N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST

N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST - all pics by 阿久津 正義all pics by 阿久津 正義
ベースレスの3ピースによって奏でられるスッカスカの音像が、2時間半を経る間にいつしか、永遠のロマンスを約束してしまう。もはやロックンロールの魔法がかけられているとしか思えない、常識では捉え切れないほどの不思議な感動が、そこにはあった。晴れてのメジャー初フル・アルバム『24 HOUR DREAMERS ONLY!』を携えた、N'夙川BOYS初のワンマン・ツアー。東京公演はSHIBUYA O-EASTだ。今後は札幌公演や沖縄での追加公演も残されているので、本レポートではセット・リストなど詳細に触れることは控えるけれども、ライヴ参加を楽しみにされている方は閲覧にご注意を。

O-EAST公演のチケットはソールド・アウト。1300人が詰めかけるという盛況ぶりで、マーヤLOVEは上気しながら幾度となく「スッゲー。スッゲー。本当にどうもありがとう!」と告げていた。赤い学生上履きと艶のある歌声がチャーミングな紅一点・リンダdada、口数は少ないながらも全身金色の衣装と派手なアクションで終始スター性を振りまくシンノスケboysという、予め破綻しているのに(だからこそ)完璧に美しいトライアングルが、ステージの序盤から描き出されてゆく。満場のフロアを前にして明らかに興奮している様子ではあったのだけれど、オープニング・ナンバーが演奏される間、ギター・ノイズの粒子(実際にそんな粒子はないけど)も含めてみるみるうちにこの3人の化学反応が形を成してゆくのが分かる。

N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
確かにマーヤは、「今年は俺たち、ものすごい数の練習をこなしてきたぜ! 去年は、全体練習が3回(笑)。今年はなんと、20回! ものすごい数だ! 6倍いや7倍だよ!」と言わんでもいいことを誇らしげに語っていた。N'夙川BOYSの場合に限って言えば演奏が上手くなるのもちょっと困ってしまうところはあるのだけれど、突き詰めて考えてみるとこの20回という練習回数は、3人がバンドの化学反応を確認するために必要な数だったのではないだろうか。そもそもロックンロールは極めてシンプルな表現様式で、悪く言えば稚拙な音楽だ。だからこそ、ロックンロールは未完成な若者の思いを描き出すツールであり続けて来たし、まだ何も掴み取っていない人々にとっての「予感」に満ちた音楽でなければならない。

N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
リンダがドッタンバッタンと打ち鳴らすモータウン・ビートと、マーヤのファルセット・ヴォイスの隙間に思いが宿る“ひとりぼっちのマイクロフォン”。キラッキラの同期トラックにデュエットの歌声が映え、マーヤのドラム・プレイが加えられて爆発力を増す“homework”。リンダによる胸キュン・メロディのフックとマーヤのシャウトが並走するさまは“プラネットマジック”譲りでありながら、今回のステージでは音源同様に「それにつけてもベースはSA・KU・MA」ことプロデューサーの佐久間正英がゲスト参加して安定感抜群のグルーヴを構築した“路地裏BE-BOP”。ステージの床にぶっ倒れたマーヤがふらふらと立ち上がりながら熱唱する“トゥナイト”は個人的に新作の中で最も好きなナンバーであり、この曲でリンダが音数の少ないピアノを演奏するためだけにグランド・ピアノが持ち込まれているのは笑ったが、そんなすべての楽曲たちが、一時の感情以上に「予感」に満ち満ちている。この「予感」を確実に描き出すために、N'夙川BOYSは存在すると言っても過言ではない。

細かく書くとネタバレになってしまうのだけれど、今回のステージでは唐突に、演劇的な演出が挿し込まれる場面があった。初めのうちは何が起こっているのか分からなくて前衛的というかシュールに感じられたものだが、これがある楽曲へと連なる物語の背景になっていることが分かると、急激に視界がクッキリとしてゆくような感動に包まれることになる。逆に言えば、N'夙川BOYSのスッカスカなロックンロールには、それだけの物語を包容するキャパシティが備わっているということだ。

N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
そして終盤にかけて熱狂が最高潮に達する中、シンノスケはO-EASTのサブ・ステージを閉ざしていたシャッターをよじ上り、マーヤはツアー・タイトルにもなっている《でっかい でっかい 夢を見よう》のコールを誘う。揉みくちゃのフロアを気にかけては「誰の領域も侵すな! それでもロックンロールは踊れるだろうが! タテに行け! 上に!」と叫んでいた。挙げ句の果てにアンコールでは、オーディエンスにステージへと上がってくるよう声を掛け、ドラム・セットの中に収まっているリンダが見えなくなってしまうぐらいの人でステージは埋め尽くされてしまった。まるでイギー・ポップのライヴみたいだ。

「俺はロックンロールが好きやから、お客さんゼロでもやるやん。同じ熱量でやるやん。それがロックンロールのいいところやと思うし。バンドやってる人なら分かると思うけど、ゼロどころかマイナス5のときとか、あるからね! 俺はロックンロールが好きやから、好きで、嫌われるのは怖いんだけど、やるやん。それが、1000人オーバーとか、すごい!! 本当にありがとう! ロック、嫌いにならないでね」。

N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
N'夙川BOYS @ SHIBUYA O-EAST
本編の終盤に、マーヤはそう告げていた。N'夙川BOYSのデビューは、言ってみれば「遅れて来た鳴り物入りのスーパー・ルーキー」みたいなところがあったので、割と早い時期から話題になっていた。でも、バンドマンとしての人生が彼にそういう言葉を語らせて止まないのだろうし、そうした思いを形にするために、スッカスカのロックンロールをどうにか輝かせようとあがき、若者のそばで鳴っていて欲しいと願うのかも知れない。今後も多くのライヴ予定を抱えているN'夙川BOYSは、12/28(金)には幕張で行われるCOUNTDOWN JAPAN 12/13に出演。こちらも乞うご期待。(小池宏和)
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