ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂

ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂 - All pics by RYOTA MORIAll pics by RYOTA MORI
ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂
ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂
ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂
そりゃあ今までもベン・フォールズ・ファイヴのナンバーはベンのソロ持ち曲としてライブで聴いてきたが、やっぱりそれがあのベン・フォールズ・ファイヴの3人から繰り出されてくると、格別の興奮が身体の奥底から沸き上がってくるのが自分でもわかる。それはこの日の渋谷公会堂を埋め尽くした(そして13年前からこの時を待っていたであろうベテラン・ファン多めの)オーディエンスも同じ想いだったようで、ベン、ロバート、ダレンの3人が意気揚々とオン・ステージした瞬間、そして「コンニチワ!」とベンが快活に呼びかけた瞬間、客席から沸き上がる割れんばかりの大歓声! 2月16日:昭和女子大・人見記念講堂に続く、再結成ベン・フォールズ・ファイヴのジャパン・ツアー2日目:渋谷公会堂公演。以下、楽曲などについて記載があるので、まだ広島(20日)/名古屋(21日)/大阪(22日)の各公演に参加される方はツアー終了後にお読みいただければ幸いだが、観客のあふれんばかりの期待に違わぬどころかその遥か上を行くライブだったことだけは間違いない。

2008年に一度瞬間的に再結成を果たしていたものの、ついに昨年、2000年の解散以来12年ぶりにパーマネントな活動を再開したベン・フォールズ・ファイヴ。1999年の『ラインホルト・メスナーの肖像』から実に13年ぶりにリリースされた昨年9月のニュー・アルバム『サウンド・オブ・ザ・ライフ・オブ・マインド』を引っ提げての来日ということで、1曲目の“マイケル・プレイターの5年後”をはじめ“ホールド・ザット・ソート”“イレイス・ミー”“スカイ・ハイ”など新作曲を軸としつつも、序盤から“ジャクソン・カナリー”で歓喜の祝砲一斉掃射のようなパンキッシュなピアノ・サウンドを聴かせて客席一丸のクラップを巻き起こし、“セルフレス、コールド・アンド・コンポーズド”のしなやかなジャズ・アンサンブルで渋公丸ごと酔わせ……といった具合に90年代のアルバム3作の楽曲をしっかりと盛り込み、さらにベンのソロ曲“ランデッド”まで披露、まさにベンの極彩色ソングライティング全方位開放的な内容になっている。

時に金属弦のカタマリとしての凄味に満ちた轟音を、時に心の琴線をまさぐるやわらかな音色を、ピアノの88鍵盤を通して広大な会場の隅々にまで響かせていくベンの圧倒的なプレイアビリティはそれだけでも最高にスリリングなのだが、それがタイトそのもののダレンのドラミング、ディストーション・サウンドからウッドベース/チェロまで自在にこなすロバートのベース・プレイと一体になって至上のグルーヴを生み出していく図は震えるくらいにエキサイティング。何より、ロバート/ダレンと3人でステージに立っているベンの、ソロでバンド・メンバーを統率している時とは明らかに異なるリラックス感がいい。曲に入るタイミングをわざとじらし合ったり、「Dマイナー」とか「Cマイナー」とかコードだけ告げて即興演奏(「ニホンガスキダ~」とか「ヒロシマ、やっちまった~」とかを繰り広げたりする場面も、いちいち「バンド」としての連帯感と遊び心に満ちていた。

ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂
ベン・フォールズ・ファイヴ @ 渋谷公会堂
中盤の“ランデッド”“スカイ・ハイ”“ミッシング・ザ・ウォー”という静謐な流れから浮かび上がるメロディとコーラスの精緻な美しさ。ロバートの奏でるシンセのイントロから雪崩込んだ“ドロー・ア・クラウド”のパワフル&ポップな快楽。そして、後半は“ブリック”から“フィロソフィー”“ケイト”“アンダーグラウンド”と往年のBF5アンセムをこれでもかと連打! “アーミー”で客席を極彩色のコーラスに包んで本編を終えたBF5。アンコールでは、アルバム『サウンド・オブ~』のボーナス・トラックとして収録されている“サンキュー・フォー・ブレイキング・マイ・ハート”日本語バージョンをサポートするゲスト・シンガーとして、かつてベンのソロで楽曲共作も果たしているアンジェラ・アキが登場。「高校生の時に初めてベン・フォールズ・ファイヴを観て……ほんと、私にとってはヒーローなんです。めっちゃ嬉しいです!」と熱く語る彼女の言葉を、ロバート&ダレンに「She said, "Give me my money back".」と真面目な顔で英訳(?)してみせるベンのユーモアが、そして日本語の歌詞を雰囲気たっぷりに歌い出した途端に絶妙のタイミングでつっかえて歌い直す姿が、会場の温度をさらに上げていく。ラストは“ソング・フォー・ザ・ダンプト”の日本語バージョン“金返せ”ででっかいシンガロングを巻き起こして終了!

ピアノ・トリオという極めてシンプルかつベーシックなスタイルながら、2000年の解散から10年以上経ってもベン・フォールズ・ファイヴの記憶をかき消すバンドは現れなかったし、ピアノだけでなく全身が楽器として鳴っているようなベンのプレイ・スタイルとソングライティングを凌駕するアーティストも現れなかった。そんな彼のホームグラウンドたるBF5という場所が今、僕らの目の前にある。その幸せを心行くまで堪能することができた、最高の2時間だった。(高橋智樹)
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