団円へと突入していく、ここは王道のロック・コンサートらしい展開へ。それでも「スーパースター~」での“僕を待ってなんていなくたって、迷惑だと言われても”という自虐的な歌詞を場内が大声で合唱する様子はなかなか珍しい眺めで、“優れたラブソングとは人を丸裸にするものだ”という古い言葉を思い出したりしながら、彼等の歌が何故にここまで人を魅了するのか大いに納得している間に、1時間40分の本編を終えた彼等は下手へと退場していった。

当然のことアンコールの声は鳴り止まず、5分ほどでメンバー3人がまず現れ、それぞれに挨拶を。バンドを続けることを親に反対されていたというべ―スの小島和也、そしてツアーを通してスタッフを含む全員の結束力が強まったことを感じていただけにツアーが終わることが残念で仕方ないというドラムの栗原寿がそれぞれに感謝の意を述べ、続いて清水が「幸せな人生とは何だろう?と僕なりに考えて作りました」と語り、出来たての曲「日曜日」へと入っていく。この曲がなかなかに温かな情景と感情に満ちたもので、テレビドラマ主題歌というオーダ―を受けて作ったという以上に、彼等自身が自信を持って楽曲作りに向かっていることを強く感じさせる出来になっており、この日場内がもっとも晴れやかな空気に満ちた瞬間となったのは良い流れだった。

続いて清水が妙に嬉しそうに「温かな気持ちになった後は、とびきりの迷いをプレゼント!」と叫んで、忘れられない過去の恋人を未練たっぷりに歌う最終曲「そのドレスちょっと待った」になだれこんでいく頃にはすでにちょっと笑える余裕もあり、初のホール・コンサートを往来の得意技で堂々と締め括る納得のエンディングへと突入していく。それにしても“君と僕の人生が二度と交わらないことをお喜び申し上げます”なんていう物語を場内に合唱させるあたり、この清水依与吏という男、あれだけ自虐的な歌詞ばかり書いていながら実は結構Sなところもある人間なのでは?などと最後の最後になって思ったりもしながら、大舞台は彼等の本懐をしっかりと伝えつつ興奮のうちに幕を閉じていったのだった。(小池清彦)


back number@渋谷公会堂
セットリスト

1 海岸通り
2 こぼれ落ちて
3 リッツパーティー
4 春を歌にして
5 風の強い日
6 ささえる人の歌
7 信者よ盲目であれ
8 半透明人間
9 恋
10 幸せ
11 思い出せなくなるその日まで
12 花束
13 はなびら
14 あとのうた
15 スーパースターになったら

En1 日曜日
En2 そのドレスちょっと待った
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