ジェフ・ベック@NHKホール

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1960年代デビュー/現役バリバリのロック・レジェンドが次々に来日し、目眩を起こしそうになる2014年の上半期。ジェフ・ベックは、東京・大阪・札幌・盛岡・横浜・名古屋と全10本の来日ツアーを皮切りに、オーストラリアや韓国、そして欧州諸国と、7月いっぱいまでのワールド・ツアーに乗り出し、その期間中に70歳の誕生日を迎えることになる。さらに、8月からはZZトップとの全米ジョイント・ツアーも控えているというのだから、その驚異的なヴァイタリティには恐れ入るばかりだ。東京の追加公演にして、日程上ツアー初日となったステージの模様をレポートしたい。以下本文はネタバレの可能性を含むので、今後の公演に参加予定の方は、どうぞ閲覧にご注意を。

今回のバンド・メンバーであるニコラス・メイヤー(G.)、ロンダ・スミス(Ba.)、ジョナサン・ジョセフ(Dr.)らが、思わず仰け反るほどヘヴィな爆音でイントロの音出しを決めると、そこに白のギターを弾きながら、ジャケットにサングラス、右手首にはキラキラと光を乱反射するバングル状のアクセサリーを嵌めたジェフが、いかにも「弾きまくってやるぞ」という意気込みを漂わせながら加わる。衰えも、勿体付けた雰囲気もまったく感じさせないオープニングだ。というか、マジで音がでかい。このバンド・メンバーは、来る新作の制作メンバーでもあるということで、のっけからその新作曲である“Loaded”や“Nine”を叩きつけてきた。2010年のジャパン・ツアーにも登場した女性ベーシスト=ロンダがパンチの効いたプレイを刻み、何よりも語るように、あるときは歌うように、そしてあるときは叫ぶように響く、ジェフの雄弁なこと極まりないギターが早くも全開である。

ジェフ・ベック@NHKホール
ジミ・ヘンドリックスの“Little Wing”をジェフ流にカヴァーする一幕で、いよいよオーディエンスも激しく沸き立つ。ニコラスはここでフォーキーな12弦ギターのプレイを持ち込み、楽曲に豊かな表情をもたらしていた。かと思えば、シンセ・サウンドがたなびく中でのナンバーは、『エモーション・アンド・コモーション』でヤン・ハマーに捧げられた“Hammerhead”だ。続いてアンビエントなタッチの“Angel (Footsteps)”と、ジェフによるロック・サウンドの冒険を振り返る時間が育まれていった。

「ハイ……ただいま、トーキョー。元気だったかい?」とジェフが挨拶を投げ掛けると、ニコラスが“さくらさくら”の旋律を奏で、そこから重厚にしてエキゾチックな新作曲“Yemin”が披露される。ニコラスは特に、こういったフォーク〜トラッド風のギター・プレイで大活躍を見せてくれるプレイヤーだ。また、演奏中、ステージ中央より上手側に密集した3人にジェフが寄って行くと、ステージ下手側の空間がぽっかりと空いてしまうのが気になったが、昨年のステージではここにヴァイオリン奏者のリジー・ボールが加わっていたようだ。そのため、このアンサンブルにヴァイオリンが加わったらどうなるのだろう、と贅沢な想像を膨らませてしまう結果にもなったが、素晴らしいパフォーマンスであることに変わりはないだろう。

本編前半は、新作曲も含めて近年のレパートリーが数多く披露されたけれども、この後にはジェフがトレモロ・アームを駆使しつつ名曲“Where Were You”を繰り出して歓声を浴びる。スタンダード・ジャズのカヴァー“Goodbye Pork Pie Hat”から“Brush With The Blues”にかけては、ニコラスとのギターのコンビネーションでダイナミックに展開し、ロンダの強烈な暴れベースで転がり出す“You Never Know”でのジェフは、まるでバンド・メンバーやオーディエンスを挑発するように激しいプレイを轟かせてゆくのだった。でも、個人的には、ギターに優しく歌わせる“Danny Boy”のようなジェフのプレイも、めちゃめちゃ好きだったりする。

そして、ソリッドなこと極まりないバンド・グルーヴの中でギター・サウンドが吹き荒れる“Blue Wind”から、オーディエンスの昂った間の手を巻く“Led Boots”にかけて『ワイアード』曲を連発。思いっきり、今のバンドの躍動感が溢れるロックになっているのが痛快だ。ギターを通してホーリーなムードを伝える“Corpus Christi Carol”を挟み、そこから爆発的にヘヴィな“Big Block”でもうひと盛り上がりすると、本編ラストはジョージ・マーティンのアルバム『イン・マイ・ライフ』に提供したビートルズ・カヴァーの大名演“A Day In The Life”だ。声のように届けられるクリアな音色も、激しく唸りを上げるギター・フレーズも、ここに詰め込まれている。珠玉のクライマックスであった。
ジェフ・ベック@NHKホール
アンコールに応えて再登場したジェフは、ジャケットを脱ぎ捨ててノースリーブ姿になっていた。見事に引き締まった上腕を晒しつつ、楽しげにプレイされるのは“Rollin’ And Tumblin’”。ここでバンド・メンバーは、オーディエンスのコーラスを誘って来る。この日唯一曲の歌声は、オーディエンスのコーラスなのである。そして、最後の最後にじっくりと披露されるのは“Cause We’ve Ended As Lovers”だ。ただ聴き入り、浸るばかりとなってしまう物語が、言葉もなく豊かに、紡がれてゆく。そしてメンバー4人で手を繋ぎ、挨拶して、今回のステージは幕を下ろした。新作曲も、キャリアの中の名作名演も詰め込まれ、「ジェフ・ベックのギター」の底知れぬ奥行きを味わうショウであった。とはいえ、まだまだ長いツアーの初日が終わったばかり。どんな驚きがもたされるかという部分も含めて、今後のステージを多くの人に楽しんで頂きたい。(小池宏和)

セットリスト
M1. Loaded
M2. Nine
M3. Little Wing
M4. You Know, You Know
M5. Hammerhead
M6. Angel (Footsteps)
M7. Stratus
M8. Yemin
M9. Where Were You
M10. The Pump
M11. Goodbye Pork Pie Hat / Brush With The Blues
M12. You Never Know
M13. Danny Boy
M14. Blue Wind
M15. Led Boots
M16. Corpus Christi Carol
M17. Big Block
M18. A Day In The Life
En1. Rollin’ And Tumblin’
En2. Cause We’ve Ended As Lovers
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