「みんなにはほんと、お礼の気持ちしかないです。俺らもう終わったと思われてて……こんなに素敵な『帰ってくる場所』があるとは思ってませんでした。みんなのおかげです。ありがとうございます!」という岡本洋平の言葉に、はちきれんばかりに満員のリキッドルームのフロアから熱い拍手喝采が沸き上がるーー昨年2月に同じくここリキッドルームで行われた復活ライブ(ストレイテナーとの対バン。ここRO69でもレポートしていますのでご参照ください)から1年2ヵ月。『Hermann H.& The Pacemakers 2013 ベスト盤発売記念ワンマンライブ!!!』というライブ・タイトルの通り、3月6日にリリースされたベスト・アルバム『The Best of Hermann H. & The Pacemakers』を引っ提げて、実に約8年ぶりとなるHermann H. & The Pacemakersの東京&大阪ワンマン・ライブがついに実現!
「ついに」とは言っても、今回のワンマンまでの流れは特に既定路線でも何でもなかった。05年3月の休止宣言から続いた沈黙を打ち破った昨年の復活ライブだって、その後の予定は一切決まっていない「一夜限り」のものだった。が、他でもないそのライブが、ヘルマンの音楽を愛し続けた人たちのハートに火をつけ、歓喜に沸き返るオーディエンスの姿がメンバー自身のハートを燃え上がらせた。どこまでも青春的でセンチで衝動的でメランコリックで、だからこそリアルな00年代群像劇の向こうに、とんでもない開放感とダイナミズムを生み出してしまうヘルマンのロックンロールーーその楽しさを、あの復活ライブで僕らは思い出してしまった。何より、岡本洋平(Vo・G)/ウルフこと若井悠樹(Wolf)/溝田志穂(Key・Cho)の3人に山下壮(G/LUNKHEAD)/TOMOTOMO club(B/THE BEACHES)/マシータ(Dr/ex.BEAT CRUSADERS)というサポート陣を加えた復活ヘルマンが鳴らしていたパワフルなサウンドには、その楽しさを思い出させるのに十分なエネルギーがあった。「帰ってくる場所」は他でもない、彼らの音そのものが作ったものだった、ということだ。そして今年、岡本とともに作詞作曲の要を担っていたギタリスト=平床政治が、03年の脱退から10年ぶりに正式再加入!……という状況を受けて情熱が沸点を超えまくったヘルメイツ(ヘルマンファン)たちがこの日、雨の中リキッドルームに大集結したのである。
割れんばかりの大歓声の中、「ロックンロール・シティ東京のみなさん、Hermann H. & The Pacemakersです!」という岡本のコールで幕を開けたこの日のライブ。まだ4月12日(金)の大阪:Music Club JANUS公演が控えているのでセットリスト全掲載は割愛させていただくが、平床が加わってトリプル・ギターの7人編成に生まれ変わったヘルマンのアンサンブルがすごい。“東京湾”に“エアコン・キングダム”に“Come On, Ha!!”に、といったフロア瞬間沸騰必至のナンバーはもちろん、ユニゾンで轟く“Loser's Parade”のぶっといリフに痺れたり、名曲“言葉の果てに雨が降る”がより色彩豊かに脳裏に広がったり、“Parachute Honey”の夕暮れ爆走感がさらなる切迫感をもって胸を突き上げてきたりーーと、その曲とフレーズのひとつひとつが格段に強さと熱量を増している。それによって、岡本の歌から滲む不屈のロックンロール・マインドが途方もない躍動感をもってリキッドルームの隅々にまで突き刺さっていく。ロックのエッジ感そのもののようにびりびりと頭と心を震わせる平床のギター・サウンド。熱いアンサンブルにキュートな色合いを加える溝田のシンセの響き。そして、でっかいウルフラッグ(団旗)を振り回し、ジャージ姿で体操のお兄さんの如く踊りまくりながら力の限りに歌い叫ぶウルフ……「完全復活」を越えた、今だからこそ体験できる至上のヘルマン・ワールドがそこにはあった。ロックンロールもスカもパンクも自由自在に配置した音像越しに、やり場のない焦燥と倦怠とルサンチマンを炸裂させていた、00年代インディー・ロックのひとつの象徴とも言うべきヘルマンの音は今、途方もなく爽快な狂騒感の吹き荒れるパーティー・ロックとして鳴り響いている。さらに、ベスト盤に収録されていた新曲“OEM”の、モータウンとオルタナとロックンロールが手に手を取って踊り回るような高揚感! ヘヴィ・バラード“靴底”あり、“アクション”“ROCK IT NOW!”あり、出し惜しみなしの大放出。最高だ。
「帰ってくる場所」を失う苦さを知っているからこそ、岡本はじめメンバーの姿からは、ヘルマンの曲を今こうして演奏し歌うことの喜びが満ちあふれていたし、それがこの日のライブにひときわ感動的なヴァイブを与えていた。岡本はMCのたびにあふれそうになる感激を「ワンマンは8年ぶりぐらいになります。7年半ぐらい活動休止を経て、いろいろありましたけど、今こうやってみんなで帰ってきました! ありがとうございます!」という感謝のメッセージや「今年、もっとたくさん、いろんなことをみなさんに見せれるようにしたいと思うので……応援よろしくお願いします!」という決意表明に託しつつ、この日もう1曲披露された新曲“mr. memento”の、ポスト・パンクとエレクトロが暴走&自然発火したようなサウンドを「これが今の俺らだぜ!」という言葉とともに意気揚々と提示していたのも印象的だった。
アンコールでは「溝田さん、雨女っぷりハンパないっすね!」(ウルフ)と産休直前の妊婦・溝田をいじって「2人分だからね。男の子らしいんで。臨月でこんなとこいちゃダメだって!(笑)」(岡本) 「……お医者さんに言ってないんです(笑)」(溝田)とフロアの笑いを誘ったり、岡本が「こっちのおじさん帰ってきました! みんな大きな拍手を!」と平床への盛大な拍手の嵐を巻き起こしたのを受けて平床が「10年ぶりですね。みなさん元気ですかー!」と声裏返らせながら熱く叫び上げたり……といった場面のひとつひとつが、会場の温度をさらに天井知らずに上げていく。《拾い忘れた夢は 近い未来で待ってるはず》ーー“GOOD NEWS”のそんなフレーズが、ヘルマンの「今」の多幸感と一丸となって胸に広がってきた。
Wアンコールの最後、「ヘルマンが最初に演奏した曲です!」と披露したのはもちろん“One, Two, Three, Four”。溝田の産休期間中サポートを務めるr.u.ko(細萱あゆ子/THE BEACHES)を舞台に迎え入れ、タンバリンを持った溝田がセンターに立ち、熱気と祝祭感がリキッドルーム狭しと噴き上がる中、「飛び込んでいいですか!」というウルフの言葉とともにフロアへダイブを決めるウルフ&岡本。そして、ウルフが運び込んできた銅鑼を高らかに打ち鳴らす溝田。かけがえのないこの場所に、2013年の今、何度でもやってくることができる……そんな僕らの充実感がそのまま形になったような、最高のフィナーレだった。12日の大阪ワンマンの後にもまだまだヘルマンのライブは続く。まだ観たことのない方も、昔聴いてたという方も、ぜひ一度「今」のヘルマンに触れてほしい。いや触れないともったいない。(高橋智樹)
Hermann H. & The Pacemakers @ LIQUIDROOM ebisu
2013.04.06