特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(20日目)

特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(20日目)

2020年を迎えて早くも初夏に。パンデミックの影響で巣ごもりの時間が長引くなか、音楽を心の拠りどころにする人も多いことでしょう。そこで、ロッキング・オンが選んだ「2010年代のベスト・アルバム 究極の100枚(rockin’on 2020年3月号掲載)」の中から、さらに厳選した20枚を毎日1作品ずつ紹介していきます。

10年間の「究極の100枚」に選ばれた作品はこちら!


2010年
『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』
カニエ・ウェスト


特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(20日目)

一大窮地が生んだカニエ・ルネッサンス

そもそもカニエ・ウェストは00年代を体現するヒップホップ・アーティストでもあったわけだが、10年にこの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』を発表し、その後も10年代を通して『イーザス』(13年)、『ザ・ライフ・オブ・パブロ』(16年)などの問題作を立て続けに発表したことはその才能のあまりの巨大さをよく物語っている。

04年の『ザ・カレッジ・ドロップアウト』に始まるカニエの作品の画期性とは、ごく普通に生活するアフリカ系アメリカ人としてのヒップホップが表現されたというところにある。ピッチを上げた古いR&Bのサンプリングという際立ったサウンドも斬新だったが、その音に乗せてストリート・ギャングでもなければ、大都会の洒落者でもなく、普通に生活する黒人として思うことや悩むことを作品化してみせたところが衝撃的なまでに新しかったのだ。

しかも、そんな普通な視点で描いた生き様の中にも、どうしても薬物売買の影などが忍び寄る不気味さがカニエ・ウェストならではの鋭いリアリティとなっていた。その後の作品は、そのサウンドと歌詞の両面でさらにスケール・アップさせていったが、『マイ・ビューティフル〜』制作時にカニエは人気と実力ともにまさにピークを迎えていた。

しかし、この前年の09年にカニエはMTVのVMA授賞式で「女性アーティスト部門最優秀ビデオ賞」を受賞したテイラー・スウィフトのスピーチの壇上に乱入し、マイクを強奪するとビヨンセのビデオの方が優れていたと自説をふりかざすという暴挙を犯し、空前のメディア・バッシングを受けることになる。カニエはテイラーへの謝罪を表明するとツアーを中止、世間から姿を消し、引き籠ってひたすらアルバム制作に励むことになる。

その内実がこの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』へと結実するのだが、それは歌詞的には自己言及となって錯綜しながらも、なぜ自分はモンスターと化してしまったのかという問いを、さまざまな心象や自分を取り囲む状況などをかきわけながら投げかけていくという圧倒的な内容となった。

それまではスタジオで閃いた歌詞をレコーディングでとりまとめていたのが、このアルバムでは初めてすべての歌詞をあらかじめ原稿化し、緻密に作り上げたことで、燃え上がるほどの自分の心情とその思いの丈、さらには冷徹な洞察力が混然一体となり、とてつもない激情と類稀な視野を同時に打ち出す世界観を生み出してみせたのだ。
 
さらにサウンドもブラック・ミュージックの歴史全体を思わせるような厚みを持ちつつ、さらにロックやインディ・ロックも呑み込んだモダン・ミュージックの坩堝となり、カニエの才能と資質の総力戦ともいえる壮絶な作品となった。その最たるものがファースト・シングル“パワー”で、ゴスペルとヒップホップがどこまでもラディカルにマッシュアップされ、そこにさらにキング・クリムゾンの“21世紀のスキッツォイド・マン”のサンプリングが炸裂するこの内容を初めて聴いた時の衝撃は今も鮮明に蘇ってくる。

驚異的なのはこの異常なテンションが全編にわたって維持されていることで、これはその後の作品にも受け継がれていくことにもなる。このサウンド、そして人種差別、経済格差、物欲、虚栄心、愛、憎悪などをすべて自分の問題として歌ってみせたカニエの尋常ならざる表現はまさにルネッサンス・マンとしか言いようのないもので、今も古びることなく、まったく輝きを失っていない。(高見展)
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