ザ・ローリング・ストーンズ @ 東京ドーム

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ザ・ローリング・ストーンズ @ 東京ドーム
いよいよこの日が来てしまった。そんな想いで当日を迎えた人もいたかもしれない。8年ぶり6回目、アジア・オセアニアを回る「14 ON FIRE」ツアーの一環として実現した今回のザ・ローリング・ストーンズの日本ツアー初日。最後の日本公演、という声も囁かれるなか、早々にソールド・アウトが発表された通り、東京ドームは超満員。ジェイムズ・コットンによるブルースが会場に流れるなか、ステージ背景のバックライトが灯っただけで大歓声が湧き起こる。ストーンズのドームは何度も観てきたが、客席に漂う期待の密度がこれまでとはまったく違うのを肌で感じる。ステージの左右に設置されたヴィジョンには「14 ON FIRE」ツアーのロゴが映し出されていて、ベロマークからは血が滴り落ちている。そして、開演予定時刻から30分が経とうとしていた18時59分、場内を照らしていた照明が落ちた。

“Sympathy for the Devil”を彷彿とさせるパーカッションが鳴り響くなか、赤の照明で真紅に染め上げられたステージにサポート・メンバーが姿を現し始める。そして、チャーリー・ワッツのドラム・セットの後ろから、ミックが、キースが、ロニーが、チャーリーが登場する。当然のことながら、ドームは大歓声一色だ。ミックは今日は黒のジャケットを羽織っている。そうして始まった1曲目に、まず驚かされる。直近のアブダビ公演や昨夏のハイド・パークでは鉄板のオープナー“Start Me Up”でライヴをスタートさせていたストーンズだが、この日は昨年のアメリカ・ツアーでもあったように“Get Off Of My Cloud”を1曲目に持ってきたのだ。もちろん、「Hey! You! Get off of my cloud」のコール&レスポンスではドーム全体から大きな歌声が巻き起こる。さらにビックリさせられたのは、音のクリアさだ。昨夏のハイド・パークも現地で観ることができたが、騒音規制が厳しかったこともあり、その時と較べてもドームのほうがしっかりした音が鳴っている。

でも、一番驚かされたのは、なんといってもミック・ジャガーだろう。一部報道によれば左右80mという巨大なステージを縦横無尽に動きまわる。しかも、1曲目だけではない。これが2時間ずっと動きっぱなしなのだ。ハイド・パークで観た時も感じたが、2006年の前回来日時と較べてもその動きはシャープ。声の張りも格段にいい。70歳だという事実が到底信じられない。身体の芯を撃つ興奮のなか、呆気にとられている内に“Get Off Of My Cloud”が終了し、「Thank You! Tokyo!」というMCから突入した2曲目は、最近のツアーではこの位置がほぼ定位置となっている“It’s Only Rock ‘N’ Roll (But I Like It)”。ミックの表情には既に余裕めいたものも窺われ、ロニーと絡んでみせたりしながら、この日初めて左の花道に向かう。ステージバックのスクリーンにはストーンズの50年を超える歩みを想起させる写真や映像が流されるが、回顧的な演出があったのはこの曲のみ。むしろ、ショウは2014年現役のストーンズを徹底的に叩きつけるスタンスで進んでいく。

「Are you feelin’ good?」というミックの呼び掛けからスタートした3曲目は“Tumbling Dice”。この曲では、リサ・フィッシャー、バーナード・ファウラーというコーラス陣に、ボビー・キーズ、ティム・リースというホーン隊といった、おなじみの面々も加わり、フル編成でのパフォーマンスが切って降ろされる。ミックはこの曲でも再びロニー側の左の花道に行ったかと思えば、「Keep on rolling」のシンガロング部では、中央の花道にやってきて、高々と手を掲げてドームいっぱいのハンドクラップを煽ってみせる。“Tumbling Dice”が終わったところで、ミックお得意の日本語のMC。「ドウモアリガトウ。ミンナサイコー。ミンナニアイタカッタ」の言葉に大喝采が巻き起こる。こんな短い言葉のなかにも、オーディエンスが何を求めていて、ローリング・ストーンズのフロントマンとしてどんな言葉を発するべきか、というミック・ジャガーのパフォーマンス精神が結実している。

イントロの時点で大歓声が巻き起こったのは“Wild Horses”。この後に演奏された“Honky Tonk Women”も大歓声で迎えられたが、南部の空気を吸ったこれらのナンバーがストーンズ・ファンに深く愛されているのがよく分かる光景だ。ミックはこの日初めてマイクスタンドにマイクを預けて歌い出す。コーラス部ではもちろんキースがコーラスに加わる。ミックとキースでコーラスをとる映像がかなり長い時間抜かれていたが、こうしたシーンこそストーンズの醍醐味だろう。お次は昨年のUSツアーでライヴ初披露された“Emotional Rescue”。当然、日本公演でやるのも初めて。思いっきりファルセットでヴォーカルをとるミックにやはり新鮮なものを感じる。ただ、後半のコール&レスポンスがあんまりうまくいかなかったのか、ミックが思わず笑ってしまう場面もあった。しかし、そこはミックだ。次のMCで絶叫するかのように「Are you OK?」と語りかけ、スタジアムの空気を一瞬で掌握してみせる。一昨年リリースのベスト・アルバム『GRRR!』収録の“Doom And Gloom”ではミックがテレキャスをブラ下げてギター&ヴォーカルを披露する。最後のアウトロはどこかグルーヴが分解気味だったが、なんとか着地。こういうシーンを見るに、ストーンズの完璧なショウがあらためてナマ物であることを感じる。

事前に演奏曲のリクエストを募っていたストーンズだが、“Silver Train”“All Down The Line”“Respectable”“When The Whip Comes Down”“You Got Me Rocking”“Bitch”という6曲の候補曲のうち選ばれたのは“Bitch”。イントロのホーンとギターの絡みからして、すさまじくカッコいい。昨年のツアーでもポツポツと披露されてきた曲だが、やっぱりやり慣れている曲とは違って、バンドにもどこかしらギアが入るような感じを受ける。ミックはシンガロングを巻き起こしながら、右、左と花道を練り歩いている。そして、先程も触れた“Honky Tonk Women”では、この日一番とも言える大合唱が客席から湧き起こり、「ドウモアリガトウ・ヒサシブリ」というミックのMCからの定番のメンバー紹介の後は、いよいよキース・タイムになる。

正直に書くと、この日のキースはあまり調子が出ていないようだった。ここで演奏されたキースがリード・ヴォーカルをとった2曲“Slipping Away”“Before They Make Me Run”の出来がどうだったということではないが、ショウ全般を通してだいぶ慎重にギターを弾いている様子が見受けられたし、笑顔をしっかりと確認できたのもこの2曲を歌い終えた時ぐらいのもので、それ以外はなにかを探るような表情をしていることが多かった。最後、かもしれない日本公演で、キースの調子が出ないというのはあまりにも悲しすぎるが、一つ付け加えたいのは、昨夏のハイド・パーク公演を収録した『スウィート・サマー・サン ストーンズ・ライヴ・イン・ロンドン・ハイド・パーク 2013 』でも確認できる通り、ハイド・パークではもっと弾けていたのだ。むしろハイド・パークでは本国イギリスのライヴということもあって、ミックのほうが神経を尖らし、かなりナーヴァスになっている一面も見え、それに対しキースがバンド全体の勢いとグルーヴを生み出し、ミックを支えるという力学があった。だから、これからの2公演目、3公演目ではなんとか調子を取り戻したキースの姿が見たい。

あと、このキース・タイムでびっくりしたのは、なんと“Slipping Away”でミック・テイラーが登場したことで、ストーンズのミック・テイラーとしては日本初ステージにもかかわらず、ミック・テイラー脱退後の『スティール・ホイールズ』のナンバーでミック・テイラー初登場というのは、どうなのか?と思ってしまった。ただ、この後に演奏された“Midnight Rambler”は圧巻で、ギター・サウンドの連なりがスタジアムを揺さぶるストーンズの真価が発揮される。ミック・ジャガーのハーモニカとミック・テイラーのギターによる掛け合いも見事。中央の花道の真ん中でド迫力のバンド・サウンドをコントロールするミックの姿は神々しくさえあった。

そして、ここからの後半戦は、ストーンズのライヴならではのヒット曲によるスペクタクルである。“Miss You”では御機嫌のロニーが客席に投げキッスを飛ばし、客席の女性を映して「チョーカワイイ」というお決まりのMCから“Paint It Black”に突入。“Gimme Shelter”ではミックと共にリサ・フィッシャーが、中央の花道の先頭部で圧倒的な歌声を披露する。狂騒のなか、再びショウの流れに喝を入れてくれるのは、オープナーとして予想されていた“Start Me Up”だ。そして、なんといっても“Brown Sugar”である。既に報道されているように、ミック・ジャガーがこの曲でステージ右の花道から左の花道まで全力疾走。目視レベルではどう考えても、前回来日時以上のスピードで駆け抜けてみせる。ここまでの段階でショウ開始から1時間半。ミックには疲れた様子などまったく見えない。人類はこんな70歳を生み出してしまったと言いたくなるくらい、そのヴァイタリティには感服するしかない。“Jumpin’ Jack Flash”のあのリフが鳴る頃には、もう少しでこの時間が終わってしまう、そんな思いももたげてくる。本編ラストは“Sympathy For The Devil”。オープニング同様、真っ赤に染まったステージにあのパーカッションが鳴り響き、ミックは颯爽とスキップで花道を駆けまわる。一体なんなんだ、この70歳は。曲を終えて、ミックによる「Good Night」の言葉で本編が終了する。

アンコールの1曲目は、今回地元のコーラス隊を迎えることが恒例となっている“You Can’t Always Get What You Want”である。今回参加したのは、洗足学園音楽大学の在学生・卒業生を中心とした合唱団という「洗足フレッシュマン・シンガーズ」だ。お色直しをしたミックは、赤いシャツにベレー帽という出で立ちで、『女たち』の頃のツアーを彷彿とさせるファッションに身を包んでいる。そして、アンコールの2曲目は、これをやらずに帰れない“(I Can’t Get No) Satisfaction”。会場は既にお祭り騒ぎ。ミックは中央の花道の先頭までやってきて、会場全体の熱気の最後の一滴までを搾り取るように、スタジアム全体を煽ってみせる。このリフがずっと鳴り続ければいいのに、という思いのなか、「Thank You! Tokyo」という言葉と共にショウが締めくくられる。カーテンコールは2回。サポート・メンバーを含む全員での1回目と、ミック・テイラーを含む「5人」の2回目だ。客席に向かって深く頭を下げて、5人の姿がドラム・セットの後ろに消えて、ストーンズの来日公演初日は幕を閉じた。

キースのこともあったように、ディテイルを見ていけば決して100点満点のライヴではなかった。ただ、ストーンズが商業的にも評価的にも、いまだに世界最高のライヴ・バンドとしてシーンに君臨しているのは、彼らほどロックンロールの性善説を体現できるバンドはいないからだ。ロックンロールがロックンロールであるだけで、理由など必要ない肯定性を鳴らせるということ、それをストーンズほどできるバンドは今もいない。そして、その奇跡とも言える肯定性を日本で体験できる数少ない機会が今回の来日公演である。3月4日(火)と3月6日(木)のあと2公演、幸いにも行かれる方はぜひ心ゆくまで満喫してもらえたら、と思う。(古川琢也)

セットリスト
Get Off Of My Cloud
It’s Only Rock ‘N’ Roll (But I Like It)
Tumbling Dice
Wild Horses
Emotional Rescue
Doom And Gloom
Bitch (Fan vote)
Honky Tonk Women
Band Introductions
Slipping Away (with Keith on lead vocals and Mick Taylor joining on guitar)
Before They Make Me Run (with Keith on lead vocals)
Midnight Rambler (with Mick Taylor)
Miss You
Paint It Black
Gimme Shelter
Start Me Up
Brown Sugar
Jumpin’ Jack Flash
Sympathy For The Devil

ENCORE
You Can’t Always Get What You Want
(I Can’t Get No) Satisfaction (with Mick Taylor)
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