ヨ・ラ・テンゴ @ ラフォーレミュージアム六本木

ヨ・ラ・テンゴは、頻繁に来日してくれる親日派のバンドのひとつだ。単独ツアーでも、また夏フェスへの参加でも、ヨ・ラ・テンゴの来日ステージは常に満員のお客さんと共に彼らの新旧ナンバー入り混じった最高のセットリスト(とジェイムズの不思議なダンス)で盛り上がるのが恒例になっている。彼らのショウは、アルバム毎の振れ幅や作家性とはある程度切り離された「祝祭」の色が強いのが特徴だ。そんなヨ・ラ・テンゴの過去の来日公演を思い返すと、今回の来日は明らかに異質だったと言えるだろう。

「THE FREEWHEELING YO LA TENGO」と題された今回の来日公演のコンセプトは、バンドとファンのQ&Aセッションをメインに、そのファンとのコミュニケーションから生まれた「ノリ」で演奏する曲目を即興で決めていくというもの。事前に「彼らがファンのリクエストに応える」というニュアンスで伝わっていた部分もあったが、それは初っ端のMCでアイラに「リクエスト・ショウではなく、あくまでもQ&Aの試み」であると訂正された。

会場の雰囲気もまったく新しかった。だだっ広いラフォーレミュージアム六本木にはずらっと整然とパイプ椅子が並べられ、その雰囲気は何かの学会か、はたまたアートのワークショップのようだ。ソールドアウト公演ゆえ、着席でびっしり埋まったフロアはなかなかの壮観。もちろんパフォーマンス中もオーディエンスは立たず(と言うか立てる雰囲気ではない)全員着席したままのショウになりそうだ。そしてほぼ定刻の19時を少し回った辺りで、ステージにアイラ、ジョージア、ジェイムズが登場した。

ステージのセットも簡潔極まりない。アイラは主にアコギ、ジェイムズは普通にベース、そしてジョージアのドラムセットはタム、スネア、ハイハットのみで、3人も着席したスタイルでプレイする。1曲目は“Tom Courtenay”。いきなりのアンセムにわっと沸く会場、そして3人のアコースティック・セットにジョージアの声がそっと寄り添う繊細なアレンジが素晴らしく、個人的にはこの1曲を聴けた時点であとはどんな曲がこようがOK!なモードになってしまった。

事実、この日のセットリストはかなり珍妙なものだったのは確かで、通常のショウならば必ずやるだろう定番曲もほぼやらず、来たるニュー・アルバムからの新曲とカヴァー・ソングがセットの中心に位置する内容になっていた。だからもし今回ヨ・ラ・テンゴを初めて観るというオーディエンスがいたとしたら、ずいぶん不親切な内容だったかもしれないが、恐らくこの日のラフォーレミュージアムを埋めていたハードコアなヨ・ラ・テンゴのファン(それは後の質疑応答の内容からも明らかだった)にとっては、長い彼らとの付き合いの中でも後にも先にも今回だけのスペシャルな一夜になったんじゃないだろうか。


――と、いうかなり特殊なステージだったので、これ以降のライヴ・レポートも通常とはちょっと変わったスタイルになります。オープニングから2曲演奏したところで、今夜の通訳3人衆がステージに現れる。彼らはQ&Aセッションをサポートし、ほぼ1問1答のサイクルでバンドが演奏を始めるとその度にステージからはけていく。通訳がステージにいる間は客電も付き、場内の雰囲気は本当にワークショップみたいなことになっている。じゃあ、実際にどんなQ&Aが繰り広げられたのか。ここでは特に印象的だった受け答えをピックアップしてみたい。

●ハリケーン・サンディで大変な被害があったようですが、ホーボーケンは大丈夫でしたか?
アイラ「ホーボーケンも数日前までは大変だったよ。洪水になったしね。でも今は水もはけたし、電力も回復したから大丈夫だよ。じゃあここでは水にまつわる曲をプレイしよう。今まで一度もやったことのない曲だよ」。そう言って始まったのはファースト・アルバムからの超レアな“The River Of Water”。なるほど、Q&Aセッションとはこういうことなのかと理解できた。そしてニュー・アルバムからもう一曲水にまつわるナンバーも披露される。これはジェイムズとジョージアの混声コーラスが美しいナンバーで、この日のセミ・アコースティック・セットのシンプルさが彼女達の声を際立たせてている。

●ジェイムズ、日本に永住する気はないですか?
ジェイムズ「プラン・イズ・NO。ドリーム・イズ・YES!」

●以前名古屋でマンキーズのカヴァーをしてくれたのが凄く嬉しかったんですけど。またやってくれませんか?
アイラ「僕はマンキーズの大ファンで、彼らに手紙を送ったことがあるんだよ。でも彼らが誰一人返事をくれなかった(笑)。だから僕は、ファンからもらった手紙やメッセージには全て返信しようって決めたんだ」(会場から大きな拍手)。ここでマンキーズのカヴァー“Take A Giant Step”がプレイされる。この日は他にもスペンサー・デイヴィス・グループ、ラヴ、ザ・デッドC(“Bad Politics”→大統領選開票の前夜に憎い選曲)等もやってくれた。SDGの“Gimme Some Lovin”は歪ませまくったアイラのノイジック・アコギがドリフトする最高のガレージ・チューンになっていて、こんなにアグレッシヴ&ラウドなアコギの音を聴いたのは久々かもしれない。

●最近の日本のバンドで興味があるのは?
ジェイムズ「今回も東京のレコード屋さんでたくさんお金を使いすぎちゃったよ。買ったのははっぴぃえんど、不失者、非常階段、あとSalyuとか」

●9.11の時にあなた達がすぐサン・ラーの“Nuclear War”をレコーディングして発表したのが忘れられません。昨年には日本も大震災、そして原発の問題と様々な困難がありましたが、その時もあなた達の“Nuclear War”を思い出して勇気づけられていました。

そんなファンからのメッセージを受けて彼らが続けてプレイしたのはもちろんサン・ラーの“Nuclear War”だ。3人が掛け合いのようにボーカルを取り、ギター・レスかつパーカッシヴなアレンジに乗ってまるで原初のヒップホップのように吐き出されたこの曲は、鳥肌が立つような攻撃的な瞬間を生みだしていった。和気藹藹としたQ&Aセッションに突如差し込まれた、ヨ・ラ・テンゴ固有のラディカリズムのようなもの。そのラディカリズムは3.11以降の現在もまったく新鮮さを失っていない。

●新作をジョン・マッケンタイアと作ってるって本当ですか?
アイラ「本当だよ!彼とアルバムを作るのは初めてなんだけど、実は僕らは20年来の知り合いなんだよ。昔は3人乗ればぎゅうぎゅうみたいな小さなヴァンで一緒にツアーを回ったこともあるんだよ。今まで一緒に仕事をしてなかったのが不思議なくらいだよね。新作では新しいことをしたかったんだ。新しい人とね。トータスを聴いたことがある人は、次にやる新曲になるほどなぁって思えるはずだよ」

●ジョージアは昔、大林宣彦監督の『HOUSE』のTシャツを着てましたよね。あの映画は好きなんですか?
ジョージア「ええ、大好きなの。サイケで、コメディで、ホラーで最高よね」
●それを訊いてよかったです。今日はその『HOUSE』の原案者がここに来ているので。
3人「えっ?!ここに?」

どうやら質問した男子のお知り合いの方がその原案者だったらしく、その方が立ちあがると「ワオ!」と目を丸くしながらパチパチ拍手する3人。これもまた今夜ならではのサプライズだったのではないか。興奮冷めやらぬといった様子でジョージアが「じゃあ次の曲は『HOUSE』に捧げます」といって始まったのはラヴのカヴァー“A HOUSE IS A NOT HOTEL”。ほとんどごろ合わせの洒落なのだけど、結果的にラヴの曲をチョイスしてジョージアが言っていた「サイケ」へのオマージュになっているのが最高だった。

アンコールまで含めて2時間を超えるセットになったけれど、本当に最後まで次に何が始まるか読めないショウだった。むろんショウの流れという意味ではそんなものは端から存在しないし、半分以上の時間を彼らのおしゃべりと通訳に裂いたイレギュラーなショウでもあった。でも、新曲をセミ・アコースティックのシンプルなセットでまずはラフ・デザインとして聴けたのは貴重な機会だったと思うし、何よりもサン・ラーやラヴのカヴァーはこの日だからこその意味を持つ、まさに一期一会のパフォーマンスだったと思う。新作を引っ提げてのプロパーのツアーももちろん計画されているだろうし、「いつもの最高」はまた次の機会に味わうとしよう。(粉川しの)
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