天才ソングライター・あいみょんの名曲の原点とは?
私のなかでスピッツってすごいもう神さまみたいな存在で。私の醒めない夢なんですね。私がスピッツを好きになり出したのが、記憶にあるうちでは小学校4年生なんですよ。そこからもうずっと名曲を生み出してきて“醒めない”っていう曲を聴いた時の衝撃ったらなくて。マジか!みたいな。そのなかで《まだまだ醒めないアタマん中で ロック大陸の物語が》って、《最初ガーンとなったあのメモリーに 今も温められてる》って(草野)マサムネさんが歌ってて。それは私からしたらあなたたちですって思って、衝撃を受けて悔しくなって。
(『ROCKIN’ON JAPAN』19年2月号)
父親の部屋にすごくたくさんCDがあって。学生の頃ってお金ないから、なかなかCDも買えないんですよね。私は本読むのも好きやったから、古本屋にもよく通ってたんですけど、まだ読んでない本がいっぱいあるのにバンバン買ってて。そしたらお父さんに「とりあえず家にあるもんから先に読め!」って言われて。そういう教えもあって、父親の部屋のCDを聴きまくってました。マイケル・ジャクソンはドはまりしましたね。あとはザ・ビートルズ。邦楽やとソウル・フラワー・ユニオンとか。うち、家系に沖縄系のルーツもあるので、沖縄民謡とか家族みんな詳しいんですよ。
(『ROCKIN’ON JAPAN』18年5月号)
自分でわかってないだけで、太郎に影響されたことが曲に出てきてることはあると思います。「芸術は爆発だ」っていう言葉は私の中でもデカいですし、あと「芸術は美しくあってはならない」って太郎が言ってたのは「確かになあ」って思ったり。いかにはみ出していくか、みたいなことを考えるきっかけをくれたのは太郎なので、自然と出てるところは絶対にあると思います。ほんとに大好きだから、意識せずとも太郎が近くにいるようにしたいんですよ。部屋の中も、いろんなところにいるんです。絵も飾ってますし、フィギュアとか、太陽の塔の顔のクッションとか。トイレの壁には、岡本太郎美術館の館内図貼ってます(笑)
(『CUT』19年3月号)
子どもの頃から好きだったスピッツに、父親経由で知ったマイケル・ジャクソン、ビートルズ、ソウル・フラワー・ユニオン、そして強いシンパシーを感じる岡本太郎。たとえばメロディのポップさや、広大なロマンとささいな日常がぎゅっと密着しているような歌詞の世界は草野マサムネから、大胆な激情と繊細なかわいらしさが同居する感じは岡本太郎から……そんなふうに因数分解していけばそうなのかなと思わなくもないのだが、かと言ってそれらを足していくとあいみょんの音楽になるというわけでもない。そんななかで、彼女の表現が生まれるうえで大きな影響を与えているのが、音楽関係の仕事をしていた父親の存在なのだろうと思う。上の発言に登場しているもの以外にも、たとえば吉田拓郎や尾崎豊、河島英五……普通に考えればあいみょんの年代で通ることはない音楽が、彼女のなかには息づいている(インディーズ時代の曲を聴き返すととくにそう思う)。それら「父親フィルター」を通して受け取ったものと、自分自身で出会い衝撃を受けた音楽やアートが混ざり合って、あいみょんの音楽は生まれている。
あいみょんの名曲は「普通の生活」から生まれる
朝に曲作りするのは効率がいいんです。だから私はレコーディングも朝でいいんですって言ってるんです。で、夕方6時ぐらいにみんなで揃って帰りましょ、家庭がある方は家庭でご飯食べましょ、っていう。私ならではの働き方改革をやってるんですけど、なかなかそうもいかない時もあるので。あと、曲作りを義務化してないだけです、たぶん。義務って思ってしまうと、宿題みたいに、やらなきゃいけないみたいな感じになるんで。だからやらなかったんですよね、学校の宿題も。言い訳でしかないんですけど。「絶対やってきなさいよ!」って言われると、「クソー!」みたいに思っちゃうので、そう思ってないぐらいのほうが、わりと進むって感じ。
(『ROCKIN’ON JAPAN』19年6月号)
今日メモったのは「ガレット」と「ポイントカード」。今朝は大阪にいたんですけど、ホテルで朝の準備してるときにクッキングの番組をやってて、ガレットを作ってたんですよ。それでガレットってどこかの言葉で「丸くて平たいもの」みたいな意味ってのを知って、なんか曲できそうと思ってメモりました。「丸くて平たいもの」っていうのを人間関係的なものに変換できそうやなって。で、「ポイントカード」は、私のマネージャーさんがドトールでTカード出したときにメモリました。理由としては、恋愛の曲につながる気がしたってだけなんですけど……。好きな相手に会えることがポイント制やったら、みたいな。常にそういうことを考えちゃいます、最近は特に。
(『CUT』19年3月号)
「Tポイントが恋愛の歌に?」と我々のような凡人は驚いてしまうが、たしかにあいみょんの歌にはそんなふうに日常のふとした瞬間が生きている。心の動きや揺らぎが、それ自体で存在しているわけではなく、いつも生活と結びついているのだということを、詩人としての彼女はよく知っているのだ。そしてその生活と密着した感じが、彼女の音楽の普遍性を保証している。そんなアーティストなので、曲が生まれるときも、そこには常に生活がある。朝テレビを見てヒントを得て、昼間スタジオでレコーディングして、夕方には家に帰ってごはんを食べましょう、というのは働き方やワークライフバランスがどうとかいう話ではなくて「そうじゃないと生活が遠くなっちゃうでしょ」ということなのだ。
想像のななめ上を行くあいみょんのソングライティング
何が一番勉強になるかっていったら官能小説なんですよ。男性が書く官能小説。言い回しが独特で、直接的じゃないのにめちゃめちゃいやらしく書いてある。あとはやっぱり桑田(佳祐)さんですね。桑田さんは直接的な表現もありますけど、すごいです。あとは映画とかにインスパイアされたり。特に日本の映画は隠すとこ隠すので、そういうところをどうカメラワークで表現するのかって(笑)。そういう工夫も官能的やなって思います。
(『ROCKIN’ON JAPAN』18年5月号)
歌詞を書く時は、基本的に何も考えていないことのほうが多いので、恋愛ソングに関しては、リリースして数年後に自分が共感するって感じです。何年か経って聴くと、「この楽曲、今の自分にすごく響くな」っていうことがあって、結局これって自分が体験したことだったのかなって。気づかないうちにやっぱり実体験って交えちゃうんだと思うんですよね。(男性目線のラブソングも多いので)もし次の人生があるなら男になってバンドをやって、どこまでモテることができるか試してみたい(笑)。女の子はモテたくて音楽やることって、まずないですよね。だからモテたくて音楽始めるっていう感覚を味わいたいです。
(『ROCKIN’ON JAPAN』18年5月号)
最近の気付き? 段ボールってなんかせつないなあとか(笑)。段ボールって、行き先が書いてあるじゃないですか。行き先がどこかっていうのを妄想したらすごくせつない気持ちになる。たとえば引っ越しの段ボールとかやったら、リビングとかなんですけど、それがどこか別の場所やったりしたらせつないなあとか。だから、そういう妄想だけで今生きてますね。
(『ROCKIN’ON JAPAN』19年10月号)
「官能的」、「男と女」、「せつなさ」というのは、あいみょんの音楽を語るうえで絶対に外すことのできないキーワードだ。というか、エロスもセックスもプラトニックな恋愛感情も、あとは失敗した目玉焼き(“愛を伝えたいだとか”)とか古いロックのレコード(“君はロックを聴かない”)とかも、突き詰めれば全部部屋に転がっている段ボールと同じせつなさのシンボルなのであり、いわば彼女は毎日せつなさを探し求め、そればかりを歌っているともいえる。「段ボールってせつないよね」というフェティッシュなせつなさが、彼女の音楽を聴いている僕たちの心にぐっと迫ってくるのだ。もっといえば、官能小説の「直接的じゃないのにめちゃめちゃいやらしく書いてある」ところや日本映画の「隠すところ隠す」ところに官能性を感じる、とあいみょんは語っているが、その「足りない」、「見えない」、「わからない」こそがつまり彼女の感じる「せつない」の源泉なのだろう。来世は男に生まれてバンドを組みたいというのも要するに究極のないものねだりなわけで、それもまたせつない。(小川智宏)