WIRE13 @ 横浜アリーナ

WIRE13 @ 横浜アリーナ - (pic by Masanori Naruse)(pic by Masanori Naruse)
石野卓球がオーガナイズする日本最大規模の屋内レイヴ『WIRE』が、15周年のアニヴァーサリーを迎えて開催された。今年の出演者はメイン・フロアから出演順に、DJ SODEYAMA、アゴリア、マイク・ヴァン・ダイク(LIVE)、ケン・イシイ、ウェストバム、ジョルジオ・モロダー feat. クリス・コックス(SPECIAL GUEST/LIVE)、石野卓球、ヘル、レン・ファキ、ジョシュ・ウィンク、スヴェン・フェイト。一方のセカンド・フロアにはTAKAAKI ITOH、RYUKYUDISKO(LIVE)、A.MOCHI(LIVE)、バート・スキルズ、フィリップ・ゴルバチョフ(LIVE)、スラム、マティアス・アグアーヨ(LIVE)、2000・アンド・ワン、ベロシマ(LIVE)、パチャンガ・ボーイズ、田中フミヤ。VJにはDEVICE GIRLSとKRAK×HEART BOMBというラインナップだ。

まずは会場周りについて軽く触れておくと、メイン・フロアにはやぐら型のDJブースが2つと、中央にライヴ・スペース。エリア後方には横浜アリーナの座席が引き出されているのもここ数年の開催と同様なのだけれど、後方に居ても音がクリアにビシビシと伝わる手応えは例年以上ではなかっただろうか。ピーク・タイムにはもちろん膨大な量のレーザーがフロア内を駆け巡るものの、ステージ上の照明はと言うと柱上の反射板を用いた間接照明型になっており、光が目に柔らかい。このことが、ダンスに没入するための集中力を助長するギミックとして見事に機能していた。また、フード・エリアでは、昨年に石野卓球がDJ参加したドイツ由来のビア・フェス『スーパーオクトーバーフェスト』とのコラボということで、さまざまなドイツビールやソーセージが販売されていたのも面白かった。

WIRE13 @ 横浜アリーナ - DJ SODEYAMA(pic by Masanori Naruse)DJ SODEYAMA(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - AGORIA(pic by Masanori Naruse)AGORIA(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - RYUKYUDISKO(pic by kazuhiro kitaoka)RYUKYUDISKO(pic by kazuhiro kitaoka)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - マイク・ヴァン・ダイク(pic by Masanori Naruse)マイク・ヴァン・ダイク(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - ケン・イシイ(pic by Masanori Naruse)ケン・イシイ(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - ウェストバム(pic by Masanori Naruse)ウェストバム(pic by Masanori Naruse)
ソリッドかつファンキーなビートでオープニングの沸々とした高揚感を担っていたDJ SODEYAMAが終盤、ビートもそこそこに情感溢れるトラックを繰り出すと、アゴリアはそのテイストを引き継ぐように扇動的なメロディが迸るトラック群を投下してゆく。『WIRE』15周年と並んで結成10周年を迎えたセカンド・フロアのRYUKYUDISKOは、唯一無二のエレクトロ・カチャーシーを踊らせて逃れようのない高揚感の中へと引き込んでくれていた。マイク・ヴァン・ダイクのライヴは、自らの積極的なマイク・パフォーマンスはもとより、女性ヴォーカリストも招き入れてファンク/ディスコ色の強いステージを披露。続いて、音の精度といいドラマティックな構成といい、プロフェッショナルの機微をまざまざと見せつけるのはケン・イシイだ。そしてファットボーイ・スリム“プッシュ・ザ・テンパー”を皮切りに、ゴリゴリのロッキン・ブレイクスを繋いでカチ上げるのは常連・ウェストバム。確かなダンス・ビートが刻まれた上で、心を揺さぶるメロディの効能が染み渡る前半戦となっていた。

WIRE13 @ 横浜アリーナ - ジョルジオ・モロダー(pic by Masanori Naruse)ジョルジオ・モロダー(pic by Masanori Naruse)
持ち時間は45分と短かったものの、間違いなく今年のハイライトのひとつだったのが、スペシャル・ゲスト枠でもある「ディスコの父」ジョルジオ・モロダー御年73の降臨である。「コニチハ、ヨコハマー! ディス・イズ・マイ・フレンド、クリス・コックス!」とヴォコーダーを噛ませた挨拶にも元気が漲っている。「レディース&ジェントルメン、調子はどうかな? OK、OK。今夜は、新しいドナ・サマー・ミックスを贈らせてもらうよ」と“ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー”を放ち、更には『ネバーエンディングストーリー』主題歌やベルリン“テイク・マイ・ブリーズ・アウェイ”(『トップガン』)など、80年代名作映画のテーマ曲も織り交ぜる。大笑いだったのは、ダフト・パンク“ジョルジオ・バイ・モロダー”冒頭のモノローグが生「語り」になっていたことだ。「様々な場所で音楽を作ったよ。ドイツ、イタリア……日本ではやったことがなかったな。でも、今はこうして私は日本にいるよ!」と喝采を誘い、《My name is Giovanni Giorgio, but everybody calls me Giorgio.》のキメ台詞でトラックが鳴り出す。カッコいいったらありゃしないのである。

WIRE13 @ 横浜アリーナ - 石野卓球(pic by Masanori Naruse)石野卓球(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - スラム(pic by kazuhiro kitaoka)スラム(pic by kazuhiro kitaoka)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - マティアス・アグアーヨ(pic by kazuhiro kitaoka)マティアス・アグアーヨ(pic by kazuhiro kitaoka)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - ヘル(pic by Masanori Naruse)ヘル(pic by Masanori Naruse)
そんな一幕を経ての石野卓球は、華々しいフレーズが弾け飛ぶプレイで高揚感を繋ぎ、序盤に『WIRE13』コンピ収録の新曲“Jack Wire”を投下すると、怒髪天“ニッポン・ワッショイ”などもミックスしてしまう。セカンド・フロアに出演したグラスゴー出身のスラムは、2人掛かりでホワイト・ノイズを撒き散らすディープなダンス空間を演出。続くチリのマティアス・アグアーヨは、ヴォーカル・ループを構築しながらのライヴ感溢れるダブステップ/ハウスで、ロック耳なオーディエンスも楽しませるユニークなステージであった。セカンド・フロアの「異空間」ぶりが冴え渡る。深い時間帯に突入してからのメイン・フロアにはヘルが登場。センチメンタルなフレーズを忍ばせたDJプレイに、ジャーマン・エレクトロの系譜を引き継いでゆくような、今の彼の姿勢が透かし見えていた気がする。

WIRE13 @ 横浜アリーナ - レン・ファキ(pic by Masanori Naruse)レン・ファキ(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - ジョシュ・ウィンク(pic by Masanori Naruse)ジョシュ・ウィンク(pic by Masanori Naruse)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - ベロシマ(pic by kazuhiro kitaoka)ベロシマ(pic by kazuhiro kitaoka)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - パチャンガ・ボーイズ(pic by kazuhiro kitaoka)パチャンガ・ボーイズ(pic by kazuhiro kitaoka)
WIRE13 @ 横浜アリーナ - 田中フミヤ(pic by kazuhiro kitaoka)田中フミヤ(pic by kazuhiro kitaoka)
今年のマイ・ベスト・アクトだったのはレン・ファキだ。下腹を抉るような低音と、豪腕ぶりだけには留まらない緻密なサウンド設計、完璧にフロアの空気を捉えた流れ、どの点を見ても素晴らしかったし、めちゃくちゃ踊らされてしまった。ここから、強烈な抑揚をつけた半ば変態的なプレイを浴びせかけるジョシュ・ウィンクへと連なるリレーに、本格的テクノ・イヴェントたるWIREの真骨頂を見た気がする。一方、セカンド・フロアにはどキャッチーなテクノが相変わらず即効性抜群のベロシマ、レボレド+スーパーピッチャーという強力なユニットでダークウェーヴ寄りのエレクトロニック・サウンドを浴びせかけるパチャンガ・ボーイズと個性豊かなアクトが続き、『WIRE』皆勤賞の田中フミヤがクローザーとしてそのストロング・スタイルを発揮してゆく。

WIRE13 @ 横浜アリーナ - スヴェン・フェイト(pic by Masanori Naruse)スヴェン・フェイト(pic by Masanori Naruse)
メイン・フロア大トリのスヴェン・フェイトは、2時間を越えるプレイがアンコールに差し掛かろうというとき、「Dancefloor is holy!」と連呼していた。まるでテクノの大作映画を観、それを身体で味わうような物語的で美しいプレイを繰り広げた彼だったからこそ、その言葉はフロアに染み渡るように響いた気がする。宙からは星形にカットされた『WIRE13』ロゴ入りの紙吹雪(スチロール製だったが)が降り注ぐ。15周年の『WIRE』には、アニヴァーサリーの歓喜だけでなく、例えばテクノ/ダンス・ミュージック・カルチャーの底力と存在意義のようなものが立ち込めていた。スヴェン・フェイトの言葉にはそれが集約されていたように思える。これまであなたに見えていた世界が絶望的なものだとしたら、別の人生が必ずあなたにもあるのだということ。その可能性をなげうってはならないのだということ。ダンス・カルチャーの根底には、連綿とその思いが流れて来た。どれだけ大きなイヴェントとなってもその本質を見失わない『WIRE』にもまた、続けられるべき底力と存在意義が備わっているのだと思う。(小池宏和)
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