エミネムがニュージーランド国民党に対し無断で楽曲を使われていたと訴えていた訴訟について、ニュージーランドの高等裁判所は全面的にエミネムの主張を認め、60万ニュージーランド・ドル(約4670万円)の損害賠償金の支払いを命じている。
問題となったのはエミネムの楽曲“Lose Yourself”だ。この曲は2002年のエミネムの映画『8 Mile』の主題歌ともなり世界的に大ヒットを記録したが、エミネム側はニュージーランド国民党が当時の首相、ジョン・キーの首相再選のための2014年の選挙キャンペーンでこの音源を許可なくプロモーションに使ったとして訴えを起こしていた。
これに対して国民党側は、この音源をBeatbox Music(業務用音源素材を契約者に提供する豪音楽ライブラリー業者)から入手したとし、同じ音源を使った他の政党はこれまでに訴えを起こされていないと抗弁していた。
Eminem - Lose Yourself
国民党側がキャンペーン映像などに使用した音源は“Eminem Esque”(エミネム風)という素材だ。裁判の審理ではふたつの曲の聴き比べなども行われ、先週言い渡された判決で高裁判事は“Lose Yourself”が「極めてオリジナリティの高い作品である」とした上で、“Eminem Esque”は“Lose Yourself”と「本質的に似て」おり、したがって“Lose Yourself”の著作権を侵害していると断定。
最終的に、ヘレン・カル判事は「“Eminem Esque”は“Lose Yourself”のコピーだといえます」と言い渡している。
エミネム側の代理人のギャリー・ウィリアムズは“Lose Yourself”がエミネムのキャリアを代弁するような象徴的な楽曲であり滅多に使用を許可されることがないため、使用権の対価は「とてつもなく高価なものになる」と法廷で説明。「“Lose Yourself”はエミネムの作品カタログの中でも、王冠に施された宝石のような輝きを持つ楽曲だ」とも訴えていた。
また、エミネムの楽曲の版権管理を行っているエイト・マイル・スタイルの法廷代理人を務めたアダム・シンプソンは「The Guardian」に対し、今回の判決は世界的にも重要な判例となると以下のように語っている。
これはモノマネのような音源を制作しているプロデューサーと、そうしたプロデューサーを起用している世界各地の業者への警告でもあるのです。今回の判決はアーティストや作曲家の権利を明確にし、それを確認するものです。これはニュージーランドにおいて大きな判例となりますし、オーストラリア、イギリスなど世界各地でもそうなるでしょう。
また、エイト・マイル・スタイルの代理人のジョエル・マーティンは「国民党がこれほどみえみえな“Lose Yourself”のパクリ音源を使っておいて、その責任逃れのためにここまで労力をかけたとはある意味すごいことです」とコメントし、次のように続けている。
彼らには、わたしたちが彼らの選挙運動のコマーシャルへの使用を許可するわけがないと端から分かっていたのです。しかしながら、彼らは敢えて使用に踏み切り、著作権侵害の責任を第三者に押し付けようとしたのです。
なお、「Variety」によると、エミネムは今回の勝訴で得た賠償金の60万ニュージーランド・ドル全額をハリケーン被害の支援のため寄付する予定だという。