“シュガー・ユース”が一番お気に入りの曲だと思う。グリーン・デイのサウンドを未来に持っていったようなトラックなんだ。俺達には、ラモーンズみたいなファストなビートをプレイしてきた歴史があって、それを新時代に持っていけると思うんだ(ビリー・ジョー)
「(『ファザー・オブ・オール…』は)絶望にもがいてる人間にとって人生はどういうものか、その情景というか絵を描いている。それって共通感覚なんだよ、アメリカの人間は今の状況にひどく絶望してるんだ」
最新作についてこう語ったビリー・ジョー・アームストロングは、さらに言葉を重ねる。
「でもグリーン・デイの信条は、何があろうと遊び心を失わないことだ。いつも悪戯を仕掛ける。みんなをからかいたいんだよ……犯罪寸前までね!」
そう、自分たちの日常にまとわりつく不安や強迫観念と向き合いながら、悪戦苦闘の果てに、それを乗り超える「犯罪すれすれの悪戯」という祝祭をぶち上げるのがグリーン・デイというバンドの真髄だ。
1990年のアルバム・デビュー以来、今年でもう30年が経つわけだが、今なお時代のど真ん中を疾走し続ける持久力は信じがたい。それがなぜ可能かといえば、ああ、そこまで突き抜けちゃうのかと周囲を唖然とさせる、とてつもない悪戯を企む強靭なモチベーションをずっと持ち続けているからだろう。
それはもう、ビリー・ジョーの業(ごう)のようなものではないか。
『ドゥーキー』(1994年)という桁外れのメガヒットによってポップ・スターの役割まで背負う運命が回ってきた時も、続く3作品で持ち前の遊び心を存分に発揮。「思春期の青臭い純粋さ」を捨て去るどころか、より大きな視点で掬い上げるソングライティングを鍛えて戦闘力を高め、したたかに重圧を押し返したのだ。
そこには、彼ら流儀の正しすぎるパンクの本質があり、そこから生まれたグルーヴは、やはりロック史上屈指のものとしか言いようがない。
そして『アメリカン・イディオット』(2004年)という金字塔に到達する。面白いのは、最初からあのロック・オペラを目指したわけではなく、いい感じで仕上がった20曲ものマスター・テープが盗難に遭ってしまい、どうせ作り直すのなら、ありきたりの日常からはみ出してブッシュ政権に噛みついてしまえという面目躍如の悪戯に突っ走ったが故に、凄まじいインパクトを持つエンターテインメントが生み出されたことだ。
10年代はやや試行錯誤した感もあるし、積年のハードワークで疲弊したビリー・ジョーがリハビリを余儀なくされもしたが、そんな中で「20年代の犯罪すれすれの悪戯」を盛大に仕掛けるプランを練り上げていたに違いない。
結果、『ファザー・オブ・オール…』は、ストリーミング時代にパンクはどうあるべきかを痛快に宣戦布告する大傑作となった。そんな新境地にあるUSパンクの覇者を総力特集した全46ページ、心ゆくまで楽しんでいただきたい。( 茂木信介)
また、グリーン・デイの巻頭特集には、以下のコンテンツが掲載されている。
★時代を射抜いた歌詞+ライブ・フォト・ギャラリー
★ロッキング・オン単独敢行のUS最新ロング・インタビュー
★傑作アルバム誕生までの試行錯誤を掘り下げたロング・ドキュメント
★オリジナル・アルバム全13作品 完全ディスコグラフィー
★徹底検証! グリーン・デイ、30年の軌跡
グリーン・デイの巻頭特集は現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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