特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(17日目)

特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(17日目)

2020年を迎えて早くも初夏に。パンデミックの影響で巣ごもりの時間が長引くなか、音楽を心の拠りどころにする人も多いことでしょう。そこで、ロッキング・オンが選んだ「2010年代のベスト・アルバム 究極の100枚(rockin’on 2020年3月号掲載)」の中から、さらに厳選した20枚を毎日1作品ずつ紹介していきます。

10年間の「究極の100枚」に選ばれた作品はこちら!


2019年
『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』
ビリー・アイリッシュ


特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(17日目)

旧時代の終わりを告げた革命的ポップ

グラミー賞主要4部門を女性アーティストとして初めて、しかも史上最年少で完全制覇した18歳の少女は、いつも通りのダボダボに着崩したスタイルで、はにかみながらステージに立っていた。

ゴージャス&セクシーな勝負ドレスで着飾るスターたちの中にあって彼女の佇まいはあまりにも異質だったが、それはまるで、ビリー・アイリッシュが決定的に変えてしまった時代のビフォー&アフターを象徴する光景でもあった。

そう、本作は時代を決定的に変えたビリーのデビュー・アルバムだ。しかし、本作に取り入れられているサウンド自体に、完全にオリジナルなものは何ひとつない。打ち込みと生音、ロックもソウルもエレクトロもゴスもフォークも、それら全てが当たり前に継ぎ接ぎされてスムースに流れていく本作は、ポップとヒップホップがイコールで繋がれた2000年代以降のデジタル・ネイティブが標準搭載している、フュージョン感覚の王道の産物だと言えるかもしれない。

しかし、ビリー・アイリッシュというフィルターを通してろ過された途端に、それは唯一無二の鈍い光を放つものとなる。時代に垂直に作用する宿命の音楽になってしまう。

ティーンの抑圧された青春の象徴である歯科矯正器具を外し、自由を得ることから本作は始まるのだが、自由になってなお彼女の音楽は重く、暗い。しかし、コーラスもサビもない“バッド・ガイ”が破格のアンセムと化したように、Z世代はこの重さ、暗さにこそ熱狂したのだ。なぜならそれこそが彼女たちが日々抱えている憂鬱、平熱の絶望のようなものを射抜いたリアルな音色だからだ。

意識をステルスに引き摺り下ろしていくサブ・ベースや、途方に暮れて淀むシンセのレイヤーも、ビリー世代の逃れられない宿命を象徴している。重く沈み込んでいくボトムと、上空を危ういバランスで伝い歩くビリーの歌声の狭間、そのぽっかりと空いた中域に、本作を聴くひとりひとりが抱えた無数のブルーの欠片がピタリとフィットしていく様が目に浮かぶ。本作はそんな共有のプロセスを経て初めて完成する意識共同体なのかもしれない。

ジャケットのビリーは白目を剥いて笑っている。彼女の不気味な笑みは「私は君と違う」という拒絶ではない。この違和感を感じているのは「君だけではない」という合図だ。こうして彼女のアンチ・ポップは、ポップの定義を塗り替えたのだ。(粉川しの)
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