キュウソネコカミの一生分のメッセージソング“冷めない夢”について

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  • キュウソネコカミの一生分のメッセージソング“冷めない夢”について - 『ハリネズミズム』

    『ハリネズミズム』

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1月29日にリリースされた、キュウソネコカミの新作ミニアルバム『ハリネズミズム』。奇しくも「ねずみ年」の今年、結成10周年を迎えた彼らだが、その記念作と銘打たれた同作には、キュウソネコカミというバンドがどこから始まり、どのようにこの10年を歩んできて、そしてこれからどんなバンドになることを目指していくのか、つまりキュウソの過去と現在と未来が凝縮して詰め込まれている。

彼らの原点でもある、初期の楽曲“役立たず”と“適当には生きていけない”の再録。今も在住する地元・西宮をレペゼンする“Welcome to 西宮”。彼らの必殺技とも言えるタイアップソング“華麗なる飯”。ヤマサキセイヤ(Vo・G)流の視点で世の中を斬る“あいつホンマ”と”戯我浪費”。全方位的にキュウソネコカミを体現するこのトラックリストは、まるで改めての自己紹介のようでもある。

その自己紹介のラストに収められているのが、キュウソ史上もっともストレートで熱いメッセージソング“冷めない夢”である。

《俺たちは冷めない夢を追いかけ続けるだけ/俺たちは冷めない夢に挑み続けてるだけ》

メンバー全員のユニゾンでそう歌われるこの曲は、1曲目“Welcome to 西宮”から6曲目“適当には生きていけない”まで、手を変え品を変え繰り広げられてきた「キュウソネコカミとはこんなバンドです」という紹介の結論、あるいは種明かしのように響いてくる。そこから伝わってくるのは、キュウソは実はどこまでも真っ当に夢を追いかけて努力してきたロックバンドなのだという当たり前の事実であり、そして「まだ終わっていない」――いや、北野武の『キッズ・リターン』のラストシーンでの金子賢のセリフよろしく「まだ始まってもいない」という強い思いだ。

《どうなるかわからない 叶うかもわからない 大きな夢を 冷めない夢を/どうなるかわからない 叶うかもわからない 理想の人生を 冷めない夢を/追え》

10周年ありがとう、やり続けてきてこんな夢が叶いました、夢は願えば必ず叶うのです……というようなことは、この曲には毛ほども歌われていない。彼らが抱く夢がどんなものであるのか、その輪郭すらもよくわからない。その代わり、この“冷めない夢”で歌われるのは、とにかく叶うかどうかもわからない夢を追いかけ続けることで生きる、キュウソネコカミの現在進行形の姿だ。どんな夢なのか、とか、それがどこにあるのか、が問題なのではなくて、がむしゃらにそれを追いかけて走り続けることこそが俺たちの生き様だ、とこの曲は言っているのである。さらに素晴らしいのは、《叶うかもわからない》といいながら、この曲のメロディや音に悲壮感が微塵もないところだ。

彼らがこのように楽曲でバンドの姿勢を(真面目に)示すのは初めてではない。《ロックバンドでありたいだけ》と連呼する“The band”や《どこまで俺ら行ける いつまで俺ら生ける》と歌う“5RATS”には、自分たち自身の現在地に対するフラストレーションが間違いなくあった。しかし“冷めない夢”で歌われるキュウソネコカミの姿は、もっとニュートラルで肯定的だと思う。

先日、『ROCKIN’ON JAPAN』2020年3月号の取材でメンバー全員に話を聞くことができたのだが、そこで5人は口々に今バンドとして感じている手応えについて語ってくれた。それは特にライブにおけるもので、『ギリ平成』というアルバムを経て、ライブが劇的に良くなったことを彼らは喜んでいた。昨年はリリースを抑えつつ、例年以上にライブに明け暮れていたキュウソだが、そのなかで彼らは確かな自信を手にしていたのだ。

言うまでもなく、キュウソネコカミは生粋のライブバンドである。ライブでどう盛り上げるか、ライブでどう自分たちの存在を印象付けるか。ワンマンだろうとフェスだろうと関係ない。目の前のオーディエンスに振り向いてもらうべく、ステージの上からあらゆる手を使って戦いを挑んできた。その意味では、ライブでイケてるかどうかが、そのままバンドの調子になる。ライブでやれているという手応えが、自分たちが10年かけてやってきたものを、その紆余曲折も含めて肯定できる気持ちを生んだとしても不思議ではないだろう。俺たちはやれてる、その感触が《叶うかもわからない 大きな夢を》追いかけ続けることを肯定するこの歌を生んだのだと思う。

《友達が夢を叶えてく 誰かの野望が果たされる/やりたい事やり続けて生きたいだけだ/自尊心なんか下がってく 元気なふりして迷ってる/他人事栄光スワイプでそっと流した》

という暗い自分たちの姿から歌い始め、

《悔しみ悲しみ喰らって 暗闇に飲み込まれないで/どんなになっても魂だけ腐らすな》

と自らを鼓舞し、その先で、

《言葉にした途端に 怖くなってくるけれど/未来の自分たちに 期待を込めて》

と前を向く。“冷めない夢”の物語は「キュウソネコカミ」というバンドの歩みそのものだ。前述のインタビューのなかで、セイヤはこんなことを言っていた。「やっぱり今も1位は取れてないというか。『もう安心だ』って地位にはいないんすよね。常に頑張らないと抜かれていく、消えるんじゃないか、ステージ奪われるんじゃないか、みたいなのがずっとある」。それがキュウソネコカミが挑み続ける理由であり、夢がいつまでも「冷めない」理由でもある。そして夢が冷めないかぎり、キュウソは走り続ける。この“冷めない夢”は、キュウソネコカミの戦いがまだまだ続くという改めての宣戦布告でもあるのだ。(小川智宏)

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