想像を遥かに超えるスケール感のスペクタクルであった。遂に開催されたSEKAI NO OWARIによるセルフ・プロデュース/初の野外ワンマンフェスティバル『炎と森のカーニバル』。まさに、空間として現出した広大なセカオワ・ワールドだ。会場は富士急ハイランド敷地内のコニファーフォレストを中心とするスペースなのだが、遊園地から紛れ込んだ不思議な森、といったコンセプトということで、会場案内では「富士急ハイランド」にクエスチョン・マークが付与されている。配置される無数の小物や飲食店スタッフの衣装、様々なイベントや仕掛け、ステージ・デザインに驚くべき演出の数々と、ここまでこだわり抜くかというほどにアイデアが詰め込まれ、そのすべてがエンターテインメント性に溢れた表現になっていた。なお、10/12、13、14(追加公演)と3日間に渡って開催されたこの『炎と森のカーニバル』だが、本稿は初日12日のレポートとなります。ご了承ください。
真夏日の地域もあった開催当日だけれども、標高の高い山間部の富士急ハイランドに向かうと気候は絶好のコンディション。少し霧がかかっているが、富士山の雄大なシルエットは眼前にくっきりと浮かび上がっている。会場ゲートをくぐり、飲食店やフェイス・ペイントなどのテントなどが立ち並ぶサブ・エリアに足を踏み入れれば、吊るされたランプ型の電灯にもツタが這わせてあってファンタジックなムードが強調される。こちらでは『DJ LOVEからの謎』といったクイズ企画や仮装コンテストの受付も行われていて、そのためか来場者の多くが思い思いに力の入った仮装を披露し目を楽しませてくれる。マント姿や道化師に魔法使い、天使と悪魔のペアといったセカオワ・ファンらしい仮装もあれば、血のりのついたナースやシスター、ジャック・スパロウに『バットマン』のジョーカー、『キック・アス』のヒットガール、魔法使いは魔法使いでも『魔女の宅急便』のキキもいて楽しい。森の中に蠢く巨大なドラゴン(がっちりと作り込まれたロボットだった)を横目にメイン・エリアに向かうと、巨大なメイン・ステージの脇に設置されたサブ・ステージには、一般公募された中から高校生吹奏楽部、DJユニットやケルト・バンドなど、さまざまなパフォーマーが出演していたようだ。こちらは残念ながら見逃してしまったけれども。
さて、ひと通り会場内を散策していると、いよいよ17:30、セカオワのステージが開演時間を迎える。陽がとっぷりと沈んだところに荘厳な鐘の音が鳴り響き、森の動物たちやモンスターがざわめき出すアニメーションが映し出された。葉の生い茂った巨木の下のステージに、(演出の)雨が降り注ぐ。情感を帯びたラテン・フレイヴァーのギター・フレーズとパーカッションが鳴り響き、無数の火柱が吹き上がる中に繰り出されるオープニング・ナンバーは“Love the warz”だ。Fukase(Vo)のシリアスなラップ・ヴォーカルがひた走る。Nakajin(Leader, SoundProduce, Gt)による威勢の良い挨拶を挟み、続けざまに放たれるのは“虹色の戦争”。オーディエンスが装着したLED内蔵のリスト・バンドが一斉に煌めく。ここで早くも人々に歌を預け、そしてエモーショナルなグルーヴが加熱する“illusion”へと向かってみせる。なかなかに意外なオープニングの3曲だ。来場者が幻想的で超現実的な『炎と森のカーニバル』の空間に浸っていたところに、セカオワ作品の「平和と戦争」「正義と悪」といった、単純な二項対立や勧善懲悪には留まらないディープでリアルなテーマをいきなりぶつけてきたからだ。そして、これがSEKAI NO OWARIなのだとも思った。現実と超現実、常識と非常識の境界線を揺るがし、そして本当に語られるべきテーマを探り当ててゆくバンドなのである。
だからと言って、DJ LOVE (SoundSelecter, DJ)が「ホテルの洗面所で、掃除の人がコンタクトレンズのケースを奇麗に並べてくれて。山梨のホテルの人はすごい丁寧」だの何だのと余りにもプライヴェート過ぎる話を投げかけようものなら、即座にSaori (Pf, ShowProduce)から「最初のMCでその話する!? さっきまで、この光景ヤバいって涙ぐんでたのに」とツッコミを浴びる訳だが、めげないLOVEは「みなさんの後ろの森にね……ホーラ騙された! みんな後ろ見た! よそ見してると、あっという間に終わっちゃうからな!!」と煽り立て、改めて『炎と森のカーニバル』の世界に招き入れるような“ファンタジー”を披露する。ステージ(と観客エリアとの間)に大量の水が流れ落ちる大掛かりなギミックは、スクリーンとして用いられるほかにも、歌詞の文字やさまざまな模様の形を成して水が流れ落ちるなど、度肝を抜くような演出に用いられていて凄い。“白昼の夢”ではFukaseが緊張の余りイントロで爪弾くギターを仕切り直したりしていたが、いじめのクレイアニメーションから連なる“天使と悪魔”、そしてオリエンタルな楽曲の情感と美しい影絵が手を取り合う“花鳥風月”と、名曲の数々に素晴らしい演出が添えられてステージを構築してゆくのだった。
唐突に警報が鳴り響き、「会場内に不審な侵入者を発見」「侵入者は楽屋に向かっている模様」とアナウンスが入ると、銃で武装した集団が2万人のオーディエンスを人質にセカオワの面々を脅迫する、というアニメーションが映し出される。コミカルな調子でまったく緊張感がないわけだが、「ん? LOVEはどこにいった?」「あいつ……もしかして一人で……」という前フリから、ステージ上では逃げ出してきたLOVEのダンス・パフォーマンスが繰り広げられるのだった。そして、お色直しを行ったメンバーがプレイするのは、映画『マダム・マーマレードの異常な謎』テーマ曲に起用されるという新曲“Death Disco”だ。当初はインスト曲として構想されていたというものの、切迫した疑念がリフレインする歌がかっこいい。Fukaseは巨大なドラゴンの翼を生やし(ボロボロに痛んでいるデザイン)、Nakajinは狼男(筋肉質体型アピールのため露出多し)、DJ LOVEは大きな角の牛(カミナリ様ではないと主張)、Saoriは純白の羽毛に覆われた美しい鳥(でも水の演出でびしょ濡れらしい)という仮装で、続いてFukaseのはっちゃけた骨折讃歌“broken bone”へと向かってゆく。
とりわけ感動的だったのは、Saoriのピアノに導かれた“深い森”からの、“眠り姫”、“幻の命”という3曲の流れだった。『炎と森のカーニバル』の巨大なはずの舞台装置が、このときばかりは大仰でも何でもなく、森の中の夜空やひんやりと澄んだ空気と混ざり合って溶けながら身体に染み込んでゆく。club EARTHという自分たちの居場所を手作りした頃のセカオワと、『炎と森のカーニバル』のセカオワは、確かに地続きであって根本は同じなのだろう。そういう揺るぎない手応えのパフォーマンスであった。Fukaseは「俺たちの今日の衣装は凄いって言ってたけど、みんな(オーディエンス)も凄いよね。俺、今日、ウサギの格好して会場内を歩いてたの」と語りながら、“アースチャイルド”でスパートを掛けてゆく。そしてオーディエンスによる歌とリスト・バンドがシンクロするかのようにキラキラと光を放つ“yume”を経て、本編最後は“RPG”だ。ウォーター・スクリーンの水は「THANK YOU」の文字を成して、流れ落ちるのだった。
観客エリアから、アンコールの催促とばかりに合唱される“スターライトパレード”のフレーズ。再登場したセカオワはそれに応えるように“スターライトパレード”を披露……しようとするのだが、「すみません、ウォーター・スクリーンで、機材の一部が破損しました!」とDJ LOVEが報告する。あらら。ところがここで、語りたいことは幾らでもあるんだ、とばかりにNakajin、Fukase、Saoriの3人が楽々と間を繋ぐ姿が頼もしい。機材は無事に復旧したようで、改めて“スターライトパレード”の華やかな高揚感に包まれ、そして“Fight Music”では視界いっぱいのタオル回しが敢行される。“インスタントラジオ”は、熱の込められたNakajinのギター・アウトロに合わせて花火も打ち上げられ、完璧なフィナーレを飾っていた。ブラス・バンド・アレンジによる“不死鳥”の終演SEを聴きながら帰路についても、ふわふわとした余韻がなかなか拭えない。SEKAI NO OWARIというバンドが抱えるトータルな表現の可能性、それを全身で味わうイベントだった。(小池宏和)
01 Love the warz
02 虹色の戦争
03 illusion
04 ファンタジー
05 白昼の夢
06 天使と悪魔
07 花鳥風月
08 Death Disco
09 broken bone
10 深い森
11 眠り姫
12 幻の命
13 アースチャイルド
14 yume
15 RPG
-ENCORE-
01 スターライトパレード
02 Fight Music
03 インスタントラジオ