今年2月に初開催され、早3度目を数えるインディー・ポップ/ロックの祭典、『Hostess Club Weekender』。既に来年2月には第4回開催の企画が進められているということで、世界中のフレッシュな才能を紹介するだけには留まらず、瞬く間に洋楽ライヴ・シーンを牽引するイヴェントへと成長を遂げたHCWの存在には頼もしさを覚える。
これまでの恵比寿ガーデンホールからお台場のZepp DiverCity Tokyoに舞台を移し、1ステージ制・2日間開催という運営方針はそのまま続行。初日最初のアクトは、デビュー前にもかかわらずインターネット上でのデモ音源や映像の発表を通じて現在進行形のロック・シンデレラ・ストーリーをモノにしつつある、リンジー(Vo./G.)とジュリー(Dr./Cho.)によるLA出身ガールズ・デュオ=ディープ・ヴァリーだ。リンジーのエロかっこいいヴィジュアルに釘付けにされ、想像していたよりも遥かにワイルドかつエキサイティングなパフォーマンスにノックアウトされてしまう。来年にはメジャー・デビュー・アルバムのリリースが予定されていることにも納得の、堂々たるステージだった。HCWでは、知名度の低い新人アクトが初っ端から素晴らしいステージを見せることが多くて気が抜けない。
続いては、昨年セカンド作『スレイヴ・アンビエント』をリリースしたフィラデルフィアのバンド、ザ・ウォー・オン・ドラッグス。キーボードを含む4ピースは、オーディエンスを包み込むようなサウンドとタイトなグルーヴ、そして豊かな歌心を兼ね備えており、序盤からポジティヴな意味でメジャー指向といった印象の優れた安定感・スケール感を見せてくれる。「朝からウィスキーを飲んでるよ」、と上機嫌なアダム(Vo./G.)の、ボブ・ディラン風の節回しが勢い良く転がる“Baby Missiles”やザ・バーズ風の暖かくドリーミーな“Best Night”と、多彩な曲調が盛り込まれて右肩上がりに熱の込められてゆくステージだ。『スレイヴ・アンビエント』には、かつてのバンド・メイトであるカート・ヴァイルも参加している。
そして、アンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッドによる、2001年サマーソニック以来の日本でのステージ。メジャー・デビュー前に名門Merge Recordsからリリースしたセカンド作『Madonna』を再現するというスペシャル・セットだ。コンラッドの姿を目の当たりにした時点では、さすがに年齢相応の貫禄を感じさせるようになったなという印象を抱いたのだけれど(失礼)、あの激情とストーリーテリングが堰を切ったように一緒くたに溢れ出すハードコアなパフォーマンスはやはり凄い。というか、メジャーに籍を置いていた一時期には、アイデアがぎっちりと練り込まれた重厚でウェルメイドな作品も残していただけに、パート・チェンジを行いながら前のめりになってゆくパフォーマンスが余りにも鮮烈で驚かされた。終盤には、新作『Lost Song』から“Catatonic”などのナンバーも、更なるヒート・アップと共に披露してくれる。
続いては、今夏のフジ・ロックにも出演したファックト・アップのステージ。愛すべき男=ダミアン(Vo.)は、登場するなり「日本語が話せなくてごめんな! でも昨夜は新日本プロレスを観に行って最高だったよ!」と掴みバッチリで、トレイル・オブ・デッドとは対照的と言っても良いような、陽性/どキャッチーなハードコア・サウンドにまみれながら咆哮を上げる。デブ/ハゲ/でも頭部以外は毛深い、という三重苦を全力で撥ね除けるかの如き、オーディエンスとのゼロ距離コミュニケーションは最高。そして、どうしようもなく泣ける。フジで初めて観たときはそんなダミアンに釘付けだったけれど、今回はステージ下からなかなか帰って来やしないダミアンを放置して、煌めくほどにメロディアスなコーラスときっちりした演奏を支えるバンドの頼もしさにも注視することができて良かった。
さあ、初日のトリは、前日に大阪でサーストン・ムーアとの対バン・ライヴを繰り広げたダイナソーJr.だ。ステージの幕が開き切らないうちから轟き始める“Just Like Heaven”。冒頭、弦を殴りつけるようなルー・バーロウのベースの音量が異様に前面にせり出していて笑ったのだけれど、次第に6連マーシャルを通して放たれるJ・マスキスのギラギラとしたギター・サウンドとのバランスが整えられ、圧巻のステージへと突入していった。新作『アイ・ベット・オン・スカイ』の収録曲はもちろん、かつてルーが在籍していた頃のインディー時代の曲も90年代のメジャー時代の曲も、広く見渡した最高の選曲で、中盤は“The Wagon”、“Start Choppin”といった往年の名曲の連打にフロアが跳ね上がる。
トレイル・オブ・デッドやファックト・アップに焚き付けられたのか、とりわけルーは終始エキサイトした様子で、ダイナソー以前にJらと組んでいたハードコア・バンド=Deep Woundのナンバーまで持ち出していた。そのアンサンブルは危ういようでありながら、マーフのドラム・プレイを軸に「ダイナソーJr.でしかありえない呼吸」で纏まってゆく。美しい。後半は初期のナンバーの連打であり、アンコールでは“Chunks”でファックト・アップのダミアンを加えたスペシャル・セッションが繰り広げられる。ダイナソーの凶悪な轟音とダミアンのスクリームは好相性でカッコ良かったけれど、Jがダミアンを呼び込むときに「おまえ、名前なんだっけ?」と言っていたのが可笑しかった。
トレイル・オブ・デッドがMergeに残した『Madonna』をステージで再現するという特別なステージもあったが、ダイナソーJr.というUSオルタナティヴの巨大な「幹」からハードコアの流れまでも見渡す、狂騒の祭典となった第3回のHCW初日、素晴らしかった。さて2日目には一体、何が起こるのだろう。(小池宏和)