King Gnuの美しき名曲“白日”のMVはなぜモノクロであるべきなのか

King Gnuの美しき名曲“白日”のMVはなぜモノクロであるべきなのか
2月28日に公開されたKing Gnu“白日”のMVが話題になっている。“白日”は、彼らが日本テレビ系土曜ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』に初のドラマ主題歌として書き下ろした新曲。ドラマのクライマックスにあたる場面で聴こえてくる、井口理(Vo・Key)のファルセットボイスに耳を奪われたことのある人は、元々のバンドファン以外にも多くいることだろう。同曲はMV公開の1週間前、2月22日に配信リリースされ、オリコンのデジタルシングルランキングでデイリー1位を獲得。その他ストリーミングでも高再生数を記録し、各種チャートを賑わせている。


作詞作曲を手掛けた常田大希(G・Vo)はMV公開に際して「去年は地元の友人が2人も立て続けに亡くなったりして生と死を強く意識した年になりました。最近の自分の作詞作曲にはその出来事の影響が強くあります。ずっと避けていた墓参りに行こうと思えたのはこの曲のお陰かもしれません」と自身のSNSでコメントしている。そんな楽曲に対し、ディレクターのOSRINは、King GnuのMV史上最もシンプルな映像をつけた。彼曰く「今までのMVで一番被写体の力に頼る撮影をしました」とのことで、本作はKing Gnuの4人+サポートメンバーの演奏シーンのみで構成されている。まず、冒頭の24秒からして鮮烈。その間、カメラは井口の横顔を捉えるのみで、楽曲の持つ孤独さ、物悲しさがダイレクトに表現されているのだ。

《戻れないよ、昔のようには》という非常に象徴的なフレーズを機にビートが刻まれ、カメラは他のメンバーの姿も捉え始める。“白日”はバラードだがテンポがゆったりしている印象はなく、それは新井和輝(B)、勢喜遊(Dr・Sampler)のリズムワークによるところが大きい。また、ノりながら演奏するメンバーの動きを見ることにより、観る者もそのグルーヴの内側に自然と巻き込まれることになる。

アングルは拍に合わせてきっかりと切り替わっており、前進するテンポ感を邪魔しないようになっている。しかし4回だけ、フェードアウト/フェードインで場面が切り替わっている箇所がある(0:25~、1:39~、2:48~、4:19~)。そしてそれはいずれも井口がファルセットで高音を伸ばしているタイミングである。最初に私たちが孤独だと感じた井口の歌は、止めることのできない時の流れに抗う存在として描かれているよう。彼の美しい歌は、残された(遺された)側の、祈りや嘆きなのかもしれない。

ラストに表示されるスタッフクレジットとPERIMETRONのロゴを除き、本作は全編モノクロだ。0:34~35、0:59~1:00が分かりやすいが、メンバーのいる空間内ではぼんやりとした光が漂っている。この光が、白/グレー/黒の3段階では言い表せないような、奥行きのある色彩を表現するのに一役買っているようだ。

この楽曲では白色のモチーフが主に2つ用いられている。ひとつ目は「雪」。これは、様々な感情を渦巻かせる主人公の胸中を真っ白に塗り潰してくれるもの、つまり、苦しい思いを忘れさせてくれるもの、覆い隠してくれるものとして描かれている。そしてふたつ目は、(歌詞には直接登場しないが)タイトルに掲げられている「白日」。白日とは、照り輝く太陽のこと。隠されていたものを公知の状態にすることを「白日の下に晒す」と言うように、こちらは、忘れることができたならば楽になれるであろう事柄を、全て明らかにさせてしまうものだ。

MV内の白色を基調とした空間を見て、あなたは、メンバーが、雪原に囲まれながら演奏しているようだと思っただろうか。それとも、大きな太陽の下で演奏しているようだと思っただろうか。きっとその両方が正しい。この楽曲には《真っ新に生まれ変わって/人生一から始めようが/へばりついて離れない/地続きの今を歩いているんだ》というフレーズが登場する。喪失に伴う悲しみ・後悔はそう簡単に拭いとれるものではないのだと、それでも次の季節へ歩んでいかなければならないのだということが歌われている。

先に引用したように、常田は、この曲をきっかけに友人のお墓参りに行ってみようかと思えるようになったという。もしかすると、それまで行くことができなかったのは、相手が亡くなった事実を認めるのがつらかったからなのかもしれない。どうしようもなく苦しいときに、一旦時計の針を凍らせ、立ち止まってしまうことも否定しない。そのうえで、その雪がじんわり溶ける日がやがてやってくるのだという希望をやわらかく綴る。そういう曲の書き方ができたのは、常田だからこそだ。

自身の矛盾を内側に抱えながら、何とか生きていこうとする姿にこそ、人間の美しさは詰まっている。“白日”という楽曲およびそのMVは、それを真っ向から描ききった作品であり、だからこそ私たちの心を掴んで離さないのだろう。(蜂須賀ちなみ)
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