オブ・モントリオール @ TSUTAYA O-WEST

昨年6月の音楽フェス「TAICOCLUB’13」での来日も、まだ記憶に新しいところ。1996年の結成以来、ギターポップから出発し、アルバムごとに驚くべき変化と冒険を続けてきた米インディの雄、ケヴィン・バーンズ率いるオブ・モントリオールが、去年発表の新作『LOUSY WITH SYLVIANBRIAH』を引っさげ、再度日本にやってきた。単独公演では約5年ぶりの日本ツアー。その初日である。会場はTSUTAYA O-WEST。ぎっしり埋まったフロアに充満する熱気にまず圧倒される。「久しぶり」という言葉以上に、of Montrealのパフォーマンスへの飢餓感と、新しいサウンドへの期待感がとても高いのだなと感じる。

ライブはまず、坂本陽一(vo,g)のELEKIBASSがオープニング・アクトで登場。オブ・モントリオールのファンにとっては、彼らは馴染みだろう。2000年、2005年のオブ・モントリオール来日時にサポートを務め、アメリカツアーにも同行したギターバンド。坂本はステージで「今度のアルバムでジ・アップルズ・イン・ステレオのロバート・シュナイダーに曲を書いてもらいました。音楽をやり続けてよかった」とMCしていた。言うまでもなく、ロバートとは、ジョージア州アセンズで90年代末にカルト的人気を得るインディバンドを多く輩出した音楽コミュニティ“エレファント6”の中心人物。もちろん、オブ・モントリオールもその仲間である。彼のMCでロバート、ケヴィン、エレファント6の名が結び付けられ、会場にもなぜか安堵感や一体感が広がる。ロバートの筆というELEKIBASSの“Garden Party”は、実にロバート・シュナイダーらしいフック溢れる曲で、この時点からフロアは大盛り上がりとなっている。

セットチェンジ後、いよいよオブ・モントリオールのステージだ。まずはケヴィンを除いた、ボブ・パーリンズ(b,ペダルスチール)、ベネット・ルイス(g,マンドリン)、ジョジョ・グライドウェル(key)、クレイトン・ライクリク(dr)、レベッカ・キャッシュ(vo、key)の5人が登場する。レベッカのデタラメ英語を合図に、ジェイムズ・ブラウンがよくやる、かけ声に呼応するリズムフックを繰り返したあと、JB風リフの“Girl Named Hello”で演奏が始まった。ケヴィンは少し遅れて、黒地に赤のファンキーな70年代風ジャケットで登場。顔にメイクはない。バンド全体を見れば、ジョジョとクレイトンはオレンジや黄色の派手なシャツでソウル/ファンク系なのに対して、ベネットはカウボーイシャツとハットでカントリー調、レベッカは西海岸のシンガーソングライター風と、一見バラバラ。けれど、この雑多で、風通しのいい雰囲気が、そのままオブ・モントリオールのカラフルな音楽を象徴している。

この日は、前半と後半で曲調に変化つけた2部構成だったといえよう。“We Will Commit Wolf Murder”までのアッパーでファンキーな前半と、“All My Sorrows (The Chordettes cover)”のインタリュードを挟み、怒涛の展開をみせる“Colossus”からの後半である。1曲目“Girl Named Hello”のリフをうまく使い、フロアを一気にダンス空間に変えると、全曲は演奏せず、すぐさま2曲目“Triumph of Disintegration”へ移っていく。元々、2つのパートが交互する進む構成の“Triumph of Disintegration”だが、前曲とメドレー風につなげると、さらに重層的に聴こえてくる。「逃避、分断、崩壊こそ勝利」と歌うアイロニカルで苦い歌詞を歌うケヴィンは終始笑顔。これこそオブ・モントリオールである。新作からの“Fugitive Air”を間に挟み、彼らのギターポップ・エッセンスの粋と言える代表曲“Suffer for Fashion”や、ファルセットヴォーカルがセクシーな“For Our Elegant Caste”、エレポップ風のダンスチューン“The Party’s Crashing Us”など、彼らの多面体なポップネスをオーディエンスに伝えていく。“Faberge Falls for Shuggie”では、レベッカとケヴィンがボーカルの掛け合いを披露。パワフルにドラマチックに歌いあげ、あいまに独特の細マッチョなダンスも見せる彼につられて、フロア全体もサウンドにどっぷり身を浸し、ステージを見つめながら体を揺らし、拍手と歓声をあげている。その心地よさに、前半8曲はアッという間に過ぎていった。

50年代の女性アカペラグループ、ザ・コーデッツのカバー曲、「All My Sorrow」をケヴィン、レベッカ、クレイトンの3人だけで歌い「ちょっと一息」といった空気が流れたあと、新作からカントリー調の“Colossus”“Raindrop in My Skull”で、後半がスタート。“Raindrop in My Skull”ではリードボーカルをレベッカがとり、ケヴィンはコーラスに徹する。そして、彼らにとって出世作となった『Skeletal Lamping』(2008)収録3曲の怒涛のメドレーが始まる“And I’ve Seen a Bloody Shadow”からが圧巻だった。“And I’ve Seen a Bloody Shadow”のシアトリカルな組み立てに始まり、アルバムの流れ通りに“Plastis Wafers”へ間髪入れずなだれ込む。変幻自在のビートと強烈なギターソロが、映像的でサイケデリックな万華鏡サウンドを幻視させ、次の“St. Exquisite’s Confessions”では一転、ソウルのファルセットボイスでしっとり“聖職者の変態告白”を歌い上げる。合わせてケヴィンは着ていたシャツを脱ぎ、上半身裸に。見ると、クッキリ6つに割れた腹筋もあらわで、これには会場からもちょっとしたどよめきが起きる。終盤、“Oslo in the Summertime”はヘヴィなファンクロックになり、定番の“Heimdalsgate Like a Promethean Curse”も初期XTCを思わせるパワーポップに変貌。実に力強い演奏で、ケヴィンも後半のセクションではゴキゲンにハネまくり、踊りまくっていた。

本編終了後、すぐアンコールに戻ってくれたメンバーたち。「日本語のバンド名を募集したい」なんてケヴィンがMCで冗談をいうと、「本田」「酒」など会場から返答が。それに彼もニコニコ顔。演奏はアルバム『Hissing Fauna,Are You the Destroyer?』(2007)から多重なコーラスワークが美しい“Gronlandic Edit”と不滅のギターソング“She’s a Rejecter”という展開に、会場の盛り上がりもピークに。オーガニックなバンド演奏に回帰しつつある今のオブ・モントリオールは、この日、ケヴィンが1人多重録音で作り上げてきた密室ポップやファンクを、オープンなロックバンドの演奏としてライブ空間にカラフルに解き放った。その躍動感は、終演後の観客の明るい笑顔に反映されていた。(岸田智)

セットリスト
M1:Girl Named Hello ~       
M2:Triumph of Disintegration  
M3:Suffer for Fashion
M4:Fugitive Air
M5:For Our Elegant Caste
M6:The Party’s Crashing Us
M7:Faberge Falls for Shuggie
M8:We Will Commit Wolf Murder
M9:All My Sorrows (The Chordettes cover)
M10:Colossus
M11:Raindrop in My Skull
M12:And I’ve Seen a Bloody Shadow
M13:Plastis Wafers        
M14:St. Exquisite’s Confessions
M15:Oslo in the Summertime
M16:Heimdalsgate Like a Promethean Curse  

Encore
EN1:Gronlandic Edit     
EN2:She’s a Rejecter
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