嘘つきバービー @ LIQUIDROOM Ebisu

《面白いであったり素晴らしいと思うものを共有できなくなり、このままバンドとして作品を出し続けるのは只の嘘だ。そうなった以上きちんと解散するべきだ。というのが大きな理由であり、3人で出した答えです》という岩下優介(B・Vo)のメッセージが嘘つきバービーのオフィシャルサイトに掲載されたのは5月の終わりのことだった。あれから6月~7月の全国ツアー「魔法を使った分の頭痛」を経て、いよいよこの日が訪れてしまった――9月14日:長崎・佐世保ガァネット、24日:大阪・梅田Shangri-La、そして27日:東京・LIQUIDROOM Ebisuと3公演にわたって行われる嘘つきバービー正真正銘最後のライブ「嘘つき、バービー」の最終日。客電が消え、リキッドルームの舞台の幕が開くと、そこでポーズをキメているのは岩下優介、千布寿也(G)、豊田茂(Dr)……に加えて、過去PVに登場してきたキャラクター:泥人間泥田とマグロ少女。最後の瞬間が訪れてしまったという悲鳴のような絶叫と、最高の時間が始まった!という歓喜の声が轟々とフロアから噴き上がる中、ジャズとロックンロールとムーディーな狂気が一丸となって押し寄せるような“ファンタ”の音像と強烈なビートと「やかましー!!」の絶唱が会場狭しと吹き荒れて、ソールドアウト満場のリキッドルームを爽快なまでのカオスへと叩き込んでいく。そして、「う、そ、つ、き、バービーです」の岩下のコールが、フロアの温度をさらに上げていく。

《ネック折って抜いて出た蟹の実を食って生きてることのアピール》(“音楽ずるり”)とか《お願い事するたび アーメンの人から犬にされていく 超能力とかそういう力ではなく セロテープ はる》(“バビブベ以外人間”)とか、メルヘンとアングラがこんがらがったような、一見不条理でミステリアスなのに不思議とキャッチーで、どこかキュートにすら響く歌詞世界。どこまでも強烈なパワーに満ちているくせに「強靭なロック」と呼ぶにはあまりにアヴァンギャルドに破綻していて、しかもサイケデリックで中毒性に満ちているアンサンブル。アッパーな高揚感とか多幸感といった要素とは無縁に見えるそれらの要素が合わさることで、「触れるとヤバいロックンロール」そのもののような濃密な妖気と背徳的な躍動感を描き出してしまう、長崎・佐世保発の3ピース変異体、嘘つきバービー。結果的にラスト・アルバムとなってしまった2011年のアルバム『ニニニニ』リリース時のインタビューで「自分の書きたい歌詞の世界を表現する手段としての音楽なので。音楽はほんとに、ゆらゆら帝国とたまと、あとは対バンのみなさんぐらいしか知らないんで(笑)」と岩下は独自の「異世界のストーリーテラー」ぶりについて話していたが、どのシーンの流れともリンクしない異種生命体的バンド=嘘つきバービーの音楽は、だからこそ途方もなくスリリングだったし、魅力的だった。

タワーレコード限定の1stミニアルバム『子供の含みぐせ』(2007年)からの“カサカサ”に続けて、“絶景かな絶景かな”“表太郎”といった1stアルバム『問題のセカンド』(2009年)のナンバーを畳み掛け、あふれんばかりの想いを抱えてやってきたオーディエンスをぐいぐいと狂騒空間へと導いていく。みんな一斉に拳を突き上げたりシンガロングしたりというライブではまったくないが、それでも思い思いに変幻自在なサウンド&豊田茂の爆発力に満ちたビートに身を任せて踊りまくる観客が、リキッドルームをもうもうとした熱気で包んでいく。そんなフロアの空気を、「今日は、台風の進路は違う方に行っとけって電話したので……進路相談を」とぽつぽつと語る岩下のMCに巻き起こる笑いが鮮やかにかき混ぜていく。さらに中盤、ブレーキ壊れた疾走ナンバー“神様と人間”(『子供の含みぐせ』)と、新曲“ディス子の彼”の異次元ポップなディスコ・ビートとのコントラストが、会場のテンションをさらに高めていく。

しばしの沈黙の後、「イヤやねえ」という岩下の言葉に、「解散しないでー!」と思わずフロアから声が上がる。それに答えるように「イヤやけどさ、最後の共有感情が『イヤ』じゃ、イヤやん? 今日は楽しくやろうと思ってます」と静かにフロアに呼びかけ、「嘘つきバービーです。嘘つきバービーです。嘘つきバービーです。嘘つきバービーです……4回言ったった(笑)」とオーディエンスを心地好く煙に巻いていく岩下。「じゃあ、一緒に踊るってことでいい?」と、“バビブベ以外人間”のひときわカオティックで鋭利なサウンドから圧巻の後半へ! サイケ感と疾走感の接点からハード・ロック的なダイナミズムが咲き乱れる“塊のズレ”。千布寿也のギター・フレーズが観る者すべての平衡感覚を奪っていく“イワとイイ関係”……1音1音を全身で謳歌しきろうとするフロアの熱意が、1曲、また1曲と強くなっていくのがわかる。“むれにむれる”“新しい化学”、さらに“やわらかヘンリー”から流れ込んだ“アクセル一発ズガイコツでた”でベース・アンプに昇って狂騒感を煽りまくる岩下。曲が終わりきらないうちに幕がゆっくりと閉じて……本編終了。

アンコールを求める熱烈な手拍子に応えて再び登場した3人。“ねこ子”“どろろどっきんぐ”“音楽ずるり”を畳み掛け、戦慄必至の強度のキメを叩き付けて終了——かと思いきや、“魅惑のマジカルチョコレーツ”が鳴り響き、タンバリンを手にした岩下が舞台でカラオケ状態で歌い始める。さらに、フロアの柱を背に一段高く立ち上がったのはパンツいっちょの豊田。ギターを構えてスタンバイする千布。やがてステージに3人揃ったところで、“嘘つきバービー学”と題したメドレー……というよりは“ねこ子”“バビブベ以外人間”などの楽曲の名場面だけをカットアップして連射するような、嘘つきバービー衝撃映像集的な演奏を展開していく。「次で最後にするわ」の岩下の言葉に、「やだ!」「泣いちゃう!」と声が飛ぶ。「最後なので、嘘つきバービーが3人で最後に作った、誰も知らない新曲をやって終わります」と岩下。歓声と拍手が沸き上がる中、グランド・フィナーレを飾ったのは新曲“まいろう”。人力ドラムンベースとボサノバが不穏にとぐろを巻いて弾け回るようなアンサンブルの最後、3人の渾身の轟音が響き渡り、「東京ありがとう!」という岩下のコールが、そして「東京ありがとう! 嘘つきバービー!!」の豊田の絶叫が、嘘つきバービーの今までの歩みを眩しく照らし出すように燃え上がって……終了。全身痺れるほどの爆演の余韻の中ですべてを出し尽くして舞台を去っていく3人に、惜しみない拍手がいつまでも送られていた。

冒頭に挙げたオフィシャルサイトのメッセージは、《だけど。メンバーそれぞれが、今後も素晴らしい音楽を提供しつづけていく為の第1段階だと信じています。タンポポの種みたいに同じところで生まれた3人の意思が、3つの音楽家となって皆さんの耳へ届けばいいなと思っています》と続いていた。この日のライブの模様は、嘘つきバービー最後の作品=ライブDVD『嘘つき、バービー』として10月30日にリリースされる(完全生産限定盤/タワーレコード限定)。バンドは終わりを迎えてしまったが、唯一無二の才気あふれまくりの3人のミュージシャンが「その先」で鳴らす音を、今はただひたすら待ちたい。(高橋智樹)

[SET LIST]
01.ファンタ
02.カサカサ
03.絶景かな絶景かな
04.表太郎
05.海大のばけもん山のように
06.ふくすけ
07.神様と人間
08.ディス子の彼 (※新曲)
09.バビブベ以外人間
10.塊のズレ
11.イワとイイ関係
12.むれにむれる
13.新しい化学
14.やわらかヘンリー
15.アクセル一発ズガイコツでた

Encore 1
16.ねこ子
17.どろろどっきんぐ
18.音楽ずるり

Encore 2
19.魅惑のマジカルチョコレーツ
20.嘘つきバービー学
21.まいろう (※新曲)
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