曽我部恵一 @ 渋谷CLUB QUATTRO

名古屋、大阪、そして東京の全国3会場で行われた久しぶりのソロツアー『曽我部恵一 ライブツアー 2014「ハッピー」』。尾崎友直のギターとオータコージのドラムをバックに、ハンドマイクで歌う曽我部が静と動とに振り切れながら、渋谷CLUB QUATTRO中のオーディエンスの心をギュッと締め付けるパフォーマンスを披露した。

ふらっとステージに登場した曽我部は、そのままフロアをぼんやりと見つめながら、ニュー・アルバム『まぶしい』収録の“ママの住む町”をアカペラで歌い始める。特有の優しく、あたたかく、そしてどうしようなく悲しい歌声が、興奮と緊張感の入り交じる渋谷フロアを静かに吹き抜けていく。さらに静かな夜を“浜辺”で描くと、『まぶしい』に入っている“碧落 -へきらく-”へ。歌い終わると軽く会釈して「ありがとう」とひと言。今夜の曽我部はどことなく透明な印象だ。歌にもサウンドにも凹凸が少なく、大きな余白の中にさまざまな感情や物語が浮かび上がっては消えていく。曽我部自身の存在感よりも、歌そのものが際立って響いている。

胸の奥に言葉がゆっくりと落ちていくような、静かな歌声にフロアが飲み込まれた“おとなになんかならないで”、限りなく透明なノスタルジアが漂う“ぼくたちの夏休み”に続いて、サニーデイ・サービスの“魔法”。ほのかな色が静かになびく、聴く者の鳥肌を立たせていく魔法である。そして陶酔しきったフロアの空気感を一変させたのが“シモーヌ”だ。まさに突然に燃える炎のように、尾崎のギターが前触れなく激しいうねりを上げ、オータのドラムが荒々しく疾走する。ガレージバンド化するサウンドに、曽我部の歌も一気に熱を帯びる。いきなりの超展開に、オーディエンスは一瞬度肝を抜かれつつ、拍手喝采で応える。

「去年、『超越的漫画』というアルバムを作りました。それから早3ヶ月、新しいアルバムが(笑)。先行でどうしてもみなさんにお届けしたくて、このツアーで発売です」とツアー会場で先行発売された23曲入りの新作『まぶしい』を紹介しつつ、『超越的漫画』収録の“6月の歌”へ。“サマーフェスティバル”をはさみ、“キラキラ!”で再び静から動に振りきれる。2ピースのスリリングなサウンドが、あの曽我部恵一BANDよりも、もっと向こう見ずでがむしゃらな光を放つ、パンクバージョンの“キラキラ!”だ。歌も、アレンジも、原曲とはまったく表情が異なるが、それでいて不思議な説得力と、えも言われぬ迫力がある。

新作『まぶしい』から“心の穴”、そして続く“ギター”と、曽我部恵一の揺るぎない核を鳴らしたかと思えば、“バカばっかり”で新境地とも言えるブチ切れシャウトを披露し、オーディエンスは驚きと歓喜で騒然となる。あの“キング・オブ・メロウ・ロック”と呼ばれた男が、「バカばっかりィィィ!」とステージに崩れ落ちながら全身全霊の咆哮をみせるステージは、あまりにも衝撃的だった。極私的なシーンを歌った『超越的漫画』、そしてジャンルレスな楽曲たちを詰め込んだ金字塔的な『まぶしい』と、今の曽我部恵一はどこまでもパーソナルでありながらラディカルな地平にいる。曲が終わっても驚愕のパフォーマンスに息を飲むオーディエンスを、当の本人は水を飲みながら涼しい顔で見つめていたりする。なんと言うか、“歌”そのものがジーンズを履いてステージに立っているような感じである。

“バカばっかり”で世界を吐き捨てたかと思えば、“雪”では再び繊細な情景を描いてみせる。そしてツアータイトルにもなった、『まぶしい』収録の新曲“ハッピー”へ。今夜の曽我部は、歌いながら楽しそうに笑ったり、観客を煽ったりはまったくしない。静かな曲と激しい曲が入り混じるセットリストを、ただただ全身全霊で歌っている。そうした、ある種の自由奔放さ、傍若無人さがステージを支配していて、それに思い切り振り回される感じがこの上なく痛快だ。

“恋人たちのロック”で再びフロアに熱い興奮に包むと、サニーデイ・サービスの“パレード”で儚さを纏った優しさを粛然と響かせる。オーディエンスが一際大きく沸いたのは、続く“STARS”だ。ガレージパンクなサウンドに負けじと、ラストはステージ上で四つん這いになって熱唱した曽我部。「今日は本当にありがとうございます。ありがとう! なんかね、今日は……」と感無量の表情でフロアを見回し、「喋ると思ってる? 見てる、みんなを」と観客を笑わせる。最後になってようやく、曽我部らしい大きな笑顔を見せた。

本編ラストに演奏したのは、“春の風”。小さな光の中で「僕らの今日が今までで一番美しいって思えるかい?」と問いかけられる言葉が、この夜のステージを象徴していた気がする。サニーデイ、ソカバン、ランデブーバンドにソロと、自身のこれまでの歩みを総括するようなセットリストだが、きっとキャリアを総括するというよりも、歌いたい曲をただただ歌ったライブだったのだろう。数え切れないほどのエバーグリーンな名曲を残してきた男だけど、これまでのどんな名曲よりも、ステージで曽我部が歌う今が眩しかった。

「今日はみんなホントにありがとう。明日はお休みですか? みんなの次の朝に捧げたいと思います」とアンコールで語ると、大きなノートを片手にポエトリー・リーディングによる“今日のダンス”を披露し、心に優しい余韻を届けてくれた。盟友オータコージと、「同い年で、ずっと古い親友」だという尾崎友直と共に、静かだったり、激しかったりしながら、その短くない歩みをファンと振り返りつつ、キャリアを重ねるほどに純粋さを増していくような瑞々しい歌を心に響かせた曽我部恵一。このシンガーのかけがえのなさを思い切りフロアで噛み締めた極上の夜だった。(大山貴弘)
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